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今日も幸せレイリタ日和。
2025/04/21 (Mon)12:09
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2010/03/31 (Wed)02:19
月魚様のリクエスト、レイリタで「ED後心臓魔導器を狙われ攫われるレイヴン、を助ける」お話……なん……ですが……。

気がついたら長編並みに長くなっていました。おそらくウチのサイトにある現パロ以外の中では上位3位には入るかと……orz
気づいたころには半分ほど書いてしまっていたのでそのままの勢いで書き上げてしまいました。

何かすみません、とりあえずすみません。

でも一番びっくりしてるのは管理人だよ!!


※一応注意

・温いですが暴力・流血表現があります。

・モブが出しゃばり気味です。

・しかも1人には名前がついてます。

・EDから1年後・同居設定。

・長いです。


異常以上が了承できる方は続きからどうぞー。

Phantom of the insanity


 買い物のために一人で街を歩いていた、それだけだった。
 人類が魔導器を捨てて1年、結界に変わる魔物対策の整備が進み、流通システムも充実を見せ、一時は活気を失っていた市場もいつしか人と物が戻ってくるようになっていた。
 その復興に甚大なる貢献を果たしたのは、とある天才魔導少女――かつての彼の仲間であり、そして今や彼の恋人。だから、こうして街を歩くだけで可愛い彼女の努力が報われていることに嬉しくなる。
 1年以上前にはあり得なかった浮かれた気持ちで買い物袋を抱え、レイヴンは雑踏の中を歩いていく。
 そんな中、すれ違いざまに通行人の男と目があった。その瞬間は何も感じなかったが、やや遅れてその顔が記憶の琴線に触れる。
(……あいつは……)
 立ち止まって振り向こうとした瞬間、背後で膨れ上がった殺気にその動きを止める。

「お久しぶりです、シュヴァーン隊長」

 その男も、すれ違ったその場で止まってこちらを振り向いて来ていた。20代後半ほどの一見好青年の彼は笑顔を浮かべているが、その瞳に宿っているものは憎しみ――
 間違いない、アレクセイ時代の親衛隊で小隊長をやっていた男だ。
「シェロン……!」
「覚えていてくださいましたか、光栄です」
 にっこりと笑った彼から放たれる殺気は、しかし収まる気配がない。
「………………!!」
 背中に硬いものが触れている、視線だけ動かして見てみると、他人に悟られないよう身体で隠しながら彼がレイヴンに突きつけているのは、短剣。
 ツゥッ……と、こめかみから顎にかけて冷たい汗が一筋流れる。
「……何のつもりよ。親衛隊の生き残りが、今更アレクセイの仇打ち?」
 ここで騒ぎを起こすのは得策ではないし、抵抗するにしろ今自分は両手が塞がっていて完全に不利である。動揺の素振りを見せず、レイヴンは口角を上げてみせる。
「他の親衛隊の連中はとっくの昔に目ぇ覚まして、帝国の再建に尽力してるってぇのに」
「……そうですね、愚かなことです。
 あの方がおられない帝国など、もはや何の価値もないというのに……」
 彼の挑発に、シェロンは乗ることなく、むしろ嘲るようにわざとらしく首を振った。

 あの方というのは、アレクセイのことだろう。没落貴族出身のこの男は、貴族からも平民からも疎ましがられていたところをアレクセイに重用され、彼を崇拝していた。いわゆる盲目的信者というやつである。
 アレクセイが、本来仕えるべき姫君であるエステリーゼを誘拐し、ザウデを復活させ、そして星喰みを呼び寄せたことを知ってもなお、彼の理想を信じ代行を試みる親衛隊の生き残り。

