アンケートに票が集まっていて嬉しい今日この頃です。
ただシチュエーション等の要望がまだ1つも来ていないので
映画ネタで一本書いてみました。
CP要素はないです。
映画ネタバレありますのでご注意。
Stay Old Man, Stay
「ふぁ~あ……今日は外が気持ちいいわねぇ」
「ワフゥ……」
「こんな日はのんびりひなたぼっこって言うジジ臭いことするに限るわ」
「ワン」
「……ユーリ、ラピードは子ども好きなんですよね?」
エステルが不意に紡いできた問いに、ユーリは思わず「は?」と間抜けな声を上げながら彼女を見た。当のエステルはどこか別の場所を見ていて――視線を追うと窓の外、甲板で日光浴をしているレイヴンとラピードが見えた。
「その割にはラピード、レイヴンと一緒にいることが多いような気がします」
レイヴンが1番年上なのに、と続けるエステルは何となくつまらなさそうであった。
「そんなの、あのおっさんの中身がまだガキだからでしょ」
そう答えたのはユーリではなく、エステルの隣で彼女が埋めたコレクター図鑑のチェックをしていたリタだ。
「てゆーかエステル、あんたまさか妬いてる?」
そして続いた言葉に、エステルは慌てたように首を横に振る。
「ちっ、違いますよ! ただ、少し不思議に思っただけです!!」
仲間内で最もラピードに懐かれていない(と、本人は思っているらしい)エステルとしては、やはり腑に落ちない部分があるのだろう。
(単にベタベタされるのが嫌なだけなんだがなぁ……)
ユーリがそんなことを考えていると、今度はカロルが話に入ってきた。
「ラピードのお父さんって騎士団の軍用犬だったんだよね? ひょっとして、レイヴンからお父さんの匂いでも嗅ぎ取ったのかな?」
「それもまあ……あり得ない話じゃねぇけど」
ユーリの知っている限り、ラピードの父のランバートはずっとナイレン隊にいたはずだ。それにシュヴァーンは当時からギルドの潜入活動を行っていたのか、騎士団では見かけたことがなかった。その上で別の隊の軍用犬と接触していたとも考えにくい。
「それとも――」
次に口を開いたのはジュディス。
「また裏切らないように見張ってるのかしらね?」
さらっとブラックなことを吐いた彼女は、凍りかけた空気を見計らって「冗談よ」と付け足す。本当か?
「はぁ……」
ため息をひとつ吐いて、ユーリは再び甲板の1人と1匹を眺める。
船の縁にもたれかかってうたた寝を始めているレイヴンと、その隣に伏せてあくびをするラピード。なんとも微笑ましい光景だ。
正直ユーリとしても、ラピードが自分やフレン以外の大人(女性は除く)に懐いているのを見るのは新鮮であった。最初は疑問に感じていたのだが――今、彼らの境遇を考えると納得できないことでもない。
「……あれは多分、つなぎ止めてるんだよ」
――夜は嫌いだ。特に、見張りを任された夜や寝付きの悪い夜は。
ほんの少し前なら、何も考えなくていい時間として、空っぽに戻れる時間として、何の憂いもなく過ごすことができた。だが意志を取り戻した今となっては、どうしても余計なことばかり考えてしまう。
どうして自分は生きている? 贋物の心臓にすがりつく醜い生に何の意味がある? 1度は?仲間″を裏切り道連れにまでしようとした自分が、彼らの中にまだいることが許されるのか?
