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今日も幸せレイリタ日和。
2025/04/21 (Mon)10:19
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2011/11/20 (Sun)15:50

架空請求からの手紙と電凸にも負けず(実話)、書かせて頂きました黒兎様からのフリリクです。

「まいたけPTinシリーズでカロル君かシュヴァリタのお話」とのことだったんですが、どちらにしようか迷った結果混ぜてみました^^
お陰でどっちつかずな感じになった気がしないでもないですが、よろしければお進みください。

紅き福音は燈色に注ぎ


「シュヴァーン隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「うっげぇ」

 カプワ・ノールに入った途端飛んで来た声にそちらを見やれば、港の方向から駆け寄ってきているシュヴァーン隊小隊長ルブラン。天の恵みと言わんばかりの形相で、装甲をガチャガチャ鳴らしながら一直線にこちらに向かっている。一方、今やただのレイヴンという胡散臭い道化に落ち着いた元シュヴァーンはすぐさま面倒事の臭いを感じ取り、困惑と悲嘆の感情を声と顔に表してみせる。
 だがそこで逃げ出さないのが、何だかんだで面倒見のいい彼の人間性だ。ルブランに気付くと同時にユーリやジュディスがバッチリ彼の両脇を堅め、退路を塞いだというのもあるが。
「おおシュヴァーン隊長! 不肖このルブラン、丁度隊長がいてくれたらと嘆いておった矢先に現れてくださるとは何たる幸運!!」
 未だ尊敬の眼差しで自分を見上げてくる年上の元部下に、レイヴンは大きくため息を吐きながら訂正する。
「だぁから俺はただのレイヴンだって!」
「もうこの際ただのレイヴン殿でも構いません! お力をお貸しください!!」
「何か傷付く言い方ね、それ……」
 訂正は受け入れられたもののどうも引っかかる物言いに肩を落とすレイヴン。だがルブランは切羽詰まった事情のためか尊敬する元隊長に出会えた感動のためか(おそらく後者だろう)、それを気にかけることなく興奮した様子で事情を説明してくる。
「現在我が隊はフレン騎士団長殿の命により、先日の嵐で被害を受けた港の整備を行っているのですが、慣れない土木作業に隊員達の士気が低く……おまけにこの街の執政官殿が必要資材への出費を出し渋っている状況でして……。2日でいいので、なんとか隊ちょ、レイヴン殿のお力をお借りできないものかと……」
「そんなこと言われても、こっちにはこっちの事情ってもんが――」
 そう断ろうとしたレイヴンだったが、その言葉を先程の青年達が遮る。
「おう、いいじゃねぇか。行ってこいよ、おっさん」
「支持役も交渉役もおじさまの専売特許だものね」
「どうせこの街には補給がてらしばらく滞在するつもりでしたし、仕事が終わるまで待ってますよ」
 ユーリとジュディスがいかにも楽しそうにそう提言し、純粋なエステルも2人に同調する。
「サボってばかりのおっさんも、たまには世のため人の為に働くべきなのじゃ」
「てゆーか、ウザったいのが減るから別にこっちに帰ってきてくれなくても構わないけど」
 挙句の果てにはまだ幼い少女達にまで辛辣な言葉を浴びせられる始末。
「うえ~ん、たいしょー、みんながいじめるー」
 そんな彼が泣きついたのは、一行の最後尾で自ら空気のように存在を薄めていたアレクセイ。

