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今日も幸せレイリタ日和。
2025/04/21 (Mon)10:26
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2011/12/18 (Sun)19:18
1個下の記事の続きです。
どぞー。

 今日もリタは、城の図書室でエステリーゼと一緒に読書に明け暮れていた。
 リタは魔導器の研究書、エステリーゼは物語と、読む本の分野は全く異なるのだが、それでもリタは肩を並べて本を読んでくれるこの友達のことが大好きだった。
 読書を始めて小一時間ほどしてから、図書室に返す本があったことを思い出したエステリーゼが席を外した。残されたのは、リタと警備の騎士2名。
 朝から読み進めていた本を読破したのでリタはそれを抱えて席を立ち、書架へと向かう。様々な本がぎっしり並んだ書架は天井まで届きそうな高さで、以前一緒に来てくれたシュヴァーンは見上げると「眩暈がする」と頭を抱えていたが、リタやエステリーゼにとっては毎回心が躍る光景だ。
 そしてリタが一冊分空いた隙間に本を戻しながら次の本を探していると、ガシャンと何かが倒れるような音が2回続けて起きた。一瞬驚いて身をすくませるが、何事だろうとすぐに音がした方を覗いてみる。
 図書室出入り口近くの壁際立っていた筈の警備兵が2人とも、うつぶせに倒れていた。幼いリタにもすぐに分かる異常にまた身を強張らせる。しかし、倒れている2人のことも心配だった。2、3歩後ずさった後、助けを呼ぼうと出入り口の方に駆けだそうとする――その手を、後ろから何者かに掴まれた。
「ぇ……」
 振り向く間もなく、前に回された手がリタの顔に迫る。手に乗せられた布切れが視界を覆い、そのまま彼女の意識は暗転した。

 