(ほとんどは騎士団やギルドに喧嘩吹っ掛けて返り討ちにあった挙句逮捕されたはずなのに……まだこいつが残ってたか……)
 レイヴンが知っている中で、このシェロンという男は特にアレクセイへの忠誠心が強かったはずだ。そして、知能も剣の腕も――
「さて、先ほどの質問の答えですが……」
 気を取り直したようにシェロンは咳払いをひとつすると、レイヴンの背中に突きつけていた短剣の先を、そこを覆う羽織に突き刺した。
「っ!」
「確かに私はあの方を裏切ったあなたを恨んでいます。あの方を貶めておきながら、のうのうとあの方に与えられた生を享受しているあなたを……ですが、今はまだ殺しません」
 布を貫いた剣先は、皮膚にも到達していた。鋭い痛みが背中に走り、じわり、とインナーに温かいものが広がっていく。
 その感覚に顔を顰めながらも、レイヴンはシェロンの言葉を頭の中で繰り返す。
(アレクセイに与えられた生……だと……!?)
「てめ……まさか……!!」
 アレクセイにとっては、親衛隊すら手駒に過ぎなかった……だから、彼らには知られていない筈だった。知っているのはレイヴンと旅をしていたメンバーと、バクティオンで彼を救出してくれた一部の部下だけだと、そう思っていた。
 ようやく動揺の色を見せたレイヴンに、シェロンの顔が面白そうに歪む。

「ええ……私の目的は、あなたの胸に埋め込まれているものです」

 今やこの世界に残った唯一の魔導器である、レイヴンの心臓――それがこの男の狙いだった。
「ザウデから引き上げる直前、アレクセイ閣下の研究資料を見る機会がありましてね……その中にあなたの心臓魔導器のことも書かれていましたよ」
「っは、残念だけどこいつはそう簡単に渡せるものじゃねぇんだわ……第一、お前さんに扱えるかねぇ」
「心配は御無用です。こちらとて優秀な魔導士は手配済み……世界最後の魔導器と聞いて、飛びついてこない魔導士はいませんからね」
 短剣を抉られ、背中の痛みと不快感が増していく。笑みから余裕がなくなって行くレイヴンと、笑みに黒をまとい始めたシェロンは睨みあう。
「ああ、それとも――」
 そう言って、シェロンが顔を寄せて来た。次の行動が予測できず、レイヴン身体を強張らせる。

「普段その魔導器を診ているお嬢さんをお連れしましょうか?」

 耳元で紡がれた言葉に、戦慄が走る。
 脳裏に浮かぶのは、今も家で必死に研究を続けているであろう少女。いつもまっすぐな瞳で彼を見つめ、死に焦がれていた自分をずっと繋ぎ止めてくれていた、健気でかわいらしい恋人。

「あの娘には……手を出すな……!!」

 遂に敵意を剥き出しにして唸るような声でそう言ったレイヴンに、しかしシェロンはニヤリと笑って、告げる。
「なら、大人しくついて来てもらいましょうか」
 そして彼に促されるまま、レイヴンは明るい表通りから暗い路地裏へと消えて行った。

 

 ――煩わしい。お前はまだ、俺の邪魔をするのか……――

 シュヴァーンという人間がこの状況の発端となったのは明らかだった。
 アレクセイに付き従っていたがために彼らの恨みを買い、アレクセイに蘇らされたがためにこの身を狙われた。レイヴンは幸せな毎日を送っていたというのに、全部ぶち壊したのはシュヴァーンだ。

 

 柱に縛りつけられた彼の腹部を、一人が蹴りつける。
「っぐぁ!」
 上げたくもないのに悲鳴が上がる。もう何度も殴られ、蹴られた身体は骨から軋み、あちこちから血がにじんでいる。
 黴臭いその部屋にいるのはシェロンの他に3人……いずれも、騎士団時代に親衛隊で見たことのある顔だ。

 彼らはとにかく、アレクセイの死をシュヴァーンのせいにしたいらしい。先に道を踏み外したのもはアレクセイで、結局その計画が世界の破滅をもたらしかけたということを信じようとはしない。ザウデのあの現場に立ち会っていない彼らにとって、騎士団の正式発表はアレクセイに罪をなすりつけるための陰謀にしか聞こえなかったのだ。そして憎しみの矛先が向いたのは、騎士団長の懐刀と称されながらその元を去り、今では安穏とした生活を送っている元隊長首席……まったくもって、いい迷惑だ。

