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今日も幸せレイリタ日和。
2025/04/21 (Mon)10:02
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2011/05/03 (Tue)21:09

舞茸生存ifです。

色々と注意があるので心して読んでください。



※注意

・レイリタ前提

・なのにものすごいアレシュヴァ臭(管理人の中ではコンビです)

・かと思いきやオリキャラ(♀)とのCP臭も凄い(管理人の中ではコンビです)

・上記のオリキャラが相当なご都合キャラ

・PTinはしない

・長いので3つに分けてます

・完全嘘のオリジナル設定が出てきます

・もはや誰得





了承できた方はどうぞ行ってらっしゃいませ!


 Lost sky(1)


 太古の昔から続いて来た結界が消え、星喰みが空を覆ってから約2か月。日に日に暗くなっていく空の下の地上では、不安に苛まれながらもまだ多くの人間がいつも通りの生活を送っていた。
 その空と地上の間を移動しているのは、始祖の隷長に飲み込まれ、太古からの教えを守ってきていたクリティア族の故郷ミョルゾ、そして、星喰みを倒すべく旅を続ける凛々の明星一行が乗ったフィエルティア号とそれを運ぶ始祖の隷長バウルである。
 ただし、現在一行は現在ユルゾレア大陸南、ニフル湖(湖といっても今は干上がった土地が広がるだけである)そばの平地に着陸し、探索していた。ソーサラーリングのレベルを上げられるエアルクレーネの気配を、上空からジュディスが感じ取ったからだ。
「空の上からだけでははっきりとした場所までは特定できないわ、歩いて探しましょ」
 最近船での移動が続き、魔物との戦闘がめっきり減っていたためか、やけに嬉しそうに彼女は武器を持ちながらそう提案した。「だな」とこれまた嬉しそうに応じたのはユーリで、結局一同がそれに倣うことになったのである。

 

「おや?」
 前線でユーリとジュディスが実に楽しそうにヴェノミーズを狩っている間、後方、つまりこちら側にすり抜けてこようとしていた一体の牽制だけを弓矢で行っていたレイヴンが、不意に声を上げた。
「どうしたのよ」
 隣でファイヤーボールを放ち終えたリタが、その声に反応する。見るとレイヴンは前線でもリタでもないあさっての方向を向いており、リタの問いかけに対してある一点を指差した。
「あそこの森、煙が上がってる」
 その方向をリタも見てみるが、すぐにはレイヴンの言う煙は認識できなかった。ただ、よく目を凝らして見ると、確かに緑の木々の中から一本灰色の筋が上っているように見えなくもない。
「あんなのよく気付いたわね、おっさんのくせに」
「酷いリタっち! おっさんこれでも目はいいのよ!?」
 普段は自分自身を年寄り扱いするレイヴンだが、弓使いというだけあって視力には自信を持っているらしい。というか実際、このパーティの中でも相当目はいいのだろう、そうでなくては困る。
「なんでしょう? 火事……ってわけでもなさそうですけど……」
「物好きな旅人でもおるのかのう? この辺りは町も村もないと言うのに」
 2人の近くで補助術を繰り出していたエステルとパティもその会話に気付いて、同じ方向を見つめていた。
(しまった、こりゃ余計なモン見つけちまったかね)
 後者はともかく、気になってしょうがないと言わんばかりの前者の表情を見ながら、レイヴンは胸中で人知れず後悔した。この様子だと戦闘が終わった途端様子だけでも見に行こうと提案しそうだ。どうせエアルクレーネはまだ見つかっていないのだし、面倒だから嫌だと言う自分の意見は確実に却下されるだろう。主に某騎士団長に。
 まあ、ひょっとしたらエアルクレーネの情報が得られるかもしれないし行ってみるのもいいかもしれない、やっぱり面倒だが。
 「はあ」と一つため息をついて視線を前線に戻すと、最後の一体となったヴェノミーズがユーリとフレンから繰り出された2本の剣と上空からのジュディスの槍によって丁度串刺しにされたところだった。

 