「警備の者は今医務室で手当てを受けていますが命に別条はありません……ただ、2人同時に倒れたらしく、襲撃者の姿も見ていないそうです。
 エステリーゼ様が席を外したのはおよそ20分間。侵入者が入ったのはエステリーゼ様が出て行かれてから5分ほどしてからとのこと」
 青い顔で、それでも簡潔に報告をまとめるクオマレ。部屋には事件を聞きつけた他の親衛隊やキャナリもやって来ていて、いつになく人口密度が高い。
「侵入経路は分かっているのか?」
 眉間に皺を寄せたまま、しかしアレクセイは冷静に報告を続けさせる。
「僅かですが、図書室と1階厨房外の通気口の蓋が動かされた形跡がありました」
「城外の目撃者は?」
「我が隊が現在捜査中ですが、不審な人物を目撃したという情報はまだ入ってきていません」
 問いには、キャナリとシュヴァーンが代わる代わる答える。芳しいとは言えない状況だが、アレクセイの表情は変わらない。
「リタを抱えて通気口を通ったとは考えにくい、少なくとも逃走する時は別のルートを使っているか、単なる陽動の可能性も高いな。
 ……少なくとも2人忍び込んでいるのだ、城内に協力者がいたのは確実だろう。その協力者次第では、見張りの目を誤魔化すのもさして難しいことではない」
 そして少ない情報から分析を始めたその時、ノックもなしに扉が開け放された。
「誇り高き帝国騎士団が、こんな時間に井戸端会議ですかな?」
 全員が一斉に振り向いた視線の先に立っていたのは、いかにも貴族らしい恰好をした痩身の男性。
「フィアレン監察官……」
 クオマレが駆けこんで来る直前まで話していたカクターフの側近中の側近の登場に、シュヴァーンは密かにアレクセイに視線を送る。だが彼は表情を動かすことなく、フィアレンを見据えていた。
「騎士共が警護そっちのけで何やら聞き込みをしていると思えば、城内に族が侵入したとか……困りますな、ただでさえ城の警備を抜けられたというのに貴族でもない子娘1人の捜索ごときに現を抜かされては」
「っ! あんた……!!」
 あからさまに神経を逆撫でしてくるフィアレンに、怒りを隠さず踏み出そうとするクオマレをシュヴァーンが肩を掴んで留める。
「ああ失礼、子娘はアレクセイ殿の養女でしたか。しかし出身が下民と言うのは変わることありますまい。
 拐されたのがエステリーゼ様でなかったのがせめてもの救いだな……まあ、下賤な子娘に付きまとわれては姫様の教育上よくなかろう、ある意味では族の連中に感謝せねばな。
 とにかく、騎士達には城の警備に専念して貰いましょうか、もしこれ以上何かあればそれこそ騎士団の信用問題ですぞ?」
「……耳が痛い。ご忠告感謝します、フィアレン監察官」
「ふん……それでは、私は失礼しますよ。ここより私の屋敷の方が安全かもしれませんからな」
 鼻を鳴らし毒づくフィアレンの表情や声音は不機嫌そうであるが、どこか優越感に浸っているような印象を受ける。アレクセイのそっけない返答には流石に拍子抜けしたようであるが、身を翻す直前の口の端が僅かに上がっていたことには多くの騎士達が気付いていた。
「思ったより連中の動きが早かったようだな」
「……申し訳ありません」
 フィアレンが退室した直後、アレクセイとシュヴァーンの間でそんな会話が交わされ、出入り口に向いていた一同の視線が2人に戻る。今更隠すことでもないだろうと、2人は彼らにカクターフの動向が不審だったことについて説明した。
「わざわざ勝利宣言をしに来るとはな……だがこれではっきりした、裏にはカクターフ公がいる」
 彼の言葉に頷いて同意するシュヴァーン。
「どうやら、リタがエステリーゼ様と親しくしているのが気に喰わなかったようだ……おそらく、私がリタを使って姫様を抱きこもうとしているとでも考えたのだろう。
 そのリタを誘拐すれば私と姫様との大きな接点がなくなり、あわよくば私を意のままに操れる。それに連中に言わせれば所詮下民の子娘1人、私が従わなければ殺せばいい……なる程利用価値がある割には扱いやすい人質だ」
 納得したかのような口ぶりでアレクセイは言うが、その響きの中には先程までは感じ取れなかった怒りの感情が見え隠れしていた。
 子供の純粋な友情にまで政治的意味を求めようとする貴族達に虫唾が走る――それは集まっていた他の騎士達も同じようで、皆険しい表情を浮かべ黙ったままアレクセイを見ていた。
 今すぐにリタの救出に向かいたいのはこの場にいる全員誰もが思っていることだ。だが騎士団が城に侵入者を許してしまったのは紛れもない事実、ここで下手に動いてしまえば評議会に付け込まれてしまう可能性も十分に考えられる。
「……アレクセイ」
 その時、また入り口の方から何者かが入ってきた。
 見れば、開け放されたままだった入り口にエステリーゼ姫が立っていた。両脇には、警護役のシムンデルとリアゴンを従えている。
「エステリーゼ様、どうしてこんなところに……」
 流石のアレクセイも驚いた様子で、席から立ち上がって姫君に駆け寄り目の前で跪く。そこで、彼女の顔に泣き腫らした跡があり、今もなお目に涙を溜めていることに気がついた。

「私の、せいなんです?」

 声を震わせながら、エステリーゼは尋ねてきた。
「リタがさらわれたのは、私のせいなんです? 私と仲良くしてたから、リタは……」
 まさかと思って護衛の2人を見上げると、気まずそうにしながらも頷いてくる。
「……聞いてらしたのですか」
「ごめんなさい」
 アレクセイの問いに、ぽろぽろと涙を零しながら答えるエステリーゼ。そしてそのままアレクセイの手を取り、懇願する。
「アレクセイ、お願いです……リタを助けてください……!
 私もう、リタと一緒に遊ばないって約束しますから!!」
 大切な友達を助けたい一心で姫君の口から出た言葉はあまりにも悲痛なもので、本人の目からも更に涙が溢れ出る。
「ひっう、ふえ……ん……っ!!」
「エステリーゼ様……」
 嗚咽を上げ始めたエステリーゼの手を、アレクセイは優しく握り返した。
「ご心配なさらずとも、リタは必ず助け出します。
 だから泣かないでください、可愛らしいお顔が台無しです」
「ホント、です……?」
「ええ、本当です。
 その代わりと言っては何ですが、私からも1つお願いがあります」
「お願い……?」
 アレクセイの言葉にエステリーゼは首を傾げる。彼は安心させるような微笑を浮かべながら、そのお願いを口にした。