きっと、昼間に仲間の誰かに尋ねればすぐに否定してくれる、叱ってくれる。それが分かっているから、昼間にそんな考えは浮かばない。だが今こうして1人でいると次から次へとこうして浮かんでくるのは、やっぱり誰よりも自分が納得できていないから。
服越しに、硬い心臓に手を当てる。自分の命の源である筈なのに、そこには何のぬくもりもない。無機質な感触と機械的な鼓動――それが、この命のすべてだ。
小刀を抜いて、刃先を軽く突き刺し、滑らせる。
普通の人間ならありえない、キチキチと金属がこすれる音がした。
普通の人間ならあるはずの、痛みも流血も起こらなかった。
「…………っ!!」
そこで膨れ上がる、死への願望――
小刀を1度身体から大きく離して、己の左胸に狙いを定める。
これを突き立てることができれば、人と同じ死が与えられる。この呪われた心臓とも、非生物的な生ともおさらば……。
そして勢いよく、小刀を振り下ろす。
ガシッ
だが急に、その腕がつっかえた。何かが袖を掴んでいる。
「……わんこ?」
いつの間に寄って来ていたのだろう、ラピードが羽織の袖を加え、彼の腕を止めていた。
「グルルルルルルゥ……」
こちらを睨みながら唸り声を上げるラピードは、まるで――
「おっさんを、叱ってくれるのかい?」
尋ねてみると、袖をぐいっと更に引っ張られた。続いて腕から力を抜くとラピードも袖を解放し、小刀を握ったままの手がパタリと膝の上に落ちる。
「ウ~……ワン」
他の仲間達が起きないよう配慮しているのか控えめにひと吠えして、引き続きこちらを見据えてくる。苦笑して小刀を鞘に納めてから、そんなラピードに手を伸ばした。
「ありがとね、わんこ」
だがラピードは即座にあさっての方向を向いてしまい、その頭に乗せようとした手は宙を泳ぐだけ。
「あり?」
レイヴンがぽかんとしている間に、ラピードは背中を向けて魔物警戒用の焚き火を挟んだ向こう側に移動し、伏せる。
「あっはははははは……つれないねぇ」
行き場を失った手を額に当て、思わず笑い声をあげてしまった。
「自業自得、だろ?」
突如後方から聞こえた声と足音にびくりと身を震わせ、慌てて振り返ると、眠そうにあくびをしながらユーリが歩み寄って来ていた。
「ちょ……何よ青年、見てたのォ~?」
「まぁな。ったく、ラピードにまで世話掛けさせんなよ、迷惑なおっさんだな」
気まずそうに顔を引きつらせるレイヴンには構わず、彼はそう言うとその隣に座る。
「うぅ……面目ないです」
言い返せず身を竦めると、ユーリから笑いが漏れる。
「ははっ。ま、ラピードにまで見張られてちゃそう簡単に自殺もできねーだろ、諦めろ」
「……そうね」
彼の言葉にそう相槌を打って、じっと目を閉じているラピードを見つめる。
「本当に賢いわんこだわ……最初は騎士団の匂いでも嗅ぎつけられたのかと思ってひやひやしてたんだけど、シュヴァーンと戦ってからもまだ傍にいるし――嗅ぎつけられてたのは、死臭だったみたいね」
「……かもな」
馬鹿にされるだろうと思っていた発言を、ユーリが否定しなかった。少し驚いて視線を向けると、彼もまたラピードを見つめていた。
「……こいつは、自分のいないところで父親にも飼い主にも死なれちまってるからな……だから余計嫌なんだろうよ、自分が見ていない内に、おっさんが馬鹿なことすんのが」
……ああ、そうだったな。ラピードの親は確か――
「ナイレン隊長……か。立派な人だったよね、シュヴァーンと違ってさ」
「ん? 知ってるのか……ってまあ当然か」
「まぁね」
それに、シゾンタニアでの事件も一応目撃している。そう言えば、あの時酒場で暴れていたのはこの青年だったな。……軍用犬たちに手を掛けたのも、ナイレンの最期に立ち会ったのも――辛かったのは、この青年とて同じだろうに。
「――そうよね、ここまで愛されてて死にたがるって方が野暮よねぇ」
「……前半に若干キモい言葉が入ってた気がするが、まあ分かったんなら許してやるよ」
「はっは、そりゃどーも」
本当に何やってんだか。わんこにまで引き留められるほど、どうやらちゃんと生きちまってるんだな、俺は。
「も少し、ガンバってみるわ」
今度は、ちゃんと自分で止められるように……も少しこのバカみたいな、それでいてみんなが引き留めてくれている命を大切にしてみよう。
「あれ、よく考えたらおっさん、わんこに『待て』食らわされたのよね……?」
「言っとくけど、『よし』はないからな」
ラピードがよくおっさんと一緒にいるのはどうしてだろうと思って一生懸命妄想力想像力を働かせてみた。
若干捏造が入りました。
あんなところに行ってたらおっさん心臓爆発しちゃうよ!!
ところでナイレン隊長のところがフェドロック隊なのに、どうしておっさんのところはシュヴァーン隊なの? オルトレイン隊じゃないの? 馬鹿なの? 死ぬの?
そもそも「ファーストネーム+隊長」っておかしいよね!! 銭形警部が幸一警部って呼ばれてるようなもんだよ!!
ぽちっとお願いしますm(_ _)m