 案の定、戦闘を終えた一行はレイヴンが見つけた煙の方向へと進路を変更していた。先程より近づいて分かったことは、煙が相変わらず一筋のままなので火事の類ではないこと、そして出どころの目前に来て分かったことは、それが物好きな旅人の焚き火などではなく一軒の家の煙突から上っていることである。
「こんなところに……家……?」
 村でもなく街でもなく、たった一軒の民家がこの辺鄙な土地にあることに誰からともなく声が上がる。しかも煙突から煙が上がっているということは現在進行形で人間が生活しているということだ。庭先にも整然と木柵が並んでいて、きちんと手入れされた家庭菜園が様々な作物を実らせている。
「結界もないのに、どうして……」
「きっとあの木のおかげね」
 首を傾げるカロルに、腕組みをしたリタが庭の隅にある大木を顎で示しながら答える。
「『ユルゾオオクヌギ……霧の多いユルゾレア大陸にのみに生息する落葉樹。人間には感知できない特殊な匂いを発し魔物を寄せ付けない性質を持つ。また、その実は旅人用のテントや簡易結界、更にはホーリィボトルの原料にも使われる』ですね」
「ええ。あたし達が普段使うテントなんかの原料になる分はユウマンジュのあたりで生産してるらしいわ。ただし、こんな風に大地に根を張った状態なら生命エネルギーも匂いと一緒に発するから、切り倒されない限りはずっと魔物から守ってくれるの。
 まあ、結界魔導器が大きな町に普及する前はこの木材や実を結界代わりにしてたから伐採が進んでしまって、今となっては自生してる個体の方が少なくなってるけど」
 博識なエステルとリタの解説に『へぇ~』と感心する一同。
「この木がどこにでもあれば、結界がなくなっても安心なのにねぇ」
 続いて頭の後ろで腕を組みながらレイヴンが呟けば、エステルが残念そうに首を横に振る。
「『かつて比較的気候の近いイリキア大陸北東部への植樹も試みたが、ことごとく失敗。他の地域への適応も難しいと考えられる』と私の読んだ本には書いてありました」
「根性のねぇ木だな。住めば都って言うじゃねーか」
「ユーリ、木に人間の価値観を押し付けても何もならないよ」
 ユーリの冗談に生真面目な言葉をフレンが返す。その時、家の玄関の扉が開き、住人と思しき人間が1人出てきた。
『あ……』
「あら……?」
 お互いが存在に気付き声を上げたのはほぼ同時だった。
 出てきたのは20代後半くらいのエプロン姿の女性。菜園の収穫でもするところだったのか大きなかごを抱え、長い亜麻色の髪には日よけ用の三角巾を巻いている。
 彼女は一瞬驚いたように立ち止まったが、すぐに笑顔になると真っ直ぐにこちらへと歩いてくる。
「ごきげんよう。こんなところにお客さんとは珍しいですね……ひょっとして、私に何か御用ですか?」
 柵を挟んで立ち止まった女性は首を傾げそう尋ねてくる。
「ええお嬢さん、実はあなたのような美しい女性とめぐり合う為に――いででっ」
 美しいことこの上ないその容姿と仕草に早速レイヴンが口説きにかかろうとしたところを、リタとジュディスが両足を踏みつけることによって阻止する。
「驚かせて申し訳ありません。私の名はフレン・シーフォ。私達は旅の者で、この辺りのエアルクレーネを探していたら森の中から煙が上がっているのを見かけ、様子を見に来たんです」
「あ、私はリーシャ・ローランドと言います。そうだったんですか……紛らわしくてすみません」
「いえ、あなたが謝ることではありませんよ」
 そして、レイヴンよりも遥かに適役なフレンが一歩前に出て事情を説明し始め、ついでにメンバー紹介をし始める。
「うぅ~、何すんのよ2人とも」
「黙れ色魔」
「酷っ!」
「駄目よおじさま、他人の女性に手を出しちゃ」
 リタの言葉はともかく、ジュディスの言葉に反応してレイヴンがもう一度リーシャと名乗った女性を見てみると、その左手にはエメラルドの指輪が輝いていた。それを確認するや否やがっくりとうなだれるレイヴン。
 そんな会話を余所に、他のメンバーは本来の会話を先に進めている。
「――それで、そのエアルクレーネというのは……?」
「簡単に言うと、エアルがまとまって噴出している場所のことです」
「この辺りで、そういった場所に心当たりはないかの?」
 フレンの解説とパティの問いに、リーシャはしばらく考え込むように黙ってから首を横に振る。
「すみません、ここに住み始めてから結構経ちますが、そのような場所には……」
「そうですか……ありがとうございます」
 どうやら情報収集も空振りに終わったようだ。