「……君にしか出来ぬ仕事があるのだろう? それを大事にしたまえ、レイヴン」

 現役の騎士とはあまり顔を合わせたくなかったというのに、ルブランの意識がこちらに向いてしまう。アレクセイはそう答えながら、羽織ったローブについているフードを深くかぶり直した。
 ――そのまま受け取ればシュヴァーン隊の手伝いを促すような言葉だったが、実は明確な意見を避けていることに気づいた者は何人いただろう。
「おお、アレクセイ殿にそう言っていただけるとは……!
 それではレイヴン殿をお借りしても?」
「人を物みたいに言うなっつーの」
 もはや諦めた様子のレイヴンは案の定承諾と取ったルブランにぼそぼそと抗議してみるが、やはりこの元部下の耳には入っていないようだ。
「……一般人の私に敬称と敬礼は止めておきたまえ。
 それに、今レイヴンの采配権を握っているのは凛々の明星だ……断りならそこの少年に入れるのだな」
 一方のアレクセイも、未だ騎士流の礼儀作法で接してくる彼に深くため息をつき、言葉で幼き首領を示す。突然話を振られたカロルは「ボ、ボク!?」と驚愕していたが、自分の立場を今一度自覚した様子ですぐに気を取り直しその場の全員に告げる。
「えっと……じゃあ、今日と明日の2日、レイヴンはシュヴァーン隊を手伝うこと。その間僕らは宿に滞在、明後日の出発に向けてレイヴンの分も準備を整えておくこと……これでいいかな?」
『異議なーし』
 カロルがまとめた案に一同が頷き、当事者を除いた満場一致となる。それを見てレイヴンはもう一度ため息をついてから、カロルにちょいちょいと手招きする。
「しょーねんしょーねん」
「何?」
 呼ばれるまま素直にカロルが近寄ると、彼はしゃがみ込んでこそこそと耳打ちしてきた。

「おっさん、明日大将と買い物当番なんだけど、ちゃんと代理立てといてね。ほっといたら絶対あの人1人で行っちゃうから」

 何かとアレクセイのことを気にかけている彼らしい頼み事。しかしそれは彼に限らず、仲間として共に旅をしている自分達にとっても好ましいことではないだろう。義を以て事を成せ、不義には罰を。それがカロル達のギルド、凛々の明星の掟だ。

「……分かった、ボクが代わっとくよ」

 レイヴンに一時離脱の指示を与えた者として、カロルはそう申し出た。
「……ありがと。んじゃあ頼むわね」
 少し驚いたように2、3度瞬きをしてからレイヴンは微笑み、ぽんぽんと頭を軽く叩いてくる。それから彼は「よっこいせ」と立ち上がり、ルブランの隣に立つ。
「じゃ、抵抗の権利も何もない可哀そうなおっさんはちょっくらお手伝いしてくるわ。寂しくても泣かないでねリタっち♪」
「だっ! 誰が泣くかぁ!! いいからさっさと行けぇー!!」
 開き直ったのかいつもの軽々しい調子でひょいと片手を上げ、ついでにリタをからかうレイヴン。その後すぐに、彼女が放ったファイアボールに追われルブラン共々港の方へと姿を消して行った。

 

