足を運んでくださる方が多いことはもちろん非常に嬉しいんですが……何か怖い。
どうも、小心者です。
さてお待たせしました、最後のキリリク「ねこねこウエイターで働くリタを心配&嫉妬するレイヴン」
消化ですー。
え? お前らまだ付き合ってないの? さっさと付き合っちまえよ(ByPTメンバー)的な時期。
タイトルがひどいのは仕様です。
猫耳の人気にShit!!
茶色いブラウスの上に垂れさがるピンクのネクタイと、ふわりとした黒のミニスカートが、少女の動きに合わせて揺れている。シンプルなデザインながらもそのユニフォームは可愛らしく、それと同時に少し大人びていて、まさに今大人と子供の狭間にいる彼女にとてもよく似合っている。だが、実際に一番目を引くのはやはり、頭を飾る猫耳のカチューシャだろう。
「青年ん~」
ダングレスト、天を射る重星。時刻は昼と夕のほぼ中間で、間食、或いはティータイムを楽しみに来た客達で席は7割ほどが埋まっていた。そんな中、この街では大して珍しい光景ではないが大の男が向かい合って座っているテーブルが1つ。
「何だよおっさん」
蜜蜜ザッハトルテをほおばりながら、その片割れのユーリが先ほど気の抜けたような声を出したレイヴンに尋ねる。何かを目で追っていたレイヴンはユーリに顔を向ける――が、彼が食している見るからに激甘の菓子からすぐに視線を逸らした。
「……ねぇやっぱりさー、リタっちのあれ、反則だと思わない?」
いや、本当は逸らしたのではなく、再び向けたのだろう。
相変わらず何かを追っている彼の視線。その標的は……確認するまでもない、今この酒場でバイト中のリタだ。いつもながらに不愛想ではあるが、きちんと仕事をこなしている姿はそのユニフォームと相まってどこか愛らしい。
「どこがだよ、よく似合ってんじゃねーか」
そう言って最後の一口を平らげ、角砂糖を2つ入れたうまうまティーを啜るユーリ。
だがレイヴンは今度こそ顔を彼に向け、妙に真剣な顔で声を荒らげる。
「だ・か・ら・よ・!」
「?」
何が「だから」なのか読み取れず、ユーリは疑問符を浮かべる。
「はい、アイススピリッツパフェ」
そんな彼の前に、またもや甘そうなメニューが置かれる。運んできたのはもちろんリタ。
「お、来た来た」
待ってましたと言わんばかりに早速口をつけるユーリ、そしてその様子をげんなりとした様子で見つめるレイヴンに、リタは半眼で尋ねる。
「で、あんたたちは何が悲しくて男2人でこんなところ来てる訳? 暇なんだったらあんたたちも働いたらどうなのよ?」
もっともな彼女の言葉に、レイヴンはため息をつきながらも反論する。
「そんなこと言ったってねぇ……嬢ちゃんとジュディスちゃんは今日買い物当番だし、少年はわんこと修行行っちゃったし……。それに、今回はリタっちご指名で依頼が来たんじゃない、ウエイトレスやってくれって」
何でも彼女が働いていると客の入りがいいらしく、言われてみればいくらティータイムとはいえ客が多い気がする。特に野郎の。
「ま、おっさん達はそんなリタっちがちゃんと働いてるか心配でこーやって見に来てる訳」
「参観日か」
いつものように子供扱いとも取れる発言を受け、リタは心外そうに伝票板でレイヴンの頭を軽くはたいた。ダメージを受ける代わりに彼は苦笑し、手をひらひらと振ってやる。
「いいじゃないのよ。ちゃーんと売り上げにも貢献してるんだしさ、もちろんポケットマネーで」
「……ったくもう……終わったらさっさと帰りなさいよね」
まるで思春期の娘とその父親のようなやり取りだ。そんな2人が世間一般で言う恋仲(もっとも、本人たちに両想いの自覚はないようだが)にあるのだから、世の中分からないもんだな、と傍から見ながらユーリは思う。
丁度その時、向こうのテーブルで「すみませーん」と客が手を挙げた。
「あ、はーい!」
すぐさま身を翻し、そちらの方へかけていくリタ。
「いやー、やっぱ可愛すぎだって」
その後ろ姿に手を振りながら、レイヴンは独り言ともユーリに向けた言葉とも取れる呟きを発する。
「……おっさん、リタに萌えに来ただけだろ」
先ほど途切れた会話のこともあるので、ユーリはその呟きを拾う。すると彼はばっと顔をこちらに向け、必死に否定し始める。
「なっ……! 違うって!!