「リーシャ、良ければ私も手伝おう」

 その時、家の中からもう一人の声が聞こえてきた。今度は男性の声で、よく通る力強いバリトン……それは、その場の凛々の明星の全員の記憶の琴線に触れ、見事に共鳴させる。
『なっ……!?』
 それは風化するにはまだ新しく、個人差はあるもののいずれの記憶に強烈に残っている男のもの……そうとしか聞こえなかった。
 リーシャよりも早く、一同が一斉に家の方へと目を向ける。少し遅れてそこから出てきたのは、やはり記憶と違わぬ人物。
「む、客人か。これは失礼した」
 いや、記憶から多少の変化はある。表情からはあの時の狂気が消え、厳格そうではあるが穏やかに笑っている様子からは優しさも感じられる。そして服装、重苦しい甲冑などではなくラフなシャツを纏い、しかしその右腕部分はひらひらとそよ風に舞っている。

「たい……しょ……」

 顔色を変え固まっていた一同の中で、最初に声を絞り出したのはレイヴンだった。
「あ……あんた……どういうことだよ……!?」
 続いてユーリがそう言葉を発すると、男の方も何か思い当たったのか急に切羽詰まったような顔になり、大股でこちらに歩み寄ってくる。
 見たところ武器は持っていないようだが、一同は思わず身構え、緊迫した空気が漂う。
 しかし――

「君達、私のことを知っているのか!?」

 それが、興奮した様子で庭先の柵を揺らしたかつての騎士団長――アレクセイ・ディノイアが放った言葉だった。

 

「すみません、普段2人でしか生活していないものですから……」
 家の入り口からすぐのキッチンに通され、ダイニングテーブルに着いたのはリーシャとエステル。他の部屋から持ってきた椅子に座ったのがユーリ、フレン、カロル、そしてパティ。なお、レイヴン、リタ、ジュディス、そしてラピードの3人と1匹は外の菜園でアレクセイと収穫作業を手伝っている。部屋の中に入りきらないと言うのも理由ではあるが、自分から言い出したあたり、彼らは彼らで思うところがあるのだろう。特にレイヴンは。
 ぼんやりとユーリがそんなことを考えていると、全員に紅茶を配り終えたリーシャが席に戻りながら話し始めた。
「私がこの辺りに住み始めたのは、10年ほど前からになります。主な食糧はご覧の通り自給自足なのですが、他の物資などは月に1回ノードポリカから来る定期便で運ばれてくるんです。でも2か月程前、丁度空に変なものが現れてからその定期便が来なくなってしまって……まあ、ご覧の通りまだ大きな不自由はないんですけどね」
 彼女の言う通り、紅茶に角砂糖が付いているくらいだから大丈夫なのだろう。本当は2つ欲しいところであるが。
「あの人――レクスを見つけたのは2か月前の定期便の次の日でした。ひょっとしたら来ているかもしれないと思って普段船着き場になっている砂浜に行ったら、酷いけがをしたレクスが倒れていたんです。その時にはもうあの人の右腕はありませんでした」
 話を聞いている面々の脳裏に、ザウデでの光景がよみがえる。失意の涙を流しながら、巨大魔核の下に消えたアレクセイ……だが実際は魔核が潰したのは右腕だけで、その後ザウデの崩壊か何かで海に転落、運よくここまで流れついた、そんなところだろうか。よくもまあ魔物の餌にならなかったものだ。
「手当はあなたが?」
「ええ。私、これでも治癒術が使えるんです。だからすぐに応急の術をかけて、物資用の荷台にあの人を乗せてここまで運んできてから本格的に治療することにしました」
 確かに、リーシャの袖から武醒魔導器らしきものがのぞいているのが見える。
「レクスが目を覚ましたのはそれから3日後、その時あの人が記憶をなくしていることに気付いたんです。名前も、身分も、何故あんな怪我をしていたのかも何も覚えていませんでした。レクスという名前は、最初あの人が着ていた服に残っていた名前らしき文字を繋げたものです」
「ふーん、なるほどねぇ」
 一通り経緯を聞いたところで、ユーリは相槌を打つ。そのやる気のない態度にフレンが抗議の視線を向けてくるが、気付かないことにして紅茶を啜った。
 ついでに他の3人の様子をうかがってみると、カロルは不安げな表情で外のアレクセイ達を眺め、エステルは心を痛めたような表情で外のアレクセイ達を眺め、パティに至っては憎しみに満ち満ちた目でアレクセイを睨みつけていた。
「あの、それであなた達はレクスのことをご存じなんですか……?」
 その様子を正面から見、先程の屋外でのやり取りも間近で見ていたリーシャが遂にそう切り出す。すると3人の顔が同時に戻り、しかし目は泳ぎまくりである。
(やれやれ……)
 本当なら、フレンもいることだし問答無用でしょっ引いて帝都の騎士団本部にでも放りこむところであるが、それを躊躇わせているのは直前にレイヴンが彼らに言った言葉。

