しばらく書いてなかったのでおかしなところがあるかも……orz
Raven*Rita 20 title.
・魔導器
・天才魔導士
・添い寝(済)
・熱帯夜(済)
・忘れられた神殿(済)
・帝国騎士団隊長主席
・大嫌い
・氷刃海
・前夜(済)
・そして、続く未来(コレ)
・20
・鼓動
・箱庭
・詠唱
・『裏切り者』
・遺されたコンパクト
・触れられない過去
・好き嫌い
・露天風呂の楽しみ方
・カーテンコールを今度こそ(済)
そして、続く未来
「きゃわん!」
「くっ……!」
高く短い悲鳴が上がり、膝をついた少女2人は目の前で自分達を見下ろしてきている男を睨みつけた。
「毎度毎度ご苦労さんねぇ、もう6回目……だっけ?」
敵意に満ちた2人の視線を受けたレイヴンはしかし、笑みすら浮かべて先ほどまで構えていた小刀をおさめ、折りたたみ式の弓もしまい始める。
「はい、本日の復讐タイム終~了~」
「ふざけるな! イエガー様の仇め、今日こそ決着をつけてやる!!」
ひらひらと手を振るレイヴンに、強情そうな方の少女――ゴーシュと言ったか、が憎々しげに呻き、再度剣を構えようとする。
だが達人技と言っても過言ではないほど適度に痛めつけられたためか、立ち上がりはするもののまた戦えるような状況ではないのは誰が見ても明らかだ。
「今日はもうやめときなさいって。おっさんは逃げも隠れもしないから、また精進してから来てちょーだい。
……ま、せっかく見目麗しき乙女が尋ねてきてくれるんだから、俺様としては戦いよりお茶がしたいんだけどねー。何だったらケーキでも作ってこようか? おっさん結構自信あるのよ」
「貴様……!!」
神経を逆なでするようなレイヴンの言葉に、ゴーシュの視線はますます厳しくなる。その一方、もう片方の少女、ドロワットは目を輝かせている。
「ゴーシュちゃんゴーシュちゃん! お茶だって! ケーキだって!!
うーん……でもおじさんともまだまだ戦いたいし……あ、じゃあ戦った後でお茶にしよう♪ あばっ」
ぴょんぴょんと跳ねまわるドロワットの頭をはたくと、ゴーシュは再びレイヴンを睨みつけ、
「……次こそは必ずその首をもらう、絶対に逃げるなよ」
そう吐き捨てるように言うと、身を翻して来た方へと去ってゆく。
「あ、ゴーシュちゃん待ってよ~!
じゃあおじさん、またねっ!!」
「はいはい、出来れば今度は物騒なモンなしでね……無理っぽいけど」
彼女の後を追うドロワットにそう答えながら、頭の後ろで腕を組みレイヴンは2人の後姿を見送っていた。
「……おっさん、あの2人に気があんの?」
しばらくしてそう問いかけたのは、その一部始終を離れたところにある段差に腰かけて眺めていたリタだ。
「ん? 何で?」
振り向いて尋ねて来るレイヴン。するとリタは何となく視線を逸らして、ボソリと呟いた。
「だって、いつも楽しそうにあの2人の相手してる」
確かに、彼女達が慕っていたイエガーの仇として命を狙われている割に、毎回レイヴンの顔には笑顔が浮かんでいる。戦闘前も戦闘後も先ほどのような軽口を叩いているし、彼女達から逃げたこともない。それは、単に実力差から来る余裕とも違うような気がして……。
「あら? リタっちひょっとしてジェラシー?
大丈夫よ、おっさんはいつだってリタっちのことを誰よりも愛し――あばらっ!?」
「誰もそんなこと言ってないでしょうが!」
茶化そうとするレイヴンにアッパーを喰らわせ、赤面しながら一喝する。
「うー……やっぱりリタっち魔導器なくなってからパンチの威力上がったんじゃなぁい?」
顎をさすりながら、涙目のレイヴンがぼやく。そういえば、彼の心臓を除く魔導器が使えなくなってから、彼をぶっ飛ばすのも魔術から拳、あるいは脚に全面移行することとなった。その影響で身体能力が上がっていても、まあ納得できないこともない。
魔導器を捨てたことによる思わぬ恩恵に少しの間だけ思いを巡らせていると、不意にレイヴンが言葉を紡いだ。
「……確かに、少し嬉しかったりもするのよね。あの2人に追っかけられるの」
彼を見ると、遠い目をして少しだけ哀しげに笑っていた。
――彼や、彼にまつわる人間のことを思い出している時は、いつもこの表情だ。
「アイツには――イエガーには、あんなにムキになって仇追っかけてくれる奴らがいたんだなってね。
おっさんはそういう人作れるほど、ちゃんと生きてなかったからさ」
10年前までは、シュヴァーンの戦友だったと聞いている。そして彼と同じく、アレクセイに心臓魔導器を埋め込まれ道具として蘇らされたもう一人の死者。それがイエガー。
ただ、自分は死人だからと諦めてアレクセイに大人しく従っていたシュヴァーンとは違い、イエガーは裏で色々と工作をしていたようだ。結果的にはそれと――そしてあの少女達の存在が彼の死期を早めてしまった訳だが、かつての友としてその〝生き様″には何か感じるところがあったのだろう。
彼が10年間で得られなかったものを、イエガーは得ていた――それがひょっとしたら羨ましかったりもするのだろうか。
「……あたしが、おっさんの仇とる人間になるからって言ったら……どうする……?」
リタの口から洩れた言葉に、レイヴンは思わず「へ?」と素っ頓狂な声をあげてしまった。
「え……リタっち、今……」
問い返そうとすると、リタは自分でもその言葉に驚いたのか、慌てたように顔を背ける。
「な……何でもない……!!」