 目が覚めると、カーテンの向こうはまだ白んでいる程度だった。身体を起こして壁にかかった時計を確認すれば、朝食の時間より2時間程早い。
 覚えていないがまた悪夢を見ていたらしい、自分の額に汗が浮かび、喉が渇いているのが分かる。眠気ももう残ってはおらず、ただ寝起きと睡眠不足の気だるさがあるだけである。
 完全な覚醒を決めたアレクセイは、ベッドから下りとりあえず不快な汗を流すことにした。しばらく寝つきが悪く目覚めも早い日々が続いており、昨夜も夕食を済ませていつもどおり外を数時間ふらついてから誰よりも遅くベッドに入ったので、実質睡眠時間は2時間程度か。まあ、かつては徹夜続きの日常を送っていた身だ、今更気にすることはないだろう。
 同室にある他の2つのベッドでは、ユーリとカロルがまだ寝息を立てていた。彼らを起こさないように足音を潜め、着替えとタオルを持って部屋を出る。
 部屋と同様まだ薄暗い廊下を右に進み、宿泊者共用の浴室へ向かう……その途中、明かりが漏れている部屋が一つ。あれは確か、浴室と同じく共用のキッチンだ。どうやら誰かが料理をしているようで、包丁の音と魚を焼いているような匂いが洩れてきていた。だが今この宿に泊まっているのは自分達だけのはず、しかも今日の料理当番はユーリで先程部屋のベッドで眠っている姿を確認したばかりだ。
 その前を通りかかるついでに中を覗きこんで見ると、手前のテーブルの上にやや大きめの弁当箱が置かれ、ポテトサラダとゆで卵が4分の1程のスペースに盛りつけられている。そしてそのテーブルの奥にある調理台ではサバが火にかけられ、更にそこで背を向けて立っていたのは、あの魔導少女。
「モルディオ?」
 思わず姓を呼ぶと、少女は弾かれたようにこちらを振り向く。その手には包丁が握られており、状況からしてこの弁当を作っているのは間違いなく彼女だろう。
「あ、あんた……何でこんなトコに……!?」
 顔を真っ赤にしたリタは酷く動揺した様子でアレクセイに問う。
「目が覚めたら汗をかいていたのでな、シャワーでも浴びようと思って通りかかっただけだ。
 ……君こそ、こんな時間から何を? その弁当は――」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 嘘を吐く必要もないので正直に答えてからテーブルの上の弁当箱を指差し今度は自分が尋ねようとすると、リタは顔を一層赤くして悲鳴のような声を上げながら弁当箱を自分の身体の後ろに隠す。
「……どうかしたのか……?」
 事情の呑み込めないアレクセイは首を傾げ、またリタに尋ねる。すると彼女はしばらく視線を泳がせてから、はっと閃いたかのようにいきなり話し始めた。
「こ、これはあたしの分よ! 今日は1日研究で籠る予定だから、お腹が空いた時の為に作ってんの!!」
「ふむ、そうか……だがどうしてこんな早い時間から作っているのだ? 君は魚はあまり好きではないはずでは――」
「う、うううっさいわね! 今日はそんな気分だったのよ!
 あと言っとくけど、あたしが弁当作ってたこと誰かにバラしたらぶっ飛ばすからね!!」
 更に首を傾げながら尋ねると、何故か必死の形相でそう答えた彼女に睨みつけられて、挙句の果てには「ほら、シャワー浴びるんならさっさと浴びに行きなさいよ!」とその場を追い出されてしまった。

 