「良い様ですね、シュヴァーン隊長……裏切り者にはお似合いだ」
「っは! 何度も言わせないでくれる? 俺様はレイヴンよ……シュヴァーンは、お前さんたちの大好きな騎士団長閣下が生き埋めにしたの」
 もはや誰に言われたのかも分からないまま、霞んだ目で声のした方を見上げながら鼻で笑ってやる。
 その行為が相手の頭に血を上らせるのは当然で、次の瞬間には別の方向から拳が飛んでくる。
「よくもそんなことを……閣下を見捨てておきながら……!!」
 「だから先に見捨てたのはあっちだっての」という言葉は、こみ上げてきた赤色混じりの胃液によって阻まれる。
「今はその辺にしておきましょう」
 そこで1番遠いところでその様子を眺めていたシェロンの声が響き、男達の動きがピタリとやんだ。
「シュヴァーン隊長をわざわざ生かしたまま拘束した目的は心臓魔導器の解析です。……いたぶるのは解析が終わるまで我慢してください」
『はっ』
 ここでもシェロンがリーダー格なのだろう。彼の言葉に3人は騎士団式の敬礼をし、レイヴンから離れて行く。
 ただ当のシェロンはゆっくりとレイヴンに歩み寄って来て、肩で息をしながら力なく頭垂れる彼の前髪を掴み、無理矢理上を向かせる。
「レイヴン……でしたか、そう言い張るあなたの強情さには心底感服します。
 ですが、どれだけあなたが否定しようと、あなたがシュヴァーン隊長であったという事実は消えないんですよ」
 シェロンがレイヴンの頭を揺すると、もうほとんど締まっていなかった髪紐がついに解け、縛られていた髪が重力に従ってぱさりと落ちる。
 それを見て、彼は満足そうに笑う。
「ねぇ、シュヴァーン隊長?」
「へっ……そんなにあいつに会いたいなら、地獄にでも逝けば? そしたら、あの騎士団長殿とも会えるはずよ?」
 尚も道化を保ち続け、レイヴンは嘲笑を返す。
 だがシェロンは他の元騎士たちとは違い顔色一つ変えず、笑みをたたえたままゆっくりとレイヴンの髪を放し――
「がぁっ……は……!!」
 他の元騎士たちよりもずっと重い拳を、彼の鳩尾に叩きこんだ。
「例の魔導士を呼びなさい。一刻も早く解析を進めましょう」
 何事もなかったかのように踵を返し、周りの男達に指示を出すその声を聞きながら、レイヴンの意識はフェードアウトして行った。

 

 目が覚めた時、レイヴンの視界には見覚えのある緑のパネルが浮かんでいた。
(こ……れは……)
 まだ朦朧とする意識の中でその正体を思い出そうとして、出て来たのは何度も刻まれた、幸せな時間の記憶。
 ああ、そうか。リタがいつも心臓魔導器を診てくれる時に展開する制御盤だ。
「こりゃすごい……生命エネルギーの消費、生産、そして循環のバランスを完璧に保ってる……」
 だが聞こえてくるのは聞き覚えのない男の声。パネルの上を走っているのも彼女のような小さくて細い指ではなく、大きくて骨ばった男の指。
 その光景と身体の激痛で思い出すのは、今の状況。そうだ、今自分は捕えられているんだ。
「あ、目が覚めたみたいですよ」
「構わん、続けろ」
「はいはい」
 顔を上げれば見知らぬ魔導士風の男が上機嫌でパネルをいじり、しきりに何かをノートに書き込んでいる。そしてその魔導士の向こう側には、おそらく見張り役だろう、先ほど自分を痛めつけていた男のうち1人が座り、剣を肩に立てかけながら眺めて来ていた。
「ようやくお目覚めですか。見てのとおり、もう解析は始めさせてもらってますよ」
 男はそう言うと、目覚めたレイヴンに一応警戒しているのだろう、剣に軽く手を掛ける。
「こんな回りくどいことせずに、さっさと剥ぎ取っちゃったらどう?」
「そんなこと出来る訳ないっしょ」
 寝起き早々皮肉って見せるレイヴンにそう答えたのは、その男ではなく相変わらず目を輝かせながら心臓魔導器を観察している魔導士。
「人体から取り外してもこの魔導器が再起動可能なのかどうか、人間の個体差にあった魔導器の取り付けに設定、身体能力への影響と負担……あんたに取り付けたまま調べなきゃならないことが沢山あるもんでね」
「そういうことです。こっちとしては、アレクセイ閣下が残した魔導器をみすみす駄目にしたくないんでね。隅々まで調べ上げて最大限に利用して俺達が世界を変える……それが、志半ばであんた達に殺された、閣下への手向け……」
「ハッ――」
 魔導士に続いて男が口にした狂信じみた発言に、レイヴンからは自然と嘲笑が上がる。そして彼が更なる罵声を発しようとした、その時――

