柚子丸様のみ、もしよろしければお持ち帰りくださいm(_ _)m
イエガー難しいよイエガー。
Clown×Clown
ドン・ホワイトホースの壮絶な死から1夜が明けた。
頭領を失ったギルドユニオン、そしてダングレストはいつもの活気を忘れ、重い空気のなか静まり返っていた。
「ホント、でっけぇ男だったよ、あんたは……」
町はずれの墓地。
まだ土の色が違う墓の前に立って、一人の男が呟いた。
ギルドユニオンのナンバー2――レイヴン。その口元には笑みが浮かんでいるものの、目は確実に哀情の色を宿している。
「俺にまた……生きたい、なんて……少しでも思わせてくれるんだからな」
彼の正体を知ってなお、いやむしろ面白がって傍に置き、挙句の果てには参謀として重用していた男に、彼はいつも感服していた。そこは仮初の居場所とはいえ、拠り所を失っていた鴉が羽を休めるには十分すぎる場所だった。
それなのに――
「……なんで、果たせねぇんだろうな――」
今までドンの右腕として多くの仕事をこなしてきた。
だが彼が最期に命じたことを、レイヴンは果たせない。
理由は単純、真の主に刃向かうことになってしまうからだ。
ギルド間の確執、そしてドンの死を画策した男の始末――それがドンがレイヴンに与えた最期の仕事。だがその男もレイヴンと同じく、あの騎士団長に従う者に過ぎない。
「恩義にも報えないなんて……やっぱ俺、ギルド員失格だわ」
〝絆″を重んじるギルドの掟――そもそも帝国のスパイであったレイヴンは初めからそれを破っていたようなものだが、今になって痛感する……所詮自分はあの男の道具なのだと。
「おやぁ? そこにスタァンドしているのはシュヴァーンではありませんカー?」
感傷に浸っていたレイヴンの後方で聞き慣れた、しかしその主に続いて今2番目に聞きたくない声がした。
「それとも今はレイヴンと呼びましょうカ? ユーもドンのお墓参りのようですネー」
「イエガー……!!」
珍しく怒りを露わにした声で呻き、レイヴンはその声の主を振り返り睨みつける。
「どの面下げて来やがった……!?」
腰の小刀に手をかけるが、抜きはしない。ドンが最期に始末を命じたこの相手こそ、彼の主が使うもう一人の道化であるからだ。
イエガーも、レイヴンが抜かないと分かっているのか大して慌てる様子もなく、掌を前に突き出す。
「ストップ、ストーップ。ミーもユーと同じ、お墓参りに来ただけでーす。ここでファイトするつもりはありませーん」
見ると、彼のもう一方の手には確かに花束が下げられていた。それもキルタンサスの……。
表情もどことなく、本当にどことなくではあるが悲しげで、墓参りに来たというのは本当のようだ。
――彼にとってもまた、ドンという存在は大きなものだったということか。良くも、悪くも……。
それが分かってしまうからだろうか、余計に腹が立つのは。
「……ちっ」
舌を打ち、レイヴンはそのまま身を翻すと彼の横を足早にすり抜ける。
すり抜けざまに一発殴ってやりたいところだが――やめよう、惨めになるだけだ。
「くたばりやがれ……」
代わりにそう吐き捨てて、彼はギルドユニオン本部へと戻って行った。
「……くたばりやがれ……ですか」
遠くなっていくかつての友の背中を眺めながら、イエガーは彼の言葉を繰り返した。
イエガーも仕事上、何度も告げられた言葉であるが……
「ユーに言われると、随分とヘビィになりますね……」
彼だからこそ分かる、その恐怖――死を望む彼が、それに踏み出せない本当の理由。
その恐怖を知っているから、きっと彼はあの時ドンの後を追おうとするその孫を殴り飛ばしてでも止めたのだろう。
そして、その恐怖を知っているから……恨みの対象である自分に告げたのだろう。
だが――
(でもなシュヴァーン……俺もお前と同じなんだよ)
この事実を知った時、彼は何を思うのだろう。
風が、髪を、キルタンサスを揺らす。
ただ立ち尽くすイエガーは、彼の背中が見えなくなってもなお、その方角を眺めていた。
その時、
「イエガー様!」
「お使い完了したわん♪」
町で用事を頼んでいた少女2人が、彼の下に駆け寄って来た。
途端にイエガーは、いつもの奇抜な男に戻る。
「オー、ご苦労様でーす。ゴーシュ、ドロワット」
わざわざこんなしゃべり方をするなんて、ある意味自分の方が彼よりよっぽど道化だな、なんて思いながら……。
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