髪の間から覗く耳が、赤い。
仇打ちだの何だの、そんなものが何も生み出さないことはこの少女なら重々分かっているはずだ。それなのに大の大人のあんなうじうじした発言を、彼女は無意識のうちに拾ってくれたのだ。
(別に仇打ち頼みたかったわけじゃないんだけどねぇ……)
ただ、誤解を招くような発言であったことは否めない。
――それに、この少女は理性的に見えて激情に流されやすいところがある。
「……リタっち」
背中を向けてしまったリタの正面に回り、それでもなお目線を合わせてくれようとしないので、かがみこんでその顔をのぞく。彼の好きな大きな翠眼が、ようやくこちらを向いてくれた。
「何よ……」
「ありがとう」
唸るように尋ねてきた少女に、まずは心からそう述べる。
「リタっちにそう言ってもらえるのは、すんごい嬉しい、マジで」
頬の筋肉が自然と緩むのに任せると、しばらく弛緩は止まってくれなかった。どうやらよっぽど嬉しかったらしい。
「……でもね――」
そう続けて、リタの両手を取る。一瞬びくりと力が入るが、抵抗はされなかった。そんな仕草にさえ愛おしさを覚えながら、レイヴンはその細い指を優しく握る。
「リタっちはこれから、この手でいっぱい研究して、んでもってたくさん……たぁくさん人を幸せにしてあげなきゃなんない」
それが、この少女がこの両手ですべきこと。未来ある少女に、皆が寄せる希望。そして、この10年間で自分が失くしてしまったものの1つ。
本当はこうやって手を握ることも、まだ抵抗がないと言えば嘘になる。どんなにリタが自分を求めてくれていても、やはり自分は彼女の傍にふさわしくないのではないか。未だにそんな考えがたびたび脳裏をよぎるが、最近は彼女の目先の幸せでもいいから叶えてやりたいと思うようになった。ある意味考えの後退かもしれないが。
「だからね、リタっちの手は、こんな薄汚いおっさんなんかのために汚していいモンじゃないの。
おっさんは、仇とってくれるよりそっちの方がずっと嬉しいしね」
取り繕うための嘘でも、綺麗事でもない。自分の為に彼女に穢れてほしくないというのも、彼女自身に栄光をつかみ取ってほしいというのも、自分の仇打ちよりも遥かに強く彼女に望むことだ。
「……じゃあ、約束して」
そこで、ずっと黙っていたリタが口を開いた。
「あたしが世界中幸せにするまで、絶対死なないって」
そう言って、レイヴンの手を握り返してくる。いつの間にか視線もまっすぐとこちらを見据え、反論を許さないような強い光を宿していた。
――だが、この少女も分かっているはずだ。ただでさえ年の離れたレイヴンがこの心臓に頼って、おそらく何十年もかかって彼女が使命を全うするのを生きて見届けるのは……。
「……いや……それはちょっとおごっ!?」
「そこは嘘でも約束するって言うところでしょうが!!」
渋る様子を見せたレイヴンに、本日2度目の鉄拳が飛ぶ。
ぶたれた頬をさすり、「おっさんいじめはんたーい」と口を尖らせるが、ふと彼女の言葉に引っかかり首をかしげる。
「……嘘でもいいの?」
「いっ……いい訳ないでしょ……っ!!」
「……ですよね」
しかし自分の言葉の大いなる矛盾に気付いたのか、リタは赤面して拳を握りしめ、またもやレイヴンに背中を向けてしまう。
「もういいっ、忘れて!」
拗ねたように言い放ち、うつむくリタ。
その様子からは何となく寂しさも感じられて、小さな背中がより小さく見えた。
「………………」
その姿を見て感じる。自分が死んだときも、彼女は悲しんでくれるだろう、寂しがってくれるだろう。
でもレイヴンは、彼女に悲しんでほしい訳でも、寂しがってほしい訳でもない。……ただ、笑っていてほしいだけだ。
だから――
「約束する」
そう言って後ろからリタの頭に手を置き、くしゃりと撫でた。
「……嘘じゃないでしょうね」
「嘘なんかじゃないって。だってリタっち、世界中を幸せにしてくれるんでしょ? そん中に、おっさんも入ってる?」
その問いに、こっくりとうなずくリタ。
「……当然よ」
「なら大丈夫だわね」
そう言ったレイヴンを、訝しげな顔をして彼女が見上げてくる。それを待っていたかのように、レイヴンはとびきり頬を緩ませた顔を向け、言う。
「おっさんの幸せは、リタっちが世界中幸せにするまでずっと一緒にいることだから」
我ながら歯の浮くような台詞ではあるが、本心に相違はない。
この少女が世界を変える原動力に自分がなれるのなら、何よりこの先もこの少女と生きていけるのなら、それが彼の至上の幸せ。
例え実現の可能性が限りなくゼロに近くても、それを強く願う気持ちがあれば、約束もまったくの嘘にはならないだろう。
見る見るうちに朱と熱を帯びてくるリタの顔を眺めながら、レイヴンはそんなことを思うのであった。
一度は捨てた未来を、君に捧げよう。
ずっと君と生きていたいから。
そして、続く未来を……君と見てみたいから。
「……じゃ、そろそろ帰ろっか。今日晩御飯どうしようかねー……リタっち何か食べたいもんある?」
「……おっさんのケーキ」
前半だけイエガーねた。
ゴードロとおっさんの闘技場でのやり取りを聞いてるうちに浮かんできた話でした。
おっさんの生きる意味にはゴードロの相手とかも入ってて、何だかんだ言って楽しんでればいいな。
で、リタっちはそんなおっさんに焼きもち焼いてればいいよ!!
ぽちっとお願いしますm(_ _)m