ただこの2日間は奇跡的にまとまった時間が取れたのでキリリク小説アップです。
ヴェスペリア1周年記念に何か……やれたらいいな(^q^)
prime number
また、あいつが来た……。
夜の甲板で、海でもなく空でもなくただ正面を向いている彼の後姿を見つけた時、そう直感した。
当然、表情は見えない。ただいつもより少し伸びた背筋から醸されているのは、儚さにも似た哀愁……いつか消えてしまうんじゃないかと、こちらが不安になってしまいそうな、そんな雰囲気。
歩み寄っていくと、すぐ気配に気付いて振り向いて来た。
「リタ……」
普段より1文字半が欠落したわずかな……だが、天と地ほどの呼び名の違い。
髪形も、服装も、いつもの彼のものだ。それでも、今目の前にいるのは〝彼″ではない。
「久しぶりね――シュヴァーン」
あたしの言葉に、月明かりに照らされた彼はしまったとでもいうような表情を浮かべ、そしてすぐに苦笑する。
「また見つかってしまったな」
そう言いながら、髪紐を解く彼。
レイヴンの時の癖毛を多少残しながらも、元々は纏まりやすいのだろう、少しくすんだ黒髪はパサリと落ちてシュヴァーンを形成する。
「もう3度目か……」
時折、彼はシュヴァーンに戻って何かを思考している。
気付いたのは2カ月ほど前だが、本当はもっと前――おそらく、あたし達に正体を明かす前からそういうことはあったんだと思う。
初めてあたしが追及したのは気づいてから2度目くらいの時。彼は諦めたように認めた、今の自分はシュヴァーンだと。
そしていつも髪を下ろすのは、あたしがレイヴンとシュヴァーンを混同しないようにとの苦し紛れの策。レイヴンとシュヴァーンを割り切ろうとしている彼にとっても、レイヴンの姿のままシュヴァーンとして人と話すのは抵抗があるのだろう。
結局どちらも彼に変わりないというのに、本当につまらない拘りだ。
「何考えてたの?」
隣に立ち、シュヴァーンに尋ねる。
だが、その答えは何となく予想がつく。こいつが出て来る時は、いつだって――
「……ここから飛び降りたら、死ねるかな、と」
やや迷ったように沈黙を挟みながらも、結局何の遠慮もない言葉をぶちまける。
そう、シュヴァーンが出てきたということは彼が死に焦がれているということ。
全く両極端のレイヴンとシュヴァーンは、生と死の願望まで分有するようになったらしい。
常日頃から死への願望を口にしているならまだしも(それはそれで問題だが)、こうやって隠れるようにしてそれを露わにしているのだから、こちらとしては逆に不安になってしまう。
いつか、あたしの知らないところで本当に死を選んでしまうんじゃないかと。
生きることを選んだのは彼自身のはずなのに、まだこうして浮上してくるその願い……まったく、未練がましい男だ。
「……まあ、安心したまえ。本当に飛び降りたりはしない」
あたしの思考を読み取ったかのように、シュヴァーンが付け加える。
「レイヴンが死んだら君が悲しむからな」
こんなところまで割り切っているこの男が、あたしは心底気に入らない。
「馬鹿じゃないの」
彼を睨み上げ、ぴしゃりと言い放ってやる。
「あたしは、あんたに……シュヴァーンに死なれたって悲しむわ」
その言葉に、彼は沈黙のままこちらを見下ろしてくる。
無表情に虚ろな目。ただその顔も瞳も間違いなくレイヴンと同じもの。
やがて、シュヴァーンが嘆息する。
「馬鹿を言っているのは君の方だ。君にとって、私に関する良い思い出など皆無だろう。
……君が悲しむのは、私が死ねばレイヴンも死ぬからだ」
確かに彼の言うとおり、あたしにとってシュヴァーンとの思い出は哀しい戦いの時のものと、過去に2回こういう会話をした時のものしかない。
そして彼にとってもあたしにとっても、シュヴァーンは辛い思い出の象徴でしかない……彼は、そう考えている。
「そんなの、関係ない」
だが、仏の顔も3度まで、あたしもいい加減我慢の限界。だって、そんなことを考えているのは彼だけだ。
「あんたがレイヴンとシュヴァーンを馬鹿みたいに必死に割り切ろうとしてるのは知ってる。
でも……あんたもレイヴンみたいに、あたしのことを想ってくれてるじゃない。
あんたはバクティオンであたしたちを助けてくれた。あたしが大っ嫌いって言ったら、ちゃんと悲しんでくれた。それだけで十分」
結局こいつは、1人の人間でしかない。だからシュヴァーンが望んでいるモノはレイヴンが望んでいるモノだし、レイヴンが望んでいるモノはシュヴァーンが望んでいるモノだ。
あたしも今はこうしてシュヴァーンに呼び掛けているけれど、どう割り切ったところでシュヴァーンもレイヴンも……あたしが愛したただ一人の男。
「死を望むななんてきれいごと、あたしには言えない。あんたが、あたしが想像もできないような苦悩を抱えてることは、分かってるつもりだから。
――でもそうやって、シュヴァーンに逃げるのはやめて。ただ死を望むために、シュヴァーンを使うのは……。
……あたしは、シュヴァーンのことだって……あんたがどんな過去を背負ってたって、どんな望みを持ってたってちゃんと全部……愛してるから」
――どっちも、あたしの大好きなおっさんだから――
「……………」
しばらく言葉を失ったかのように立ちすくんでいたシュヴァーンの顔が、歪んだように見え――
「ありがとう……リタ」
次の瞬間には、きつく抱きしめられていた。
「こんな俺を……受け入れてくれて」
ほらやっぱり、あんただってあたしのことをこんなに望んでくれてる。
……もちろん、あたしも――
負けじと強く抱きしめ返した腕は彼の広い背中を全部回ることはなかったけど、ぎゅっと背中の布を握り締めたあたしの頭を、彼はまた「ありがとう」と繰り返しながら優しく撫でてくれた。
「ずっとシュヴァーンでいるのも、悪くないかもな……」
「…………?」
「私が相手だと、君は妙に素直だから」
「……ばか」
実はシュ(ryの方がヘタレだったらいいな!!
ちなみに題名は素数って意味です。
意味も作品との関連も分かりにくい!\(^o^)/
というわけであり様からのキリリク「シュヴァリタ」でした! ありがとうございました!!
こんなんでよければあり様のみお持ち帰りくださいm(_ _)m
ぽちっとお願いしますm(_ _)m