今後の運営の参考にするかもしれないので、もしよろしければ回答してやってください。
期限は特に設けてません。
あ、後フリリクの方はやっぱり10月いっぱいを期限にします。
どしどしご応募(?)くださいね!
んでもって続きで現パロです。
Heartful Life ♯19:嵐の後の静けさ
「む、もうこんな時間か」
おっさん達をいびって遊んでいた(あたしにはそう見えた)アレクセイが、やけにごつい腕時計を見て言う。
キャナリと一緒にリバーの相手をしていたあたしは、それにつられて壁の時計を見る。針が差していたのは4時40分、外も大分日が傾いていて確かに朝から来ていたにしては長居の部類に入るだろう。
「まったく、貴重な休日をこんな中年共の家で過ごしてしまうとは……」
「あんたが勝手に来ただけでしょうが」
「何か言ったかレイヴン」
「何でもないです」
わざとらしくため息をついてみせながらも、アレクセイがニヤニヤしているのは明らかだ。
「さて、それでは私はもう……と、そうだ、忘れるところだった」
立ち上がって鞄を持ち玄関に向かって身を翻そうとしたところで、しかしその動きが止まる。そして鞄を開け何やら冊子を取り出すと、あたしの傍まで来てそれを差し出した。
「リタ、2人に聞いた話では君は優秀な頭脳の持ち主のようだな。
……気が向いたらで構わないが、その能力を他人の為に活かす道に進む気があるのならこれを参考にして欲しい。こちらとしても、君のような優秀な人材に来てもらうのは大歓迎だ」
「そっ! それは……!!」
あたしの目の前に差し出されたものに、何故かあたしより先に反応したのはおっさんの方。
「学生達からグラビア的な扱いを受けてて外来者用に大学構内に置いていても1日で在学生達に持って行かれてしまい、過年度の物になるとネットオークションでプレミアが付いているという噂まである、我らがザーフィアス大学医学部のパンフレット……!!」
ものすごい説明口調でそうまくしたてたおっさんだけでなく、シュヴァーンやキャナリ、イエガーも少し驚いているようだ。するとアレクセイはふんと鼻を鳴らし、補足する。
「しかもまだ配布していない来年度版だ」
「なんと! ということは、大将に加えて兄貴とキャナリも載ってると!!」
おっさん達がそんなやりとりしている間にあたしはアレクセイからパンフレットを受け取り、試しにページをめくってみる。まず、表紙をめくると医学部のキャンパスと大学病院の写真、それを更にめくると学部長あいさつ――つまりアレクセイの写真が載ったページで、紳士然としたドヤ顔で椅子に腰かけた姿が映っている。どう見てもポーズをとっているのにそれが様になっているあたり、グラビア扱いされるのも何となくだが分かる気がする。
更にページをめくっていくと、アドミッションポリシーやらカリキュラムやらの紹介が数ページ続き、学科ごとの紹介。今度は教員紹介でシュヴァーンの写真が載っていた。こちらは普段の授業風景らしく、白衣を着たシュヴァーンがホワイトボードを背に口を開いている。
そしてパンフレットの最後の方、卒業後の進路と見出しのついたページにはキャナリの写真。病院で普通に撮った立ち絵みたいだけど、後ろの方にちゃっかり笑顔のイエガーが写り込んでいる。狙ったんだろう。多分。
「キャナリ、白衣似合うわね」
「あらそう? 自分ではあまり意識したことはないけど……でもそう言ってもらえて悪い気はしないわね、ありがとう。
あ、ちなみに去年のパンフレットにはイエガーが載ってたのよ。そろそろレイヴンもお呼びがかかるんじゃないかしら?」
「ふーん……」
……そういえばシュヴァーンもイエガーも白衣似合ってるけど、ふとおっさんはどうなんだろとか考えてしまった。アレクセイは何となく想像できるけど。
「というかアレクセイ、ちゃっかり勧誘じゃないですか……」
「未来ある若者に選択肢を示したまでだ」
身を乗り出すおっさんとは対照的に、シュヴァーンは溜息を吐きつつ半眼でアレクセイを眺める。だが当のアレクセイは意に介した風もなくそう言ってのけると、「それではな」と鞄を持ち直して今度こそ退出するべく身を翻す。
「じゃ、私達も帰りましょうか」
「そうだな、コイツらも晩飯の準備あるだろうし」
彼に続くように、キャナリとイエガーも立ち上がる。
「りたぁー」
帰宅ムードが分かったのか、キャナリに抱きあげられたリバーが名残惜しそうにあたしの方へ手を伸ばしてくる。あたしからも手を伸ばしてみると、小さな手で中指を握られ、何だかこちらまで名残惜しくなってしまう。
「……玄関まで送るわ」