「えっと……次は食材、だね。ライスとヌードルと――」
 賑わう市場を歩きながら、不足し始めていた薬品や道具を詰め込んだ紙袋を片手に抱えたアレクセイの隣で、カロルが買い出しのメモを確認する。
 アレクセイはその間、カロルと無関係に見えるようにやや距離を置きながらも、他の通行人とメモを見ながら歩く彼がぶつからないようなスペースを作れる絶妙な位置に着いて市場を進んでいた。
 昨日と同様なるべく顔が隠れるようにかぶっているフードの付いた紅いローブは、ただのマントでは味気ないからとエステルとジュディスがリタに頼んでアスピオから取り寄せてもらったものだ。アスピオと言うからには勿論魔導士用のものなのだが、実際に着用してみたら発案者の2名だけでなくレイヴンやカロルにも似合うと絶賛され、アレクセイとしても顔が隠せれば何でも良かったので、そのまま利用が決まってしまった。尚「そんなガタイのいい魔導士がいるかよ」というユーリの意見は黙殺されている。
 だが顔を隠す理由は自分の身を守るためではなく、共に行動している彼らに迷惑をかけないためだ。いくら次期皇帝の命とはいえ天下の謀反人と一緒にいると知られれば、これから成長していく凛々の明星にとっても何かと都合が悪かろう。
「アレクセイは、何か買いたいものある?」
「………………」
 だが人前で名前を呼ばれてしまってはあまり意味がない、幸いすれ違った人間で聞き咎めた者はいないようだが。
 それを確認してからカロルを見下ろすと、彼は少しぎこちない笑みを浮かべていた。元々、レイヴンの代わりに一緒に買い物に行こうと切り出してきた時点でこの少年は緊張を隠し切れていなかったのだ。何しろ彼の最も尊敬していた人物の仇として一度対峙しただけで、それ以前に何か特別なやり取りがあった訳でもないしこの旅に加入してからもそうなのだから当然だろう。
(正直なものだな……)
 そう胸中で感想を述べてみるが、すぐに今一緒に旅をしているのは素直でないだけで至極正直な者ばかりであることを思い出す。
「……いや、特には――」
 強いて言えばそろそろ切れ味の悪くなってきた剣の手入れなり強化なりを行いたい所ではあるが、市場で帯剣していると邪魔になることが目に見えていた為生憎宿に置いてきている。どちらにせよ、時間を食うことなので買い物が終わってから行けばいいだろう。
 そう思って首を振ったアレクセイの言葉はしかし、近くの商店から上がった叫び声によってかき消される。
「泥棒だー! 誰かそいつを捕まてくれ!!」
 返答を中断し声がした方を振り向くと、捕まえてくれ、と頼まれたにもかかわらず通行人はどよめきながら慌てて道を空けていた。
 その間を走り抜けているのは、片手一杯に宝石類を握った1人の男。もう片方の手には短剣が握られており、それを振り回しながら市場の外へと突進していく。おそらくこのまま街を出てとんずらするつもりなのだろう。
「カペル、荷物を頼む」
「わっ!?」
 それを認めるや否や、アレクセイは反射的に荷物をカロルに押し付け男の方へと駆け始めていた。通行人が空けた道に出、正面から迎え撃つ姿勢を見せる。
 男はアレクセイに気付くと、振り回していた短剣の狙いを彼に定める。大きく振りかぶられた短剣が振り下ろされ、腕の力だけでなく疾走による運動エネルギーも加わった刃が、丸腰のアレクセイに迫り、周囲の通行人達から悲鳴が上がる。
 だがアレクセイは直立した体勢を崩すことなく、男の手が振り下ろされた瞬間に自分も片腕を動かし、一瞬の内に相手の手首を掴んでいた。そしてその手首を掴んだまま、男の背後に回り込んで足払いを掛ける。
 何が起きたか分からないまま強盗の男は正面から石畳に叩きつけられ、おまけに捻られた状態の腕を無理に伸ばされる形になり悲鳴を上げる。
「わざわざ騎士団が駐屯している時に強盗とは、ご苦労なことだな」
 無理のないところまで腕を戻してやるついでに男の手から落ちた短剣を拾い上げながら、アレクセイはそう吐き捨てる。もっとも、騎士団はほとんど港の方にいる為大した障害ではないのかもしれないが。
 すると周囲の通行人達から拍手と歓声が沸き上がり、そこで自分が大捕り物を演じてしまったことを今頃になって悟る。はっと我に返ったアレクセイは、脱げかけていたフードを慌ててかぶり直し、彼らから顔を見られぬよう顔を伏せる。
「どうした!?」
 その時、騒ぎを聞きつけてたのか丁度いいタイミングで鎧をつけた騎士が駆け寄ってくる音が聞こえてきた。なるべく最小限で顔を上げると、シュヴァーン隊の若い騎士が2名、こちらに向かってきている。
「その男は?」
 騎士がすぐ傍まで来たところでアレクセイは再び俯き、顔を隠しながら問いに答える。
「……そこの宝石商で盗みを働いたようだ」
「そうか、協力感謝する。では、そいつの身柄はこちらで預かろう……ほら、立て。」
「誰か怪我をした者はいないか? それと、被害に遭った店の者は盗品を確認してくれ」
 そして的確に手順を進めて行く騎士達に男を引き渡し、立ち上がり一刻も早くその場から離れようと身を翻す。だがその焦りがフードを僅かに翻させ、騎士達にとってよく見知った顔を判別するには十分なくらい顔を露出させてしまう。
「あ……あなたはもしや……」
 案の定騎士達は彼の正体に気付いたようだった。心底驚いた様子でそこまで言って、そのまま固まってしまう。
「……後は、頼む……」
 内心で舌打ちしてから、それだけ言って彼らの傍を離れる。しかし騎士達から離れても通行人達の視線は未だ自分に向けられており、カロルと合流するのも躊躇ってしまう。
「すごいや! 素手で強盗を倒しちゃうなんて!!」
 だがまたしてもそんな配慮を意に介さないカロルの方から駆け寄ってきて、慣れ慣れしく話しかけられてしまった。しかも生き生きと輝いた目を向けられ、他人のふりをしてこの少年を傷付けてしまうのも憚られる。