「ホントのこと話すのはさ、勘弁してやってくんない?」

 そう言った彼の顔は笑っていたが、酷く悲しそうに見えた。勿論、その言葉には強制力も何もないし、本当のことを話したところで彼が文句を言ってくることはないだろう。だが、それを躊躇わせるほどの響きは確実のその言葉の中に含まれていた。
「おっさんは、ずるいのじゃ……」
 小さな小さな声で、隣のパティが呟いた。おそらく、この中の誰よりもアレクセイへの敵意は強いのだろう。その頭を撫でながら、ユーリはリーシャの問いに応えるべく口を開く。
「なに、昔ちっとばかし旅先で会ったことがある奴だったんだよ。確かヘリオードだっけなぁ? エステル」
「え? あ、はい! ヘリオードでユーリ達が騎士団に捕まりそうになった時に誤解を解いてくださったんですよ! ね、カロル?」
「う、うん。ダングレストが大きな魔物に襲われかけた時にも、追い払うのを手伝ってくれたんだ!」
 よし、大丈夫だ、嘘はついていない。
 後はヨームゲン跡かバクティオンかザウデぐらいしか思いつかないが、いずれも(例え無理をしても)褒められる事例はないので口に出さないでおこう。
 フレンが溜息をついているのが聞こえる。が、意外と彼も事実を言うのを思いとどまっているようで自ら真実の口を開こうとはしない。
「そうなんですか……じゃあ、旧知の方という訳ではないんですね」
「そ、そうだね」
 代表してカロルに答えさせておく。引き続き嘘はついていない。
 リーシャは当てが外れたというように残念そうな溜息をつく。どうやら本当にあの記憶喪失の中年の身を案じているようだ。
「それにしても、ヘリオードとダングレスト……ですか。最初服装から騎士の方かと思っていたのですが、ギルドの方なのかもしれませんね」
『………………』
 このリーシャという女性、なかなか鋭い。
「少し、聞いていいかの?」
 その時、大人しく口を閉ざしていたパティが顔を上げた。
「何かしら?」
「お主は、あのレクスとか言う男をどう思う? あの男をこれからどうするつもりなのじゃ?」
 いつもより低く、感情を押し殺したようなパティの声。リーシャもそれを感じ取ったのか少しだけ不思議そうに首を傾げながらも、「そうね」と少し考えてから話し始める。
「私の中では、レクスはとてもいい人です。体調が回復したらすぐにこの家のことを手伝ってくれるようになりましたし、私の夢を話したら協力したいとも言ってくれました。
 ……だから、あの人が望んでくれるならここにいてもらうのもいいと思っています。ただ、ずっとここにいるせいで記憶が取り戻せなかったらどうしよう、とも」
「そうか……うむ、そうじゃろうの」
 リーシャの返答に、パティの確固とした憎しみも揺らいでいるようだった。相槌を打ってまた俯いてしまったその頭に、ユーリは再度手を乗せる。
「ねぇ、リーシャさんの夢って何なの?」
 すると今度はカロルが彼女に質問する。〝夢″という単語に魅かれる年頃なのか、それとも単に気になったのかは分からないが、その目は先程より輝いている、
「この家の庭にあるユルゾオオクヌギのことは、皆さんご存知ですか?」
「ああ、さっき連れに聞いた」
「私はこの木の研究をしていて、他の気候帯への植樹の方法を探しているんです。そうすれば結界魔導器がなくても町が作れますし、今のような帝国への権力集中も緩和されるだろう……そう思って。
 まあ、私の夢、というより彼の夢だったんですけどね」
 そう言ったリーシャが左手の指輪に手を添えながら自分達の後方のある一点を見つめているのに気づいた一同は、誰からともなくそちらを振り向く。
 壁にかかったコルクボード、そこには何枚かの写真が貼られており、いずれにも今より少し若いリーシャと、青年が一緒に写っている。
「私の、恋人だった人です。数年前にある事件に巻き込まれて亡くなってしまいましたが……」
「ある事件……?」
 思わずおうむ返しに尋ねたのはエステル。だがすぐにしまった、と自分の無用な詮索に口元を押える。するとリーシャはそんなエステルを気遣うように「もう過ぎたことですから」と笑顔で先に添えてからその事件の名を口にした。