 ――……っさんを…………くるし……る……は…………さない……!!――

(嘘……だろ……)
 それは、本当にかすかに聞こえて来た声だった。
 だが、決して空耳などではない。
 ……間違いない、あの強く、澄んだ声は――
「……おい」
 途端に、レイヴンを取り巻く空気が一変する。

「何で……リタがここにいる……」

 地の底から響くような唸り声――一瞬魔導士がびくりと身を震わせるが、男の方はニヤリと笑い「ああ、聞こえちまいましたか?」とわざとらしく肩をすくめて答える。
「あんたの魔導器を知り尽くしているのはあのリタ・モルディオだけだ……モルディオから研究資料を奪い、それから奴を消しちまえば、後々楽なんでね……」
「あの娘には……手を出すなと言ったはずだ」
「ハハハッ! 裏切り者の頼みなんざ誰が聞くかよ!!
 モルディオを殺して、その首をここに飾ってやる。あんたは、最高の絶望を味わわせながら殺してやる!」
 男の口角が更につりあがり、紡がれる言葉は狂っているとしか言いようがなかった。

 ――そう、何もかも狂ってしまっているのだ。あの日から、身の回りの全てが……。
 狂気を発生させた本人は、もうこの世にはいない。だが、10年間その中に身を置きながら1年前のあの日突然這い出した自分にはまだ、その狂気が付き纏っている。

(煩わしい……)

 死したはずのあの騎士が、捨てて来たはずのあの自分が、どこまでも邪魔をする……。

「っ! これは……!?」
 魔導士の悲鳴じみた声が、部屋に響く。
「どうした?」
「心臓魔導器の出力が急激に上がってる!!」
 彼の目の前の操作パネルは明滅を繰り返し始め、素人目からでも分かるほど異常な速度で、表示されている数値という数値が上昇し続けていた。
「これは……一体……?」

 ブチッ

 目を見張る2人の耳に、そんな音が入った。
 前方を見れば、柱の後ろに回されていた筈の目の前の男の手首が見えていた。床には大の男を縛るにしても大げさなくらい幾重にも巻いていたロープが、引きちぎられた状態で散乱している。
『え……?』
 2人が口を開いた次の瞬間、その姿は爆音と光に飲み込まれた。

 

「ようこそ、リタ・モルディオ嬢」
「おっさんを返して」
 2人の男に挟まれて部屋に入ってきた所を笑顔で出迎えたシェロンに対して何も答えず、リタは持ってきた資料の束を差し出した。
「これだけあれば心臓魔導器の再現も可能よ。さあ、言われたとおりにしたんだからおっさんを返して」

 日中に買い物に出たはずのレイヴンが、夕方になっても戻ってこない。
 しばらく迷ったものの探しに行こうと玄関を開けた瞬間、その扉が何かに当たる。そこには買い物袋とその中の物がぶちまけられていた。それらは全部、昼間レイヴンが買いに行っていた筈の物。
 冷たいものが、リタの背筋を走り抜ける。慌てて買い物袋を漁ってみると、入っていたのは1枚の紙切れ。それには、レイヴンを攫ったこと、そして彼の心臓魔導器の資料を持って夜明け前に町はずれの空き家に来るようにとの旨が書き込まれていた。
 それだけで全ての事情を理解したリタは、すぐに家中の資料をありったけ集め、そこから更に、今までは必要ないからと手を出していなかった心臓魔導器の再現方法の考案まで行ったのだ。