 だがそれ以上に、この少年から、周囲から、自分に向けられる称賛の目が心地悪くてしょうがなかった。

 

 買い物を済ませ、休憩がてら座った港を一望できる公園のベンチ。その港では、燈色の騎士達があくせくと動き回っている。
 ぼんやりとその光景を眺めながら、アレクセイは隣に座って屋台で買ったたい焼きを齧っているカロルに告げる。
「先程は、すまなかったな」
「え、何が?」
 だがカロルはその謝罪に心当たりがないらしく、きょとんと自分を見上げてきた。
「君に荷物を押し付けた上、目立つ行動を取ってしまった」
 そう説明するが、カロルはますます疑問符を浮かべる。
「何言ってんのさ、アレクセイはあの強盗を捕まえたんだよ? 確かに荷物をいきなり持たされた時はびっくりしたけど、ああでもしないとアイツ逃げちゃってたかもしれないじゃないか。ボクに謝る必要なんてないよ」
 純粋な少年らしくアレクセイの謝罪を否定するカロル。
(何故そうも私を肯定する……私のしてきたことは、君もよく知っているだろう)
 直接口に出すことなく胸中で紡いだ問いに答えが返ってくるはずもなく、しかし答えを求めればこの純粋で心優しい少年は困惑してしまうのだろう。
 視線の先には、ルブランが用意していたのか燈色の隊長服に身を包み、図面片手に指示を出すレイヴンの姿。どうやら立ち振舞いもシュヴァーンでしているらしく、普段のチャラけた印象とは異なりアレクセイの見慣れた引き締まった表情でてきぱきと部下達を動かしているようだった。周りに積まれた資材を見るに、執政官との交渉も上手く行ったのだろう。
 ――だが、あれは本当に彼の望んだ姿なのだろうか?

「……私は、間違ってばかりだ……」

 ぽつりと、無意識の内にそう呟いた。
「…………?」
 カロルがまた疑問の目を向けてくるが、アレクセイはシュヴァーンの姿をしたレイヴンを見つめたまま反応を示さない。
 ふと思い出すのは昨日のやり取り。あの時自分は、彼にシュヴァーンを強要することなど出来なかった。自分の勝手な都合で創り出し、よりにもよって捨ててしまった騎士……もし彼に独立した感情があったならば、さぞや自分を恨んでいることだろう。
 そうでなくとも、彼がホワイトホースや凛々の明星の仲間たちによって取り戻していた心を、シュヴァーンを被せることで1度また殺したのも他ならぬ自分だ。

「あ、リタだ」

 その時、カロルが上げた声によってアレクセイは我に返った。考え込んでいる内に昼休憩の時間に入ったのか、一度整列した形跡のある騎士達が解散しているところだった。その奥に立っていたレイヴンの元に、パタパタと走りよって行くリタの姿――彼女の両手には、見覚えのある弁当箱が持たれている。
(あれは、今朝の……?)
 間違いない、確かに今朝キッチンでリタが広げていた弁当箱だ。
 レイヴンも彼女に気づいたらしく、少なからず驚いた表情を浮かべながらそちらに身体を向けた。
 そしてリタはレイヴンの正面に到達すると、彼から顔を背けてぶっきらぼうに弁当箱を突き出した。アレクセイ達の方を向く形になったその顔はここから見ても耳まで真っ赤なのが見てとれ、不機嫌そうな表情ではあるが照れていることが分かる。
 そのまま2人は何事か話していたが……というか、レイヴンの問いにリタが一言二言で返しているだけのようだったが、やがてフッと笑ったレイヴンが突き出された弁当箱を受け取り、ついでに跪いてリタの手を握るとその甲に口づける。