だってわざわざこんなところ来なくたってリタっちのあのユニフォーム姿はいつでも見られるし――って何!? その可哀そうな人を見る目!!」
スプーンをくわえたまま憐みの目を向けて来るユーリは、そんな彼に冷めた様子で尋ねる。
「じゃあなんで来てんだよ、わざわざ俺に奢ってまで」
そう、何を隠そうユーリをこの酒場に誘ったのはレイヴンであり、その食事代もすべて彼がもっている。どうせ碌な理由でないことは当初から予想はしていたが、なにしろこの天を射る重星は甘味メニューの充実した話題の店、タダ食いできるというのなら多少の厄介には目をつぶろう。
で、実際にはどんな厄介な理由かと思って彼の答えを待っていると、それは意外と単純なものだった。
「そんなの、リタっちが心配だからに決まってんでしょ」
「? ちゃんと働いてるかどうかがか?」
「違う違う、変な虫が寄ってきてないかどうかが、よ」
そう言いながら彼がリタとその周囲に視線を走らせるので、ユーリもつられてそちらを見る。
注文を伝票に書き込んでいるリタ、彼女に目を向けているのはそのテーブルの客と自分たち――だけではなく、周りのテーブルの野郎共もだ。思い起こせば他の店員もいるのに皆狙ってリタを呼びつけていたような気がする。当の本人は……おそらく気付いていないのだろう。そういう部分には鈍い娘だから。
「ただでさえ可愛いのに猫耳なんて付けちゃったら……大っきいお友達の気を引くに決まってるじゃないのよ~」
そう言うレイヴンは、本当に気が気ではない様子だ。
……まあ、その気持ちは分からないでもない。ユーリにしろエステルが似たような状況であったら少なからずの心配はするだろう。だが、今の状況はどう見ても――
「安心しろおっさん、変な虫なら既についてるから」
「へっ!?」
慌てたように彼はユーリを振り向く。続けて「どこ!?」と尋ねようとするが、それよりも早くユーリの人差し指がある人物を指差した。
「……………」
他ならぬ、レイヴンを。
「でえぇッ!? ちょっ! 青年どーゆー意味よ!?」
「どーもこーもそのまんまの意味だが」
「何!? おっさんがリタっちに寄る変な虫だって言いたいの!? 酷くない!?」
「自分で言ってりゃ世話ねーな。……いいじゃねーか、前に撃虫ブレス喰らわされてるんだし」
「うえ~ん、青年のバカぁ」
テーブルに突っ伏してめそめそと泣き真似(だろう……おそらく)をし始めたレイヴンに、ユーリは嘆息する。「どう考えてもあんたが1番不審人物だっつの」とトドメをさしてやりたいところだが、奢ってもらっている手前あまり手厳しくするのも少し気が引ける。仕方がないのでもう少し付き合ってやることにした。
「で、俺を連れてきた理由は?」
「おっさん1人だとリタっち目当てで来たのが見え見えだから……」
「……さっきリタに思いっきりバラしてなかったか?」
「甘味好きの青年がいたら本当にそれだけだとは思わないでしょ?」
「……俺、カモフラージュ用か?」
「嫌だったら食事代返して」
安くないんだから、と口を尖らせるレイヴン。ユーリはより一層大きなため息をついて、再びパフェを口に運び始める。
「そんなに心配なら止めさせればいいじゃねーか」
「だってぇ、やっぱり可愛いし、リタっち自身も気に入ってるみたいだし……あの服もバイトも。
……まあ別にね、本人がやりたいって思ってる以上おっさんとしても別に構わない訳よ」
レイヴンは再び顔を上げ、ストローの包み紙を指で転がしながらそう答える。だが、どこか釈然としない。
「つまり、問題は周囲の反応ってことか?」
明確な答えを求めるユーリの問いに、レイヴンは考えるためかしばらく黙りこんだ。
やがてうーんと唸ったあとで、肯定する。
「多分そーなんだろうね、確かに気に入らないわ。リタっちのこと、なーんにも知らないくせにちょっとそういう服着てるからってデレデレしちゃってる連中とかさー」
ガスファロストでジュディスとの初対面の時に鼻の下伸ばしてたのはどこのどいつだ、と胸中で呟くが、話が面倒な方向にそれてしまいそうなのでパフェの生クリームとともに呑み込んでおく。ようやく話の本質が見えてきたところでもあるし。
「おっさん、独占欲強いのな」
率直な感想を漏らすと、本人は自覚していないのか首を傾げて来る。
「へ? そう?」
しゃべり続けていて喉が渇いたのか、レイヴンはそう言うと彼が唯一頼んだごってごってカクテルのグラスに口をつける。
ユーリはそんな様子に再度ため息をつき、最後のフルーツを飲み込むと、そのままスプーンをレイヴンに突きつける。
「じゃおっさんは、リタをよく知ってる奴ならあいつをそーゆー目で見てもいいんだな?」
そこまで言ってから、精いっぱい意地の悪い笑みを浮かべて続ける。
「例えば……俺とか」
「――――!!」
思わぬ奇襲に、吹きだすのは寸でのところでこらえたレイヴンであったが、代わりに思い切りドリンクを気管に入れてしまい盛大にむせる。
「はっは、冗談だよ」
顔を真っ赤にして(おそらくむせたためだけではないだろう)苦しげにせき込むレイヴンにしれっとした態度で笑いかけてやると、彼は涙目になりながらも恨めしそうにこちらを睨んできた。
「ゲホッ! ……せーねぇん……!!」
ある程度落ち着いたところで、苦しさと恥ずかしさの入り乱れたうめき声を上げるレイヴン。
「おっさんに発破掛けるとは……いーい度胸じゃないの……」
「発破掛けられたって自覚があんなら、アホな言い訳ばっかしてないでリタに直接言ってやれよ……本当に心配してんだ、ってな」
怯む様子もなくユーリはそう言い返すと立ち上がり、テーブルを後にする。もちろん、伝票は残したままで。
「ごちそうさま」
言い残されたその言葉は、単に食事のことを指している訳ではないだろう。
取り残されたレイヴンは茫然とその背中を見送り、やがて深々とため息をついて額に手を当てる。
「……言える訳、ないでしょーよ」
ぼそりと呟いて、指の間からまたリタの姿に視線を向ける。
丁度注文を運び終えた彼女が、ぎこちないながらも営業スマイルを浮かべているところであった。
まったく、隠れ蓑にするためにユーリを連れてきたというのに、おかげでまた情けない自分を自覚してしまった――とんだ墓穴を掘ってしまったものだ。
「どー考えても、心配っていうより嫉妬だもの、これ……」
なんか前の2つに比べてものっそい長くなってしまいました……すみません。
リクありがとうございました!
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