「おやおや、おかしいですね」
 リタの傍にいた男が、その紙束を受け取ってシェロンに投げる。だがそれをキャッチしたシェロンが指示通りにやって来た彼女に向けたのは、嘲笑にも似た笑み。
「資料を持ってくればシュヴァーン隊長を返すなんて、書いたつもりはありませんが?」
「っ!!」
 リタが、唇をかみしめる。
 罠であることは分かっていた。それでも、レイヴンを見捨てることなどできない。彼らの望みを叶えて少しでも生還の可能性を高め、それでも駄目なら最後まで足掻いて……殺された方がましだと、そこまで考えていた。
 しかし実際にこうもあっさり否定されると、怒りを覚えずにはいられない。
「天才魔導士とも呼ばれたあなたが、こんな初歩的な罠にのこのこ引っ掛かるとは……そんなに、あの裏切り者が大切ですか?」
「裏切り者ですって……!?」
「あなたもご存じでしょう? あの男はアレクセイ閣下に助けられながらあの方を裏切り、死に追い詰めた……帝国を、世界をあるべき姿に導いてくださる筈だったあの方を、シュヴァーン隊長は殺したのです、裏切り以外の何物でもない。
 ……そういえば、あなたも彼には一度裏切られていましたね……。ならば、その屈辱も無念も理解できるでしょう? あの男は、平気で人の信頼と期待を踏みにじるんですよ」

「……………!!
 ……あんたに……何が分かるのよ……!」

 更には終始シュヴァーンの〝悪行″の言及を続けるシェロンを、リタは拳を握りしめ、肩を震わせながら睨みつける。
「あんたに、あいつの何が分かるっていうの!? あいつが、アレクセイに利用されてどれだけ辛かったか、あたし達を裏切ってどれだけ悲しかったか、分かろうともしないで……まだあいつを苦しめようっていうの!?」
 彼女の目には、涙が浮かんでいた。武装した男3人に囲まれていることに対する恐怖などではない、大切な人を虐げられることに対する怒りによるものだ。

「おっさんをこれ以上苦しめる奴は、あたしが許さない!!」

 強く、澄んだ声で、リタは目の前の男達に告げる。
 しかし、男達に動揺の色は一切ない。
「大した意気込みですね。……しかしこの状況でどうするつもりです? 魔導器を自ら捨てた今、魔導士であるあなたにはもう戦う手段はない。
 一方の私達は騎士……例え魔導器がなくても、女性1人斬り捨てられる程度の武器と腕は持っています」
「………………」
 その言葉に、リタは沈黙する。現在は刃が連なった鞭を武器として隠し持ってはいるが、元騎士3人を相手に太刀打ちできるような代物ではないし、リタ自身の戦闘能力も格段に低い。
「くく、アレクセイ閣下を死に追いやった罪……あなたにも償ってもらいますよ」
 ただただこちらを睨みつけてくるリタをみたシェロンは喉の奥から笑い声を洩らし、他の2人への合図として腕を上げる……その時――

 バゴオォォンッ

 轟音と共に爆風が部屋を走り、一瞬よろめいてから彼はその発生源である背後を振り向いた。
「何事だ!?」
 あの男を閉じ込めている部屋の壁が、なくなっていた。その手前には先ほどの爆発で吹き飛ばされたのか、呼び寄せた魔導士と見張りに付けていた仲間が折り重なって倒れこんでいる。
 そして、塵や埃が舞い視界が利かないその部屋の中からゆっくりと現れたのは――

「おっ……さん……!!」

 リタはそう呼んだものの、戸惑ったようにその言葉が詰まる。
 服はボロボロで、身体のあちこちに血がにじみ、鬱血もしている。そして、下ろした髪に寄り顔の半分が隠れ、しかも見えている方の顔からも何の表情も読み取れないその姿はまるで――

(シュヴァーン……?)

「これは、迂闊でしたね……それもその魔導器の機能ですか?」
 その時、爆風から逃れるために身をかがめていたシェロンが立ち上がりながらそう言い、指を鳴らす。
 直後、リタは服を掴まれ後ろに引き寄せられた。
「おっと、そこまでです」
 こちらに踏み出してこようとしていたレイヴンを、彼は制した。
 首元に突きつけられた刃で、リタは逆に自分が人質となったことを悟る。

