鳥居様のリクエスト、「リタから何か(キスetc.)を仕掛ける」シュヴァリタです。
「prime number」を読んで頂いてのリクということで、後日談的な感じで描こうとしましたが見事に玉砕した感が否めません。すみません。
調子に乗ってリタっちに色々仕掛けさせ過ぎて(やらしい意味じゃないよ!)よく分からなくなってきました……。
花より儚いあんたにも
「ねぇ、シュヴァーンは何か食べないの?」
わたあめを口に付けながら、リタがこちらを見上げてくる。
「いや、食べたいには食べたいんだが……この辺は甘いものしか売ってない……」
甘い香りが漂うこのあたりを見回せば、連なったテントにはどれもリンゴ飴やアイスクリームの文字。目を凝らして見ると少し離れたところに焼きそばの幟が上がっているが、その点との前には人がごった返している。
「焼きそばもあんな様子だしな」
「じゃ、あたしが買ってくるわ。あんたはそこで待ってて」
遠慮の意志表示をしたはずなのに、リタはすぐにそう言って財布とわたあめを握りしめて駆けて行ってしまった。
「あ、ああ……」
困ったように相槌を打ち、しばらくその背中を見送ってから言われたとおり近くにあったベンチに向かい、その上に降り積もっていた花弁を払ってから座って待つ――って
(これじゃあ逆だろぉがァァァァァ!!)
その瞬間頭を抱え、心中で自分を罵倒したのは、果たして元騎士か道化か。
ハルルでは、毎年ハルルの木の満開時期の終わり頃にこうして出店が立ち並ぶ。
元々は町を守っているハルルの木への感謝を込めた祭りが起源だったそうだが、今では旅人やギルドの人間を観光目的で呼び寄せる材料になっている気がしないでもない。
彼らが訪れたのも、アスピオに精霊化の資料を取りに行く最中にカロルが今がちょうどその時期であることに気がついたからだ。カロルやパティ、そしてエステルの要望により一行は進路を変更し、こうして呑気な寄り道を満喫している……筈なのである。
ハルルに到着し、「それじゃあ自由行動で」とユーリが宣言した途端、カロルとパティは一目散に会場に駆けて行き、ユーリ本人もエステルの手を引いて行ってしまった。ジュディスは……いつも通りいつの間にかいなかった。
後に残ったのは、天才魔導少女と胡散臭い中年。
(……あいつらひょっとしてこれ狙ってたんじゃないでしょーね)
一応パーティに知れ渡っている(ただし公認ではない)恋仲の2人は、偶然とも誘導とも取れる2人っきりになってしまったのである。
「おっさん……」
リタを見ると、おなじみの赤い声でこちらを見上げて来ていた。
「い、一緒に回ってやってもいいわよ?」
そう言って自分の袖を握ってくる彼女に、レイヴンの頬が自然と緩む。
「あらら、それってデートのお誘い?」
「そっ、そうよ! せっかくあたしから言ってやったんだからありがたく受けなさいよね!!」
(……あれ?)
珍しく自分から認めたリタに驚いていると、続いて人差し指を鼻先に突きつけられた。
「その代わり! 今日はシュヴァーンでいなさい!!」
「はぁ!?」
(何なんだ、一体……)
訳が分からないままとりあえず下ろした髪が、花の香りを乗せた風に揺れる。
(まさか浮気……? いや、これ浮気って言うのか?)
相変わらず疑問符だらけの脳内からは、これといった答えは出てこない。
そもそも、リタがレイヴンからシュヴァーンに傾く要因が見当たらない。なにしろシュヴァーンは、一回りも二回りも年の離れた少女にあんなトラウマを植え付けた男だ。レイヴン共々叱られ続けているあたりからも、あちらより株が上とも思えない。おまけに今は、彼女に足労をさせている始末――
(分からん……まったくもって分からん……)
「何難しい顔してんのよ」
一人で悩んでいる内に、焼きそばを手に持ったリタが帰ってきた。並んでいる内に食べ終わってしまったのか、わたあめの代わりに焼きイカを持った彼女と目が合うと、シュヴァーンは「いや」と首を振る。
「何でもない」
「……あ、そ」
そしてリタは焼きそばのトレーと割り箸をこちらに差し出す。
「はい、これ。何か焼きイカもサービスしてもらったから、2人で食べましょ」
「ああ、ありがとう」
手を伸ばして受け取ると、リタもベンチに座るように促す。彼女は頷いてシュヴァーンの右隣に座ると、黙って身を寄せて来た。
「………………?」
本当にどうしたのだろう、今日の彼女は普段よりずっと積極的で、素直だ。
ただ、そんな彼女もやはり可愛らしくて嬉しくない訳がなかった。そっと頭を撫でてやると、恥ずかしそうに顔を伏せながらもいつもみたいにその手を振り払おうとはしない。
「早く食べなさいよ、冷めるわよ」
ぼそりと呟いて、自分は焼きイカを一口かじる。
とりあえず、人が変わった訳ではないようなので安心する。今は深く考えないでおこう。
「そうだな、では頂くこととしよう」
割り箸を割って左手に持ち、焼きそばを口に運ぶ。美味い。
自分で作るより屋台の物の方が美味なのは、フライパンと鉄板の違いによるものだろうか。……シチュエーションも多少なりとも貢献しているのも確かだろうが。
「美味しい?」
「ああ、美味いぞ」
リタに尋ねられたので、二口目を口に運びながら答える。
彼女は「そう」と返してからもしばらくじっとシュヴァーンを見上げ、彼が首をかしげた時再度口を開いた。
「一口……食べさせて」
「ん? ああ」
何だ、食べたかっただけか。と深く考えずにシュヴァーンは了承。だがすぐに今の状況を捉え直してみる――箸は彼が使っている一膳しかない。
つまり、これは……
(俗に言うあーんとか言うやつ……なのか……?)