 リタの顔から、爆発したように煙が上がるのが見えた気がした。

 2人の傍では、その一部始終を見ていた(多分聞いてもいただろう)ルブラン達が、何故か男泣きをしている。
「……ねえ、アレクセイ」
 その様子を見てくすくす笑っていたカロルが、不意に話しかけてきた。
 隣を見下ろせば、曇りのない、大きな瞳と目が合う。
「確かに、アレクセイがしてきたことの中には間違いもあったと思う。でもね、今日強盗を捕まえたことは絶対に間違いなんかじゃないよ。それに――」
 そこまで行ってから、カロルはもともと浮かべていた笑みを更に深くし、無邪気な声でアレクセイに告げる。

「ボクも、リタも、他のみんなも、レイヴンのこともシュヴァーンのことも大好きだって思ってるよ」

 共に旅をしているメンバーの中で一番素直で正直な少年にそう言われ、アレクセイはもう一度まじまじと港の方を見つめる。
 そう、シュヴァーンの存在が間違いならば、今こんな光景はないはずなのだ。別人を名乗っているというのに助けを求められ、可愛らしい恋人とのやり取りに部下が感極まって泣いてしまうなど、シュヴァーン自身が慕われていなければあり得ない。

「シュヴァーンもレイヴンもついでにダミュロンも、ぜーんぶ俺だったんですよ、大将」

 共に旅をすると決める前、「私には恨みがある筈だろう、何故助けた」そう尋ねた自分に彼が出した答え。あの時は表面上の意味しかとらえていなかったが、今なら、その本当の意味が理解出来るような気がする。
(……だから君は、ここにいるのだな)
 きっと、彼自身も気付いたのは全てが終わった後だったのだろう。苦笑しながら紡がれたその言葉には、少なからずの後悔が込められていたように思う。だがそれ以上に感じられたのは、彼を闇の淵から掬いあげてくれた仲間への感謝。
「……カペル」
「何?」
 本来ならば自分が気付かせてやらなければいけないことだった。しかしそれを肩代わりしてくれたのが彼らで良かったと、心から思う。

「ありがとう、彼を救ってくれて」
「それは、ボクの台詞だよ」

 互いに食い違った礼を述べるが、どちらにも嘘は含まれていない。おそらくその食い違いすら、現在リタにクリムゾンフレアをお見舞いされている彼本人にとっては些細なことなのだろう。


 ――紅き福音は燈色に注ぎ、いずれまた別の紅を満たす。














なにこの大将めんどくさい。
多分初めてカロル君をメインに書いたので、何かキャラが違うかもしれませんが勘弁してください……。
リクに添えてあった「貴方が創った騎士もちゃんと愛されてるんだよ」という言葉に(´;ω;`)ブワッとなりました。うん、管理人が。
その思いを少しでも表現できてたらなぁと思います。
……あ、アスピオローブはもちろん管理人の趣味です(殴)。

黒兎様どうもありがとうございました! よろしければお持ち帰りください。


これにてめでたくフリリク全消化です、皆様素敵なリクありがとうございました!!
次は多分5万HIT……かな?
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拝見させて頂きました!
夜分にすみません。
コメントページへ失礼致します!

先日舞茸PTinのリクエストをさせて頂いた黒兎と申します。


リクエスト品ありがとうございます!!
拝見させて頂きました~♪
どっちつかずな曖昧なリクエストだったにも関わらずワガママを聞いて頂いて本当にすみません、素敵な作品をありがとうございます!

架空請求…大丈夫でしたでしょうか?
何やら大変な時期にすみませんでした…(・_・`)


素敵なシュヴァリタと閣下とボスの可愛いツーショットをありがとうございますvV
たい焼き、閣下に買って貰ったんでしょうかv
カロルくんはしっかりしてるから自腹かもですが、どっちにしろかわいい…。
跪く騎士は最高ですよね!愛妻弁当羨ましい…。

大切に保存させて頂きます♪


これからも陰ながら応援させて頂きます。
お身体に気を付けてお過ごし下さい(^ー^)
黒兎 2011/11/22(Tue)00:56:24 編集
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ちなみに管理人はチキンなのでリンクフリー。
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