「……リタを離せ」

 再会しての第一声――だがその声音は低く、シェロン達よりもリタの方が戦慄を覚える。

「離してほしければ、大人しくその場に膝をついて、両手を頭の裏に回してください」
「お前達の交換条件はもうのまない。……もう1度言う、リタを離せ」
 毅然としたままの、2人の応酬。それを聞いて、リタの背筋がまた凍る。
 この男は何も感じないのだろうか、レイヴンの変化に……。それとも彼にとっては、こちらの方が本来の姿だから……?
 自分を捉えている男も、その隣に控えている男も、一切動揺の色を見せない。
「おっさん……」
 もう1度震える声でそう呼ぶと、シェロンに向いていた目が彼女を向いた。
「リタ」
 短く名前を呼び返して来た後、彼の唇が小さく動く。

 ――動くな――

 他の男達も、それには気づいていたのかもしれない。だが、おそらく彼らよりもずっと多くレイヴンと意思疎通を行っていたリタの反応の方が速かった。
 彼女が身体を硬直させた直後、肩のあたりが破れていたため通常より更に垂れ下がっていたレイヴンの左袖――それが、翻った。
「っつあぁっ!?」
 次の瞬間、リタを捉えていた男が悲鳴を上げ身体をのけぞらせた。乾いた音を立てて、彼が握っていた剣が落ちる。その手には、損壊した部屋の物と思しき木片が突き刺さっていた。
「リタ!」
 レイヴンが声を張り上げて名前を呼んでいる。
「走れ!!」
 しかし彼がそう続けるより速く、戦いの日々で鋭くなっていた戦闘本能がリタを彼の元へ走らせていた。同時に、レイヴンも彼女に向かって走り始める。
「させるか!」
 コンマ数秒遅れて、シェロン達が我に帰りリタを再び捕えるべく動き始める。
 それを気配で察知し武器を取ろうとしたリタの耳が次に捉えたのは、何かが空を切る音。
「ちぃっ!」
 男達の動きは、走り寄って来ながらレイヴンが投げる木片や金属片によってことごとく牽制されていた。
 見る見るうちにリタと彼との間の距離が縮まってゆき、どちらともなく手を伸ばす。
「リタ……!」
「おっさ――!!」
 もう1度レイヴンを呼ぼうとしたところで、伸ばした腕とは逆の腕に鋭い痛みが走った。顔を顰めて振り向くと、腕から溢れていたのは鮮血、そしてその更に後方には剣を振り抜いた体勢の男の姿。

 ……次の瞬間、すぐ前方にいるレイヴンが纏う空気が更に冷たくなる。

 伸ばした腕を掴まれ、ぐいっと痛いくらい力いっぱい引っぱられた。前につんのめりながらもリタはその勢いに従い、レイヴンの背後に隠される形となった。
 一瞬の間、彼の身体が死角を作り男達の姿が見えなくなる。そこで聞こえたのは、何かが人体に食い込む鈍い音と男の苦鳴。
「ここにいろ」
 それだけ言うと彼はリタが来た方向へと更に踏み出していく。やや距離を置いてから見えるようになったその手にはいつの間にか剣が握られており、彼が踏み越えた床には先ほどの男が床に伏していた。おそらく剣は彼から奪ったのだろう。
 最初にリタを捉えていた男が体勢を整えられないうちに、レイヴンは彼に向って剣を振るう。男は何とか剣を握りなおして一撃目は防ぐものの、痛みで力の入らない手はそれだけで再び剣を落としてしまった。
「おっさん、後ろ!!」
 追撃を繰り出そうとしたレイヴンの背後に迫るのはシェロン。リタの声に反応したのか、自分でもその気配を察知していたのか、彼は振り向きざまに男の横腹に回し蹴りを決めながらシェロンの剣を受け止める。
 男が倒れる音と、剣がぶつかり合う音が重なる。
 レイヴンは受け止めたシェロンの剣を弾こうと僅かに剣を引くが、それを察知したシェロンが先に跳び退き、2人の間に距離が生まれた。
「まさか……あなたと刃を交える日が来るとはね……」
 剣を構え直しながら、シェロンが呟く。
「残念ですよ、シュヴァーン隊長」
「俺も残念だ。お前のように優秀だった騎士が、ここまで落ちぶれるとはな……」
 何の抑揚もない声でレイヴンが答えると、シェロンはわずかに口調を強めて返す。
「落ちぶれたのはあなたです。アレクセイ閣下の無念……何としても晴らさせてもらいますよっ」
 言い終わるや否や、彼が地を蹴った。
 魔導器がなくなり、剣術からも技が消えた今頼れるのは文字通り己の力のみ……相手は元騎士団隊長首席とはいえ、彼が満身創痍であることに加え自分の剣に自信があったのか、シェロンに躊躇う様子は一切ない。
 1秒もたたないうちに勢いづいた剣がレイヴンに向かって振り下ろされる。だが、リタからは髪に隠されたその横顔しか見えないものの、レイヴンは黙ってシェロンを見つめたまま身動き一つせず――その刃が自らの肩口を切り裂こうとした直前になって、左手がぶれたようにリタは見えた。だが、それより強く彼女の目に焼きついたのは――
(心臓が……!!)
 いつかの神殿の時のような、まばゆい光を放つレイヴンの心臓魔導器。