「ブラックホープ号事件……彼は、あの船に乗っていたんです」

 本日2度目の空気の氷結だった。

 

「レクスの旦那~、これくらいでい~い?」
「む、充分だ。ありとうレイヴン殿」
 レイヴンが採ったナスをかごで受け取りながらアレクセイが笑顔で礼を述べる。
「ん」
「はい、こっちも」
 その間にやって来たリタとジュディス。両者とも収穫した野菜を抱え、リタはぶっきらぼうにそれを突き出し、ジュディスはアレクセイのかごに自分の分を入れてからリタとかごを中継する。
「ああ、2人もありがとう。これで今日の分は大丈夫だ」
 だがアレクセイは気を悪くしたそぶりも見せず、2人にも変わらぬ笑顔を向ける。それを見たリタは「ふん」と鼻を鳴らして、庭の隅で日向ぼっこをしているラピードの方に行ってしまう。
「ごめんなさい、あの娘恥ずかしがり屋なの」
 そんなリタの様子をそう取り繕ったジュディスの顔も笑ってはいるが、目は明らかに笑っていない。それでもザウデの時に比べれば随分と隠している。
「気にしていない。こちらこそ、客人にこんなことを手伝わせてしまって申し訳ないな。ジュディス殿とレイヴン殿もどうぞ休んでいてくれ、私は他の作物に水をやってくる」
「あ、旦那、俺様も手伝うわよ」
 空っぽの服の右腕をふわりと浮かせながら身を翻すアレクセイの後を、レイヴンが付いていく。2人は菜園と家屋の間にある井戸に向かっていくようだった。
「まさか帝国騎士団の元No.1とNo.2がこんなところで呑気に農作業とはね」
 その後ろ姿を目で追いながら、ラピードの隣に腰を下ろしたリタが呆れたようにそう漏らした。ジュディスはそんな彼女の隣に歩み寄りながら、くすりと笑ってから答える。
「いいじゃない。なかなか見られる光景ではないわよ?」
「別にレア度なんて求めてないわよ、バカっぽい」
 ジュディスの言葉をそう切り捨てると、抱えた膝の上に顎を乗せる。
「おっさんもおっさんよ。記憶喪失とはいえ、何であんな奴とへらへら接してられる訳? さっさと騎士団にでも突き出せばいいじゃない」
「あら、そう思うのならあなたがすれば? 丁度後任の騎士団長も一緒にいることだし」
「う……あ、あたしは騎士団に突き出すよりは記憶が戻った時に自分で燃やしてやりたいから遠慮しとくわ」
「まあ、私と同じね」
「へ……ふぅん……」
 歯切れの悪いリタの様子にジュディスは再び頬を緩ませる。何だかんだ言って、彼女もレイヴンのことを心配していることは明らかだ。かつてのアレクセイが歩んできた道を知っている彼が、今のアレクセイの姿に何を感じているのかは分からない。だが、彼はどう見てもアレクセイをかばおうとしている。自分が道具のような扱いを受けたにもかかわらず、だ。それを知っているからこそ、リタもアレクセイへの直接攻撃を思いとどまり、こんなところでストレスを溜めているのだろう。
 ……丁度今日は自分が食事当番なので、夕食は甘めの味付けのメニューにして更にデザートを多めに出してやろう。他メンバーへの労いとレイヴンへの嫌がらせという面から一石二鳥だ。ジュディスは笑顔の裏でそんなことを考えながらリタの隣に腰を下ろす。
「ねえジュディス……あんたはどうしてこっちの方を選んだの?」
 片手でポンプを漕いで井戸の水をくみ上げるアレクセイと、吐水口の傍で水がいっぱいになったバケツと空のバケツを交換するレイヴンの様子を眺めたまま、リタは尋ねた。「こっち」というのは、家の中でリーシャと話をするのではなく外でアレクセイと一緒に菜園の仕事を手伝うこと、だろう。
「そうね……少し、歪んでなさそうな彼と話をしてみたかったから、かしら?」
 かつて父親から聞いたことがある、強く、誇り高い騎士団長の友人の話。それがあのアレクセイだということを信じることが出来なかった。だが、今の彼の様子を見ると本当にあの男のことだったのかもしれない……まだ不信感の方が強いが。
「リタは、おじさまのことが心配だったから……よね?」
「なっ……! バカッ、そんな訳ないじゃない」
 図星なのだろう、リタは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせていた。