だってリタは「食べさせて」と言っていたし、右手には焼きイカを持ったまま持ち替えようとせず、手をこちらに伸ばす気配もない。
レイヴンともしたことがないようなことを、目の前の少女は求めているとでも言うのか。
「いっ、嫌なら……いいわよ、別に」
シュヴァーンの硬直を拒絶と判断したのか、リタは乗り出そうとしていた身を引き戻す。
「あ、いや……そんなことはない。……ほら」
慌てて首を振り、箸で掴んだ焼きそばを彼女に近づける。
「……いただきます」
シュヴァーンの右肩に手を乗せて少し体重を掛けながらリタは再び身を乗り出し、ぱくり、とそれをくわえる。
焼きそばだけ口に残して箸を引いてやると、リタも元の体勢に戻ってもぐもぐと口を動かし、やがて飲み込む。
「なかなか美味しいわね」
リタが感想を述べるが、正直彼女の一連の動きに焼きそばだけではなく色々と持って行かれたシュヴァーンは怪しまれないようにそれとなく顔を隠しながらぎこちなく答える。
「そ、そうか……良かった」
おそらく彼女が今自分の右側に座っているのは、身を寄せても左利きの自分が焼きそばを食べる時の邪魔にならないための配慮だろう。……副産物って恐ろしい。
レイヴンなら今頃彼女を抱きしめた挙句焼かれているころだろうが――いや、レイヴン相手だとリタのあの行動自体がまずないような気もするが、生憎今の自分はシュヴァーンだ。スイッチの切り替えは多少鈍ってはいるが健在で、どんなに感情が高ぶろうが表には出さない……レイヴンほどは。
だが、ついこの間までは抑えることも容易だった感情が、今日はなかなか収束してくれない。
「はい、これ」
その時、苦悶を続けるシュヴァーンの顔の前に焼きイカが差しだされた。
「せっかくだから、こっちもあったかいうちに一口ぐらい食べときなさいよ」
それを持っているのは、当然リタ。
(……えーと、これはつまり……)
今度はシュヴァーンが食べさせてもらう番である。
「……それじゃあ……お言葉に甘えて……」
意を決して、彼女の食べかけのイカにゆっくり口を近づけ、弾力性のある身を一口かじりとる。
「ん……こっちも美味いな」
とりあえずそう言ってみるが、正直緊張しすぎて味なんて分かったものではなかった。
食事が終って、2人はしばらくそこに座ったまま他のメンバーは何をしているのかとか、ハルルの木の結界魔導器も精霊化させたらこの祭りはどうなるのだろうとか、他愛があったりなかったりする話をしていた。
そうしている内にやがて日が傾き、人はまばらになり出店も店じまいを始めた。そろそろ宿に集合する時間か、そんなことをシュヴァーンが考えていると、リタが立ち上がり、こちらを振り向く。
「もう少しハルルの木の傍まで行ってみない? しばらく満開の光景は見納めみたいだし……。
も、もちろん無理にとは言わないけど」
昼間は人が多くて塞がれていたハルルの木までの道も、今はすっかり開通している。
彼女にとっては満開のハルルの木というのはそう珍しいものではない筈だが――
(ああ……だが次の満開の時期には魔導器がなくなっているか……)
交わした会話の一部を思い出し、理由が何にせよ断るつもりは毛頭ないが「構わないぞ」と答えて自身も立ち上がる。
「待って」
しかしハルルの木に向かって歩き出そうとした時、他ならぬリタに止められる。
「ん?」
彼女を見ると、真っ赤な顔をしてこちらに手を差し出していた。
「……手……繋いで行きたい」
少女の熱い手を握って、シュヴァーンはその半歩ほど後ろをついて行く。
やはり、今日のリタはいつもと違う。シュヴァーンでいることを求めてきたり、ツンツンしながらも妙に気を回してくれたり……。何かあったのだろうか。
どうしようもなく気になるのに、まだ聞くべきタイミングではないような気がする。実際、最初にシュヴァーンになれと言われた時は理由を聞いても教えてくれなかった。
(まさか、本当に浮気じゃないだろうな……)
混乱しきった頭に浮かぶのは、あり得ない理由ばかり。
……ただ、そんなことは絶対にあってほしくない。
――レイヴンが誰よりも嫌っている奴に、この娘を取られるなんて……。
「近くで見ても綺麗ね、やっぱり」
人っ子一人いない木のすぐ傍まで到着し、リタは花が咲き乱れる枝を見上げながら呟いた。
シュヴァーンもつられるようにして見上げてみると、淡いピンク色の花が結界の輪の光を受け、闇をまとい始めた空に明るく浮かび上がって見える。そう言えば、東方のある国ではこのハルルの木に似た植物の花を夜に見て楽しむ習慣があるらしい。今のハルルの木を見ていると、その理由が分かるような気がした。
そうしている間にも、ハルルの花弁は次から次へと散ってゆく。先ほどまでいたベンチ周辺よりもっと多くの花弁が、2人の周りで舞っていた。
「あ……」
そのうちの1枚がリタの頭に降りたのでつまみ上げてやる。
するとその手をリタに掴まれた。そのまま彼女は腕を下ろし、もう片方の手は元々繋いでいるため向き合って両手を繋ぐ形になる。
「ねぇ、シュヴァーン……」
その両手をぎゅっと握りしめながら、うつむいたリタが彼の名を呼んでくる。
「な、何だ……?」
ただならぬ雰囲気に緊張しつつ問い返すと、彼女は不安そうな顔でこちらを見上げて来た。
「今日……楽しかった?」
(は?)