 ガギィィィィンッ

 レイヴンの左手は情報に伸びきり、剣は天井を指していた。
 一方のシェロンの剣は根元から折れ、刀身から先は金属音からやや遅れて、彼の遥か後方の床に突き刺さった。
「なっ!?」
 遂に、シェロンの顔に動揺の色が浮かぶ。
「っぐ!」
 その隙に振り下ろされたレイヴンの剣には何とか対応するものの、跳びずさってすぐその場に膝をつく。先ほど切っ先がかすめたのか、右胸から血が溢れだしている。
「道を外した男を盲信し、私怨に囚われ、大義名分を銘打って罪のない少女を貶める……親衛隊が聞いて呆れるな」
 ゆらり、とレイヴンは歩を進め、シェロンとの距離を詰める。その顔を見上げたシェロンの表情に浮かぶのは、恐怖。
「っ……!!」
 口を開閉させながら彼は後ずさり、しかし間もなくして背後を壁に阻まれた。

「そんなにあの男を慕うなら地獄にでも逝ってかしずいているといい。
 安心しろ、すぐに終わらせてやる……死の瞬間はきっと、お前が思っているよりあっけない。……俺がそうだったからな」

 冷たく、低く響く声でレイヴンそう言い、シェロンに見せつけるようにゆっくりと剣を振り上げる。

「駄目!!」

 だが振り下ろそうとしたその腕は、背中に抱きついて来たリタの声と共にぴたりと止まった。
「おっさんもういい……あんたが無事だっただけでもういいから……!!
 だから、一緒に帰ろ?」
 必死にそう訴える声は震えていた。背中で感じるリタの身体も、震えていた。
「………………」
 レイヴンはしばし考えるようにそのままの体勢で動かず……やがて、勢いよく剣を振り下ろした。
「ひっ!」
 思わず腕で顔を覆ったシェロンだが、剣が自分のすぐ近くの何かに突き刺さったような音はするものの、予期していた痛みも衝撃もない。
「おっ……さん……」
 飛び散ったのは、血飛沫ではなく木片。レイヴンが振り下ろした剣はシェロンの肉体ではなく、彼の顔のすぐ横で壁に刺さっていた。
 気が抜けたように崩れ落ちるシェロンを無視して、リタの声に反応するようにレイヴンは振り向く。

「帰ろっか、リタっち」

 そう言った顔も声もいつもの柔らかいもので、背をかがめて目線を合わせながら自分の頭を撫でてくる彼に、リタは「うん」と頷きながら正面からもう一度抱きついた。

 

「……あたしが行かなくても、自分でどうにかできたんじゃない」
「いやー、でもあれは火事場の馬鹿力というか……あ! 愛の力ってヤツ!?」
「何それ、バカっぽい」
 騒ぎを聞きつけて駆けつけて来ていた騎士団やギルドの人間に後を任せ、安心して腰が抜けてしまったリタはレイヴンに背負われ、白み始めた空の下で帰途についていた。
 これではどちらが助けに来たのか分からないが、レイヴンが「平気だから負ぶわせて」と言い張り、言葉に甘えることにしたのだ。助けに来たのは自分のはずなのにこれでは完全に逆のような気がするが、現にリタも歩けないことにはどうにもならない。
「もう……あんな無茶しないでよ……。あんなんじゃ、命がいくつあっても足りないわ」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。ホイホイあいつらの言う通りにするなんて……罠だって分かってたでしょーが」
「だって、何も出来ずにおっさんが殺されるなんて……あたしには耐えられない……」
「……おっさんも、自分のせいでリタっちが死んじまうのは耐えられないんだけどねぇ……」
 小言を言い合いながら、リタはレイヴンの広い背中に縋りつく。きつく布を巻いただけの切られた腕が痛むが、それ以上に目の前の男の感覚が愛しかった。