 

 レイヴンはアレクセイと共に水の入ったバケツを菜園まで運び、それを少しずつジョウロに移し替えて菜園に撒き始めていた。リーシャとユーリ達が入っている家のある後方や、2人と1匹が控えている右方向から色々な視線も感じたりしつつ、である。
 とりあえずここまで話をしてみて分かったのは、アレクセイは2か月ほど前にこの近くの砂浜に打ち上げられているところをリーシャに拾われたらしいということ、世界や魔導器の知識に関してはそのままで、自分に関する記憶だけがすっぽりと抜けているらしいということ、そして助けてもらった上世話までしてもらっているせめてもの見返りとしてこの家での仕事と研究を手伝っているらしいということだ。
「レクスの旦那は、これからどうするつもり?」
 とりあえず2か月程外界との交通手段が遮断されていたことも踏まえ、レイヴンはそう尋ねた。まあ、自分達に付いてきたいと言われても正直困るのだが。
「しばらくは、この家にとどまろうと思う。恩を返す意味でも、リーシャの手伝いがしたいのでな。ここを出たところで行くあてなどないと言うのもあるが……」
「……そっか」
 行くあてどころか、記憶を取り戻したとしても彼にはもはや帰る場所もないのだが。そんな思いが頭をよぎり、曖昧な相槌しか返せない。
「ただ、リーシャが迷惑がっているのならすぐに出て行かなければとは思っている」
「ああ、それなら多分心配いらないと思うわ」
「そうか?」
「そうよ。だってリーシャちゃん、俺達がお前さんを見た時の反応見て少し不安そうな顔してたもの。ひょっとしたら、お前さんが連れて行かれるかもって思って不安になったんじゃない?」
「少し都合の良すぎる解釈ではないか?」
「いいからいいから、そう解釈しときなさいって」
「むぅ……」
 何とかアレクセイを言いくるめたところで、レイヴンは思わず目を細めた。
 どうやらこのアレクセイは記憶と一緒に自信もなくしてしまっているらしい。……もっとも、記憶がないのに自信を持てと言うのも無理な話だろうが。
 レイヴンが知っているのは、自信に満ち溢れた騎士団長の姿からだ。死から蘇ったダミュロンと話した時も、彼はやややつれてこそいたものの、自分の理想を熱く語り、空っぽのダミュロンに喝を入れようとしていたように思う。
 ただ、今のアレクセイの表情はあの時に比べると自信こそ感じられないものの、常に深く刻まれていた眉間の皺もなくずっと晴れやかで、騎士団長という立場で彼がいかに多くの物を背負っていたのかが改めて感じられた。その中には、何もしようとしなかったダミュロンや、シュヴァーンや、レイヴンも含まれている。
(そっとしといてやりたいってのがただのエゴだってのは分かってるけど……)
 何もかも全部背負い込んだ挙句狂った覇道を歩み、自ら招いてしまった世界の災厄。それを話せば、この男はおそらく記憶がないままでもその罪を背負おうとするだろう。その先にあるのは、ひたすら報われなかった彼にとって2度目の破滅だ。

