Raven*Rita 20 title.(La traviata.様提供)
・魔導器
・天才魔導士
・添い寝
・熱帯夜
・忘れられた神殿
・帝国騎士団隊長首席
・大嫌い
・氷刃海
・前夜
・そして、続く未来
・20
・鼓動
・箱庭
・詠唱
・『裏切り者』
・遺されたコンパクト
・触れられない過去
・好き嫌い
・露天風呂の楽しみ方
・カーテンコールを今度こそ
※注意
・『裏切り者』→魔導器→鼓動(→箱庭)という流れになっています。
・箱庭はいわゆる微裏(?)ですのでご注意ください。エピローグ的なものなので鼓動で止めても支障はないと思います。
箱庭
初めて見たリタっちの裸は、やっぱりキレイだった。
細い手足に、くびれた腰……まだ小さな胸の膨らみさえも、彼女らしくて本当に愛おしい。
ただ、左胸のその白い肌の上に走る一筋の傷跡――それだけが、俺の心に影を落とす。
「何しかめっ面してんのよ」
じっとそれを眺めていると、顔を赤らめたリタっちが不機嫌そうにそう尋ねてきた。
「いんや? べっつにぃ~」
そうおどけて見せてから、その傷跡に唇を這わせる。
「んッ……」
でも彼女の身体が一瞬強張ったからすぐに顔を離し、見上げてもう1度視線を合わせる。
「……痛い?」
「まさか。くすぐったかっただけよ」
「はは、それもそうよね」
苦笑して、またあの傷跡を見る。
もし、リタっちがこの先俺以外の男と愛し合って、こういうことをする時……この傷は邪魔にならないだろうか? もしこの傷のせいで、幸せになれるはずだったリタっちがそれを逃してしまったら、俺は――
「しかめっ面禁止!」
「いぎっ!?」
突然頬をつねられ、堪らず悲鳴を上げた。
彼女の指が離れてから、痛む頬肉をさする。そんな俺の鼻先にビシィッと人差し指を突き付けて、リタっちは半眼で尋ねて来る。
「あんた、まさかこの傷があたしの将来ぶち壊すかもとか考えてないでしょうね?」
図星を突かれ、俺の顔が引きつった。
「考えてたら……どうする?」
尋ねてみると、わざとらしくため息を吐かれた。
「バカっぽい。こんな傷ぐらいであたしを捨てる奴なんてこっちから願い下げだわ。
そもそも、あたしはもうちゃんと心に決めた奴がいるんだから……ま、そいつも今ここで怯んでる訳だけど」
意地の悪い笑みを浮かべて、遠回しに俺への思いを告白してくれるリタっち。こらこら、女の子がそんな煽るようなこと言っちゃいけません。
不覚にも、俺の顔が熱くなる。するとリタっちはまた笑って、自分の傷をなぞった。
「あたしね、この傷結構気に入ってるのよ?
言ってみればあたしとあんたの絆の証だし、それに――」
そこまで言って、今度は俺の心臓魔導器――の上に走る、10年以上前の傷に触れる。
「あんたとおそろい……だし……」
流石にこれには言っている本人も照れ臭くなったのか、途中で言葉の勢いが失速する。
それでも俺を気遣って、「だから気にしなくていいの!」なんて言ってくれる健気なリタっちに、この間まで空っぽだった胸がいっぱいになった。
「ねぇ、レイヴン……」
惚けたように――というか完全に惚けて彼女を見ていたら、彼女の方から俺の首に腕をまわして来た。
「ファーストキスは、違う奴に盗られちゃったけど……」
「……それ、おっさんにとっても黒歴史なんですけど」
リタっちが続けた言葉に、また俺の胸がチクリと痛む。多分またしかめっ面してるな、俺。
だがリタっちはもう俺を咎めたりはせず、小さく首をかしげて、微笑みながら尋ねてきた。
「その分、いっぱい愛してくれるんでしょ?」
その笑顔があまりに可愛らしくて、その言葉があまりに愛おしくて、返事もしないまま押し倒した。
深い、長い口付けを、リタっちとかわす。指を絡めさせ、体を密着させて、彼女の感触に酔いしれる。
やがて口を離し、彼女の前髪をかき分けてその翠眼を真っ直ぐに見つめ、呟く。
「……愛してる、リタ……」
「あたしもよ、レイヴン」
胸の痛みなど、消え失せた。
残っているのは、傷跡――そう、俺と彼女を繋ぐ、忌々しくも大切な傷跡だけ……。
お付き合いくださりありがとうございました!!
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