 ――ああ、やっぱりおっさんだ。馬鹿で優しくて、あたしのことを大切にしてくれる、あたしが大好きなおっさんだ……――

 髪はまだ下ろしたままだが、今のレイヴンにシュヴァーンの面影はない。ただ、レイヴン自身が否定し、封印したはずの彼が表面化したのも自分を助けるためだったと考えると、先程まで恐怖を抱いていたことに少しだけ罪悪感を覚える。
「……ねぇ、リタっち」
 その時、前を向いたままのレイヴンがそれまでよりやや真剣な声で呼びかけて来た。

「俺達……別れた方がいいのかも知れんね……」

「え……?」
 その意図が飲み込めずリタが疑問の声を発すると、レイヴンはこちらを振り向いて苦笑を浮かべる。
「今回みたいなことがまた起こらないとは限らない。なんせ、シュヴァーンもおっさんもあっちこっちで恨み買ってるからね。そんなのに、リタっちを巻き込みたくないんよ」
 それも、能天気に見えてネガティブなレイヴンらしい発言。だがリタは首を振り、レイヴンの服を握る手に力を入れる。
「馬鹿言わないでよ。そんなことしたって、あんたが危ない時はあたしが助けに行くわ」
 きっぱりと言い切った彼女の言葉に、レイヴンは困ったように眉尻を下げる。
「でもおっさんは、俺なんかのせいでリタっちに傷付いてほしくない……苦しむのは、俺一人で十分――」
「それが馬鹿だって言ってんのよ!」
 レイヴンの言葉を遮り、リタはついに叱咤する。

「あんたの痛みは、もうあたしの痛みでもあるのが分かんないの!?
 だから、あたしを巻きこまないようにとか考える前に、自分が傷つかない方法を考えろって言ってんの!!
 もしあたしの知らないところで誰かに殺されでもしようもんなら、地獄まで追いかけてファイヤーボールかましてやるんだから!!」

 呆然とするレイヴンにそれだけまくしたてて、リタはその背中に顔を埋めた。
 もうどんな弱音も聞く耳を持たない……その意思表示だったが、やがて彼の身体が震え始めたことに気付く。
 顔を上げると、その顔は前を向いてうつむいていた。いつの間にか歩いていた足は止まり、間もなくして彼はリタを背負ったまま地面にうずくまる。
「ちょっ! おっさん!?」
 怪我による痛みがピークに達したのだろうか、それとも――
(まさか、さっきので心臓魔導器が……!)
 慌てて地面に足をつき、ふらつきながらも何とか彼の正面に回る。
「どこか痛むの!?」
 出来ることがあれば手当てしようと思い、レイヴンに向かって腕を伸ばす。
「っ!?」
 だがその手は突然掴まれて引き寄せられ、気がつくと、彼の胸の中にいた。

「ありがと……リタっち……!!」

 リタの肩に目を押し当て、苦しいぐらいの腕の力でレイヴンは抱きしめてくる。

「あんたが無事でよかったわ、レイヴン」

 子供のように震える中年の頭を、リタはそう言って微笑みながら、いつも彼にされているように優しく撫でてやった。















原因:さらわれた理由にシュヴァーン云々を入れたら何か燃える!!

結果:何これ収拾つかん!!

本当は戦闘シーンをもっと書きたかったんですが、長くなるという理由で大幅にカットしました。
……まあ、書いてたとしても大したものにはなってなかったような気がするのでそれはそれで正解だったのかもしれませんが(汗)。

とりあえず危険を承知で助けに来るリタっちとブチ切れたおっさんを書きたかったんです。

無駄に容量のでかい文章ですが、月魚様のみお持ち帰り可でございます。
リクエストありがとうございました!

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