「本当はな、君達が私のことを詳しく知らないようでほっとしている」

 考え込んでいたレイヴンの耳に、穏やかなアレクセイの言葉が入ってくる。
 ぎょっとして隣を見ると、水を撒きながら彼は苦笑していた。
「右腕はないし、身体には魔物ではなく人間に刃物で斬られた跡――どう考えても、まともな海への落ち方ではない。
 時々思うのだ。ひょっとしたら、自分はとんでもない大罪人ではないのではないか……とな。もしそうなら、私はもうこの家にはいられない、記憶はなくとも罪を償わなければならない……そう思ってしまってな。
 はは、どう見ても四十路は越えた男が、情けないものだ」
「………………」
 力なく笑うアレクセイの声と顔にどうしようもなく感情がこみあげそうになって、顔を伏せるレイヴン。強く握りしめた手が、ジョウロごと震えているのが分かる。
「おじさま、お疲れのようだから私が代わるわ」
 会話が聞こえていたのだろう、咄嗟にジュディスが歩み寄って来た。
「……悪いね」
 声が震えそうになるのを必死で押さえながら、レイヴンはジョウロを押し付けるようにジュディスに渡すと早足でリタとラピードがいる方へと去っていく。
「……私は、何か気を悪くするようなことを言ったのだろうか?」
「いいえ……ただ、彼の知人のことを思い出しただけだと思うわ」
「そう……か」
 アレクセイとジュディスは小声でそんな会話を交わしてから、水やりを再開する。
 一方、先程までジュディスがいたリタの隣に到着したレイヴンは、顔を見せないようにしながらその場に寝転び、左腕で自分の顔を覆う。
「ごめんリタっち、おっさんちっと昼寝するわ」
「……うん」
 レイヴンの言葉に何も言わず、リタは頷いた。完全に震えていた声にも、色が変わり始めた羽織の袖口にも気付かないふりをして、ただ偶然を装い彼の体の横に伸ばされたその右手にそっと自分の左手を添えた。

 

 その後、リーシャとアレクセイにひとまず別れを告げ再度エアルクレーネの捜索に出発した一行は、大陸北東部で小一時間後見事目標を発見、ソーサラーリングのレベルアップを成功させた。だがその過程も達成後も、過半数の顔色は優れぬままだ。
「いいか、お前ら心して聞けよ。特におっさん」
 バウルを呼んでフィエルティア号に再び乗り込み、一段落ついたところでユーリがそう切り出した。彼が向いているのはレイヴンをはじめとしたアレクセイと一緒に外で作業の手伝いをしていた面々だ。
「お、おうよ」
 レイヴン達もユーリ達のテンションの低さが非常に気にかかっていた為、すぐに耳を傾ける。

「あのリーシャってお姉さんの恋人……ブラックホープ号事件の犠牲者なんだとよ」

 それを聞いたレイヴン達も、ユーリ達同様凍りついたようだった。
「……え、ちょ……それホント……?」
 たっぷり5秒間の沈黙ののち、停止していた思考がようやく追いついたリタ。隣のジュディスも珍しく険しい表情を浮かべている。
 リーシャから直接話を聞いていたユーリ、そしてパティ達5人が黙ったまま頷く。