質問の意味は分かるものの意図が分からず、胸中で素っ頓狂な声が上がる。
「もちろん……楽しかったが……?」
それでも素直に本心を述べると、リタは表情を少し明るくして聞き返してくる。
「ホントに? シュヴァーンでも楽しかった?」
「あ、ああ……」
そこでふと、ある考えが彼の脳裏に浮かんだ。
「リタ、俺の方からも質問があるんだが……」
「な、何?」
首をかしげて、その質問を促すリタ。
「……どうして今日はシュヴァーンでないといけなかったんだ?
ひょっとしてその質問と関係があるのか?」
尋ねてみると、リタは少しだけ驚いたように目を見開き、気まずそうに再び顔を伏せた。どうやら図星のようだ。
「……だっておっさん、まだシュヴァーンを否定してばかりだから……」
「……え、ちょ――」
ぼそりと呟いた後、シュヴァーンが言葉を紡ぐ前に彼女はキッと鋭い目をこちらに向け、いつもの凛とした口調で告げる。
「これで、生き返った後のシュヴァーンにも楽しい思い出が出来たでしょ!?
だからもうシュヴァーンの否定ばっかしないこと! いいわね!!
シュヴァーンもレイヴンも、あたしがまとめて面倒見てやるんだから!!」
「………………」
「返事は!?」
その言葉にただ呆然とリタを見下ろすだけのシュヴァーンに、彼女は迫る。
リタは全部彼のためにやったのだ。レイヴンにシュヴァーンを克服させるために、シュヴァーンに自身の存在を許させるために……。
そうだ、この娘は彼自身よりも先に、彼のことを受け入れていた。彼のことを大切にしてくれていた。……それが、レイヴンを愛することにもつながるから。
「いや、でも俺……シュヴァーンは――」
「だぁぁぁぁぁっ、もう! まだ言うかこのヘタレ!!」
それが分かってもなお駄々をこねる中年の襟首を、リタは痺れを切らしたかのようにむんずと掴み――
引き寄せて、彼の唇に口づけた。
「っ! さあっ、どう!? まだ駄目だって言うならこれ以上のこともしてあげるわよ!?」
2~3秒ほどしてから顔を離し、耳まで真っ赤にしたリタはとんでもない宣言する。
ただし、耳まで真っ赤になっているのは彼女だけではなかった。
「っ……!!」
手の甲で唇を押え、もはや放心状態のシュヴァーン。
まさか、彼女の方からキスを仕掛けてくるなんて……しかもこれ以上のことって――
「ちょっと! 聞いてるの!?」
返事がない彼に、リタが再び手を伸ばそうとする。
刹那、我に帰った彼はその手を取って素早く少女の身体を抱きこんだ。
「負けたよ……リタには敵わない。
……ありがとう、今日は本当に楽しかった」
自分を楽しませようと精一杯尽くしてくれた少女に、称賛と感謝の言葉を贈る。
「今日の思い出を、俺ごと否定するなんて芸当レイヴンには出来ない……君の勝ちだ」
そして「だからそれ以上のことは、おっさんのために取っといてちょーだい」と耳元で囁くと、次の瞬間に殴り飛ばされていた。
――花より儚いあんたにも……――
「生きてる思い出ぎっしり詰め込んでやるわ」
「もう……いっぱいいっぱいです……」
傍から見ればただのバカップルだった!!\(^p^)/
盆踊りを知らない連中(スキット参照)に出店の焼きそばや焼きイカなんぞわかるわけがないと思いますが、そこらへんは大目に見てくださいorz
鳥居様リクエストありがとうございました!!
こんなんでよければ是非お持ち帰りください。
ぽちっとお願いしますm(_ _)m