「ありがとう。……それじゃ、シュヴァーン、レイヴン、私達は帰るわよ」
「じゃあな。リバーも2人にバイバイは?」
「しゅばー、れーぶぅ、ばいば!」
上体を起こすまでには回復したものの未だテーブルに張り付いたままのおっさん達にそう告げたキャナリとイエガーに続いて、リバーが元気よく手を振る。
「ばいばーい」
「4人とも気をつけてな」
一方のおっさん達は力なく手をふらふらと振りながら別れのあいさつを口にし、4人を見送る。
「今日は、ありがとう……楽しかった」
ぞろぞろと玄関から出て行く4人に、家の中からそう声をかける。
「そう言ってもらえて何よりだ。
ま、これからもせいぜいこき使ってやるといい。いい年こいて独り身の連中だ、良い刺激になるだろう」
「まったくもって同感ですがあの2人もあなたには言われたくないと思いますよ」
アレクセイがあたしに返して来た言葉に肩をすくめながら口を挟むイエガー。この2人と実際に過ごした時間は短かったけど、あんなに美味しいクレープが食べられたのは彼らのお陰だし、本人達が言っていたとおりわざわざ休日を利用して来てくれたんだし、本当に感謝している。
「では、な。また会える時を楽しみにしている」
「グッバイ、リタ」
「あ、うん……さよなら」
「ありぇく、ばいば!」
「ああ、リバーもまたな」
そのまま廊下を進み始める2人に別れの挨拶を返して、あたしはあえて残ったようにも見えるキャナリを向く。
「キャナリも、今日はありがとう」
「こちらこそ、楽しかったわ。リバーの遊び相手もしてもらえて嬉しかったし」
「うん……リバーも、ありがと」
「りたぁ」
あたしの指を握ったままのリバーにも礼を言うと、とても嬉しそうににっこりと笑う。その様子はとても可愛らしいけど、ただ、ずっと手を離す気配がないので少し困ってしまった。
「さあ、帰るわよリバー。リタにもバイバイね」
そんなリバーの腕を軽く引きながらキャナリが顔を覗きこんで言うと、リバーはきょとんと彼女を見上げ、やや遅れてから自ら手を開いた。
「りた、ばいば」
先程までと一変してしゅんとした様子のリバーがまた可愛らしくて、また思わず頬が緩む。
「バイバイ、リバー」
そのままあたしがゆらゆらと手を振って見せると、リバーも同じように2、3回手を振ってすぐにキャナリにしがみつく。その様子に苦笑しながら、キャナリはあたしに説明する。
「ごめんなさい、寂しい時はこうなのよ。シュヴァーンとレイヴンや先輩とはもう何度も会ってるからまた会えると思っているのだろうけど、初めて会った人とはいつもこんな感じでね」
「そうなんだ……」
あたしがいつまでこの家にいることになるかは分からないけど……また、会えるといいな。心の底でそんなことを考えながらリバーの背中を眺めていると、キャナリの手があたしの頭に触れた。
「あの2人を、よろしくね」
「?」
今度はあたしがきょとんとキャナリを見上げる番。だって、よろしくされてるのはどう考えてもあたしの方なのに……。
あたしの困惑を察しているのか、キャナリはまた苦笑を浮かべていた。でも彼女はそのまま何も言おうとはせず、あたしの頭から手を離すとリバーを抱き直し、身を翻す為に片足を引いた。
「それじゃ、私もそろそろ行くわ。イエガーを待たせても悪いし。
……またね、リタ」
「え、あ……うん、バイバイ……キャナリ」
疑問を引きずったまましどろもどろに答えたあたしにキャナリはまたくすりと笑ってから、ふわりと長い髪をなびかせながら身を翻した。
嵐のような1日が去り、どうにかこうにか夕食まで終えた。とりあえずリタを風呂に入れ、俺とレイヴンはというとリビングでコーヒーを啜りながらテレビのニュースを観ていた。
今日のトップニュースはとある政治家の汚職事件。先日大物俳優との結婚を発表した女性キャスターがニュースの概要を読み上げると、画面は取材VTRに移行する。事務所から運び出されていく段ボール、他の政治家や専門家へのインタビュー、そして当の本人が都合よく体調を崩して入院したところまで伝え、また先ほどのキャスターが映ってニュースを締めくくる。その直後に番組のテーマ曲が流れ、一旦CMへ。
「可愛かったねぇ……」
すると、ほう、と息を吐いたレイヴンがしみじみとした様子でそう言ってきた。
俺はマグカップをテーブルに置きながら、返す。
「やめろ、お前が言うと犯罪臭がする」
「兄貴だって思ってたくせに」
「当たり前だ。あれで可愛くないと抜かす奴はもはや人間ではない」
「うわ、すっげーデレ発言……」
「せめて親バカと言え、愚弟」