「助けた相手が恋人の仇……か。皮肉なもんね。リーシャちゃんにとっても、大将にとっても」

 もはや地平線の向こうにあるあの家の方向を眺めながら、静かにそう呟いたのはレイヴン。
「……それだけじゃないわ」
 次に口を開いたのはリタで、くるりとレイヴンを振り向くとその襟を掴み、突然声を張り上げる。
「あの男はね! 無茶な魔導器の使い方して、沢山人殺して、エステルもパティも苦しめて、ザウデ壊して、星喰みなんか復活させて!! 」
 そう、全てはアレクセイの自業自得。それなのに彼のことで心を痛めている様子のレイヴンに、遂にリタの感情が爆発する。
「全部全部あいつのせいじゃない! なのにどうしてあんな奴の心配するのよ!! あんただって酷い扱い受けて来たんでしょう!?」
 自分を見下ろすレイヴンの、驚いたような、困ったような顔――それが、滲む。
「どうしてよ……!!」
 どうして、自分は泣いているのだろう。とにかく腹立たしくて、悔しくて、辛くてしょうがない。

「どうして、記憶なくしたくらいであんないいヤツに見えるのよ……っ!」

 ザウデでのアレクセイと、つい数時間前のアレクセイが重ならない。割り切れない感情、認めたくない哀れみ……今日の今日までアレクセイに対する憎しみ以外の感情など感じたこともないリタにとっては、何もかもが理解不能だった。
 羽織の襟を握りしめたまま崩れ落ちるようにその場に膝を折ると、それに合わせてレイヴンもしゃがみこむ。
「ごめんね、リタっち……それに嬢ちゃんも、パティちゃんも、みんなも。ありがと、おっさんのひっどいお願い聞いてくれて」
 そして泣きじゃくるリタの頭を撫でながら、他の仲間達を見上げる。
「リタっちの言う通り、大将は……アレクセイはこの10年そりゃあもう極悪非道なことばっかやってきた。挙句の果てには星喰み蘇らせて、世界の危機を招いちまうとか、ね。
 でもね、あの人には多分、10年前から……いや、多分騎士団長になった時から心休まる間なんかなかったのよ。根強い貴族制度、評議会との軋轢、人魔戦争では自分の希望の光とまで思っていた特殊部隊が壊滅、苦労して助けた生き残りは不貞腐れたままただ言われたことをやるだけ……んでもって、トドメは評議会の手による2度目の特殊部隊壊滅」
 自分が知っている彼の半生を、レイヴンは努めて淡々と語った。それは、当時の自分も淡々と事実を受け止めていたからなのか、そうでもしないと自分が深く関わりながら彼を支えようともしなかった事実に気が滅入りそうになるからなのか、レイヴン自身にも分からなかった。
「だから、さ、何もかも忘れちまってる間くらい……ああいう穏やかな生活させてやんのもいいかなって思ってね」
 だが言葉にしてみると、改めて主観的な安っぽい同情でしかないことに気付き、自嘲する。
「レイヴンさんの考えは分かりました。ですが、例え記憶を失っていてもアレクセイが生きているとなれば騎士団として見過ごす訳にはいきません」
 そこで口を開いたのはフレン。治安を守る騎士団を取りまとめる者として至極真っ当な意見だ。心優しい姫君はその隣で「でも……」と何か言いかけようとしているが、他の仲間達も彼と同意見のようで、頷いたり、厳しい目をしながらこちらを見てくる。
「……うん、分かってる。あんまり長引かせてもリーシャちゃんにとって酷だしね。
 ま、記憶が戻るまでとは言わないから、せめて世界の危機が解決するまではそっとしておいてやってくんない?
 どうせ今騎士団も忙しくて、あんな重罪人の処遇考えんのも大変でしょ。それに、今の内にあの2人の研究が進めば今後の世界にとってもプラスになるんでない?」
 どうにかこうにか理由をつけて、〝レクス″の時間を守ろうとしている自分はやはり偽善者ですらないエゴイストなのだろう。頭の片隅でそう思った。

 

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・レイリタ
ちなみに管理人はチキンなのでリンクフリー。
でもご一報いただけると喜んで貼り返します(ぇ
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