「リタが帰ってきたら、また仲良くしてやってくださいませんか?」

 それは、社交辞令でも何でもないアレクセイの本心からの言葉だった。
 それを聞いたエステリーゼはしばらく目を瞬いていたが、やがて涙を拭うと満面の笑みで大きく頷く。
「はいっ!」
「ありがとうございます。
 ……さあ、今日の所はもう部屋にお戻りください。城の者も心配するでしょう」
「……分かりました。でもアレクセイ、リタが帰ってくるまで私ずっと待ってますから!」
 笑顔でそれだけ言い残して、エステリーゼは大人しく身を翻した。シムンデルとリアゴンも1度アレクセイに敬礼してから、その後に続く。
 彼女達の背中を見送りながらアレクセイは立ち上がり、その姿が見えなくなったところで部屋を振り向いた。
「シュヴァーン」
「はい」
 いつにも増して力強い声に自然と背筋が伸びるのを感じながら、シュヴァーンは返事をする。
「とにかく今は警備を固めろ、これ以上カクターフに付け入る隙を与えるな。この後の判断と指揮はお前に任せる。
 ……私は、悪いが休暇をもらう」
 最後に付け足されたこの状況に似つかわしくない言葉に、しかしその場の誰も言い返せない。アレクセイの表情からはもはや何者も寄せ付けないような強い決意が滲み出ていて、ここでどんなに引き留めても行動に移してしまうことは目に見えていた。確かに、騎士団として身動きが取れない以上これが1番合理的な方法なのだ。
「……了解しました。お気をつけて」
「ああ、後は頼む」
 シュヴァーンの言葉に僅かに笑って頷いてから、彼は部屋を出て行く。足は当然、フィアレンが消えた方向に向かっていた。

 数十分後、腰を抜かした状態でガクガク震えるフィアレンが、資料室で発見された。

 

 両手両足を縛られた状態で、リタは冷たい床に座り込んでいた。
 彼女の目の前には、柄の悪い男達が5、6人。いずれもニヤニヤと人を不快にさせるような笑みを浮かべている。
「恨まないでくれよ? お嬢ちゃん。こっちだって仕事なんだ」
「そうそう、恨むなら俺達を雇った貴族サマと、仮にも父親の癖に助けに来ない騎士団長にしな」
 男達からぎゃははは、と笑いが起きる。リタは恐怖のため目に涙を浮かべ、身を震わせながらも、キッと男達を睨みつけた。
「あれくせいはたすけにきてくれるもん!」
「おぉっと、健気だねぇ……だがお嬢ちゃん、難しいかもしれないが今そのアレクセイはお嬢ちゃんを助けに来ると自分の身が危うくなる状況にあるんだ」
 その意味は何となく理解出来た。アレクセイが騎士団の行動の全責任を負っているということは、間近で仕事の様子を見てきてよく分かっていたから。
 だが、どんなに忙しくても彼はリタの話を聞いてくれた。難しい術式が解けたら頭を撫でて褒めてくれた。だから、自分が危ない時は絶対に助けにきてくれると信じていた。

「騎士団長なんて大層な奴が、ちょっと頭が良くて姫様受けがいいくらいで、本当の娘でもないお嬢ちゃんを助けに来ると思うかい?」

 しかし、男のその言葉が幼い心を抉った。
「それでも、あれくせいは……!!」
 先程より力のなくなったリタの声に、男達の笑みが深まる。
「まあまあ、助けに来ないにしても雇い主の交渉次第じゃ生かしておいてやってもいいんだ。仲良くしようぜ」
 頭を撫でようとしたのか、1人が手を伸ばしてくる。だがリタはその手をかわすと、思いきり噛みついてやった。
「いっでぇ!!
 ……っく! このクソガキが!!」
 歯は悲鳴を上げた男にすぐ振り払われ、続いて罵声と、頬に平手が飛んでくる。大の男に本気でぶたれた衝撃を受け止めきれず、リタの身体は床に倒れ込んだ。
 初めて大人にぶたれた痛みと恐怖に、更に視界が滲む。だが絶対に泣かない、泣くものか。自分は騎士団長の、アレクセイの娘だ。そう自分に言い聞かせながら、歯を食いしばって涙を堪える。
「……ん、何だ……?」
 その時、男の内の1人が部屋の外が騒がしいことに気がついた。
 ここは雇い主である貴族の屋敷の地下にある隠し部屋だ。元来閑静な貴族街、喧騒など滅多に聞こえて来るものではない。思わず騎士団に嗅ぎ付けられたのかという考えが頭を過るが、その割には動きが早すぎる。
 何にせよ用心に越したことはないだろう、ここへの入り口は巧妙に隠されているが、内側から鍵をかけて一旦抜け道から脱出を……そう思って入り口に近づいた瞬間、外側から扉が勢い良く開き、何かが飛び込んできた。
「うわっ!?」
 その何かは、飛びこんできたのではなく投げ入れられた見張り役だった。男はその下敷きとなり、突然のことに混乱しその場でもがく。
 騒ぎの元は更にその向こう、部屋の入り口にまだ立っていた。
「あれくせい……!」
「リタ」
 滲んだ視界にもはっきりと映ったその姿に、リタの顔が明るくなる。アレクセイの方も安心したように笑みを浮かべてみせるが、彼女の縛られた両手足と腫れた頬を認めるや否や、眉を顰めた。そしてまさかの騎士団長本人の登場に怯んだ様子の誘拐犯達に、怒気と殺気を含んだ眼光を向ける。