「そのくせ実の弟にはツンツンね、相変わらず」
テーブルの上に顎を乗せ、レイヴンが今度はため息をつく。だがその顔がへにゃりと笑っているのは見なくても分かる。
「兄貴、顔にやけてるわよ」
「………………」
しかし自分の表情までは自覚しきれていなかったようだ。真顔のつもりだったが、レイヴンに指摘され頬が緩んでいることにようやく気付く。
無論、俺達が話しているのは先程の女性キャスターのことではなく――
「ま、リタっちが笑ったのなんて初めてだったからねぇ……思い出し笑いもしたくなるわ」
そう言うレイヴンもまた思い出したのか、くっくと喉を鳴らして笑っている。
だが実際、この家に来てからリタが笑ったのは初めてだった。最近は少し表情が和らいできたとはいえ、まだどこか緊張したような、それでいて不安そうな表情でいたことが多かった。
それが、今日になって笑ってくれた。ふわりと、自然で、可愛らしく。
「礼も、初めて言われたな」
別に礼を言われたくて今まで彼女を置いていた訳ではないが、やはり言われるのと言われないのではモチベーションに差が出てくる。おまけに、少しぎこちなかったのが初めての笑顔と相乗効果を生み、驚き以上に思わず見惚れてしまった(ところをひっぱたかれて我に返った)。
「リバー君との反則的に可愛い組み合わせと言い、今日はホントいいモン見れたわ。明日職場についたらみんなにお礼言わないとね……」
「まったくだな」
それもこれも、きっかけを作ってくれた学部長やイエガー一家のお陰だ。最初はいい迷惑だとしか思っていなかったが、彼らもやはりリタと俺達のことを心配してくれているのだろう。
ただ1つだけ、増えた心配事――アレクセイが渡した、あのパンフレットだ。
リタの家出の事情は未だ不明なものの、年齢から考えるに進路関係の悩みで家出に至った可能性も否定はできない。KY学部長殿がそれを彷彿とさせるものをリタに渡した時には内心ハラハラしたものだ。
あの時、俺とほぼ同じ思考回路を持ちながらも俺よりちゃらけたキャラを通しているレイヴンが妙にテンションを上げていたのも、リタを気遣ってのことだろう。無論、アレクセイも何の配慮もなしにあんなものを渡した訳ではないだろうが、俺としては彼女を焦らせてしまうのではないかという不安が拭いきれない。
だが――
「大丈夫よね、リタっちなら」
「ああ。俺達がとやかく言わなくても、ちゃんと自分で答えを見つけられるさ」
「ま、俺様はも少し頼られてもいいと思ってるんだけどねー」
お互いにしばらく黙りこんでいたにもかかわらず、唐突に始まった会話は見事に繋がる。
ほんのわずかな期間だが、今まで見てきた彼女は、人並みか、それ以上の強さも感情の豊かさも持っている。今はただ独りで頑張ることに疲れてしまっただけで、時が来れば自ずと自分の身の振り方も見つけられるだろう。今日キャナリ相手に答えていたように。
(要らぬ心配だったか……)
そう胸中で呟いたのはレイヴンも同じようで、マグカップを再度持ち上げるついでに横目で見ると苦笑を浮かべていた。コーヒーに映った俺の顔も、同じ表情をしている。
それを口元に運んでいると、洗面所のドアが開く音。それからぺたぺたと足音を鳴らして、リタが廊下から顔をのぞかせる。
「お風呂空いたわ。今日はちょっと疲れたからもう寝るわね……おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみー」
そっけないやり取りだが、家に来た当初はこんな挨拶もなく風呂から出て自分の部屋に直行していたリタが、わざわざ俺達に声をかけてくれていることが本当は堪らなく嬉しかったりする。それに今日のリタはキャナリに連れ回されたりリバーの遊び相手になったりで本当に疲れているらしく、すでに目がしぱしぱしていてとても微笑ましい。
彼女が身を翻して部屋に戻る足音を聞きながら、テレビの画面に意識を戻す。いつの間にかCMは明け、今度は相方の男性キャスターが芸能人のおめでたのニュースを読み上げていた。
何ということはない日曜の夜の風景。だが今日は、今までの日曜日の中でもかなり充実した日曜日だったような気がする。ブルーマンデーどころか、次からの1週間を乗り切る気力を与えられたくらいに。
さて、とりあえず明日は思い出し笑いをしないように気をつけねばな。
兄貴が思いの外リタっちにデレデレだった件。
そして管理人も医学部のパンフレットほしい(^p^)
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