「私の娘を返せ……!!」

 地獄の底から響くような、重々しい唸り声だった。

 

 派手に暴れた甲斐もあり、他の貴族からの通報で有事特権が発動した。即座に駆けつけてきたシュヴァーンに後を任せ、今アレクセイはリタと共に騎士団本部の私室に戻ってきている。シュヴァーン及びシュヴァーン隊内の某親衛隊が放っていた殺気が半端ではなかったので、誘拐犯達は連行される前に今一度ボコボコにされていることだろう。
 アレクセイがあの場にいた全員を叩きのめした後、抱きついてきたリタは堰を切ったように泣きじゃくり始めた。当たり前だ、まだ5歳なのにあんな怖い思いをしたのだから。
 アレクセイの服を握りしめ、しがみつくようにして彼女は今も嗚咽を漏らしている。一応医務室で怪我がないか見てもらおうとした時も、離れようとはしなかった。アレクセイもその小さな身体を抱きしめては見るものの、この一件で表面化した不安はどうしても拭いきれない。
「……怖い思いをさせてしまったな、リタ」
 背中を優しくさすってやりながら、アレクセイはリタに話しかける。
「すまない、私のせいだ……君を引き取ったのが私だったから、こんな目に遭わせてしまった。私が、もっと自分の立場をわきまえていれば……」
 本当は、もっとリタを幸せにしてやれる人間が引き取るべきだったのではないか。伴侶もおらず、仕事でなかなか構ってやれず、挙句の果てには権力抗争の真っ只中にいる自分より、もっと相応しい者がいたのではないか。
「っ、ちがう、ちがうの……」
 だがリタは首を横に振り、泣き腫らした顔をアレクセイに向けた。
「りたね、あれくせいがきてくれないかもっておもったの……りたはあれくせいのことがだいすきなのに、あれくせいはそうじゃないかもって……。りたは、あれくせいのほんとうのこどもじゃないから……」
 リタの目から、また大粒の涙が零れた。だがそれは恐怖ではなく、後悔と謝罪の念によるもの。

「ごめんなさい、あれくせい……あれくせいはちゃんとたすけにきてくれたのに……!」

 リタはまたアレクセイにしがみつくと、また嗚咽を大きくさせる。
 そのいたいけな様子に、アレクセイの心も締めつけられる。ああ、自分はリタの不安をこんなに履き違えていたのかと情けなくなる一方で、自分を裏切ってしまったのではないかとこうも震えている少女がどうしようもなく愛おしかった。
「リタ、聞いてくれ」
 小さな身体を思い切り抱きしめて、口を開く。
「これからも、また寂しい思いをさせてしまうかもしれない。だが、私もリタのことが大好きだ……だから、これだけは疑わないで欲しい」

 ――誰が何と言おうが、リタは私の自慢の娘だ。

 少しだけ驚いたように目を丸めてリタが顔を上げる。アレクセイは片手の親指で涙を拭ってやってから、彼女の栗色の髪の毛を撫でた。
 そこでようやく安心したのか、リタは1度鼻を啜ると満面の笑顔を浮かべて、言った。

「あれくせいも、りたのじまんのぱぱだよ」

 

「――で、結局グダグダのままクリスマスを迎えた訳だが……」
 いつぞやと同じく、騎士団本部のホールで開かれたクリスマスパーティ。単にケーキを取りに行っただけなのに、手を繋いで騎士達の間を歩くエステリーゼとリタの手には、次から次へとプレゼントが積み上がって行く。あれではもはやケーキを持てないだろう。それでも2人は嬉しそうにプレゼントを受け取って行く。
「リタは本当に欲しいものはなかったのだろうか……」
「まあ、普段から欲しいものは大体何でも手に入ってましたからね。それでも、リタはあんなに喜んでくれたじゃないですか、大将のプレゼント」
 この期に及んでホールの片隅で未だ頭を悩ませているアレクセイに、シュヴァーンは苦笑して答えた。
 今日までにアレクセイとシュヴァーンが何度かリタから聞き出そうとしても、リタからは「とくにないよ」の答えばかりで、結局アレクセイは子供用の猫のブローチ(子供用と言ってもなかなか値は張る代物)を先程渡したばかりだ。受け取ったリタは顔を輝かせ飛び跳ねんばかりの勢いで喜んでくれたのだから、嘘ではないと思うのだが……。ちなみに、エステリーゼにもおそろいの兎のブローチを渡している。
「あれくせーい!」
 すると、プレゼントを抱えたリタとエステルが戻ってきた。やはりこの状態でケーキまで持ってくるのは無理だったようで、一旦プレゼントを置きに来たのだろう。
「みて、あれくせい! こんなにいっぱいもらっちゃった!!
 あれくせいがくれたねこちゃんも、みんなかわいいってほめてくれたよ!!」
「アレクセイ、あのテーブル色んなケーキがいっぱいです!
 一緒に取りに行きましょう!!」
「え、ああ……はい」
 見目麗しい少女2人に手を引かれ、アレクセイは困ったように笑いながらも立ち上がってケーキのあるテーブルに引っ張られて行く。
 微笑ましいその姿を見てシュヴァーンは思わず噴き出し、冷やかし半分で声をかける。
「両手に花ですね、大将」
「恐れ多いな……では行ってくる」
「しゅばーんにはあまくないおかしとってきてあげるね!」
 苦笑しながら振り向いてきたアレクセイに続いて、リタもこちらを振り向いてそう申し出てくれた。だが果たしてこの場に甘くないお菓子があるのだろうか。
「楽しんでる? シュヴァーン」
 そんな3人の後姿を見送っていたシュヴァーンの元に、キャナリがやってきた。
「ん、ああ。お陰さまで」
「そう、よかった。閣下も楽しそうで何よりだわ」
 空いた席に座りながら、ふわりと笑うキャナリ。
「エステリーゼ様とリタのブローチ、可愛いわね。閣下が選ばれたのかしら?」
「ああ、店で見た途端ピンときたそうだ。
 ただ、結局リタが欲しいものは分からなかったな。本当になかったのかもしれないが」
「ああ、そのことなのだけど……」
「ん?」
 何か知っているようなキャナリの言い草に、シュヴァーンは首を傾げる。
「本当はリタに内緒にするって約束していたのだけど……まあ、叶ったのだから大丈夫よね」
 どうやら彼女はリタから聞き出すのに成功していたらしい。女同士の秘密と言うやつか、などと心の奥で寒いことを呟きながら、続く言葉を待つシュヴァーン。

「閣下と、本当の親子みたいにもっともっと仲良くなりたいんですって」

 聞き出していたその願いは、奇しくも誘拐事件によって実現してしまったという訳だ……というか、既に2人ともその辺の親子と遜色がないようにも見えたのだが、あの1件で改めて本人達が自覚できたといったところか。
「ははっ、可愛らしいな」
「ええ」
 込み上げてきた笑いに任せていると、キャナリも笑って頷く。
 当の親子の方を見ると、まだ背の低いリタを抱き上げたアレクセイが、彼女とエステリーゼの指さすケーキを次から次へと皿に乗せていた。
 幸せ一杯な光景にまた目を細めながら、シュヴァーンはその背中に向かってこっそりと呟いた。

「メリー・クリスマス」














はい、まあ気づいてらっしゃる方もおられると思いますが、閣下に「私の娘を返せ」って言わせたかっただけです。
お前はどこぞの山犬さんかと

ひとまずこれで終了です、お疲れさまでした!

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