何か企画をしたいところですが……やばい何も考えてなかった……orz
フリリクにするとまた前回のようなことが起こりかねないので、今回は見送ります、すみません('・ω・`)
今回はキリリクも来ていないので寂しいような気がしますが、その内フリー小説を上げようと思います。
もしよろしければもらってやってください。
続きで現パロです。
妙なところでリアリティにこだわってます、管理人。
Heartful Life ♯12:温かな病床
「38度7分……」
あたしから体温計を受け取ったおっさんは、その表示を見た瞬間顔をしかめた。
あんな格好で1日中フラフラしてたあたしは、翌朝見事にダウンした。布団に入ってないと寒気がひどくて、頭も割れそうに痛い。
「まあ……風邪だろうね」
体温計をしまいながらおっさんが頭を掻く。
「症状も結構つらいみたいだし、病院行く?」
「ダメ……」
弱々しく首を振って、あたしはおっさんの提案を否定する。
「保険証……持ってない……」
それどころか今は財布すら持ってないのに(持ってたとしても大した額は入ってなかったけど)、決して安くはないだろう医療費までこの2人に出してもらうなんて、いくらあたしでも申し訳なさ過ぎて受け入れる訳にはいかない。
「そんなこと言ったってねぇ……」
「……だ、いじょぶ……だから……」
尚も心配そうにあたしを見つめるおっさんに、あたしは必死に訴える。
今までだって風邪をひくことはあったし、その度に家で寝るだけで治してた。正直、こんなにひどいのは初めてだけど。
――ただでさえ昨日あんなに心配掛けたのに……これ以上、こいつらに迷惑掛けたくないのに……――
その時、水枕と冷却シートを持ったシュヴァーンが部屋に入ってきた。
「とりあえず今日は休みをもらった。俺がついておくからお前は早く出勤しろ」
「そっか、じゃ任せたわ」
彼が口にした言葉に、おっさんは安心したようにそう返して立ち上がる。でも、あたしはそんなやすやすと流す訳にはいかなかった。
「ちょ、ちょっと……! 仕事休むって、あんた……!!」
跳ね起きんばかりの勢いで(実際は辛くて出来なかった)あたしが問い返すと、シュヴァーンはあたしを向いてしゃがみこんで来ながら答える。
「幸い今日は講義が入っていない」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「病人が叫ぶな。……ほら、頭を上げろ」
あたしの抗議の声を受け流し、シュヴァーンは手際よくあたしの頭の下に水枕を滑り込ませた。
「それだけひどい風邪で病院に行けないのなら、せめて看病する人間ぐらいは必要だろう。
安心しろ、俺も医者の端くれだからな」
そう言いながらあたしの額に冷却シートを貼り付け、剥がした透明フィルムを手で丸める。
「病人なら、医者の言うことは素直に聞くことだ」
それだけ言い残して、彼はまた部屋を去っていく。さっきのフィルムを捨てに行ったんだろう。
「ったく、素直じゃないわねぇ~」
その様子を苦笑しながら見ていたおっさんは、シュヴァーンが立ち去ったあともう1度あたしを見て微笑む。
「ま、シュヴァーンの言うとおりリタっちは病人でこっちは医者なんだし、大人しく従ってちょうだい。
それに、病気の時ぐらい強がったりせずに人に頼んなさいな。リタっちはまだ子どもなんだから、大人に甘えられる時は思いっきり甘えればいいんよ?」
おっさんの言葉に、あたしはしばらく黙りこみ……やがてぼそりと返す。
「……分かったわよ」
正直、子供扱いされるのは好きじゃない。でもおっさんのその言葉は、子どもであるあたしを弱いものと決め付けてるんじゃなくて、あたし自身を見てくれた上でそう言ってるんだってのが分かったから……そんなに、悪い気はしなかった。
「発熱というのは身体が免疫を高めるためにあえて体温を上げている状態だ。だから下手な解熱は逆に風邪を長引かせることもある。ただ、脳にまで熱が及ぶと障害を引き起こすこともあるからこうして冷やしている訳だ」
おっさんが仕事に行った後、部屋に戻ってきたシュヴァーンはあたしの身の回りを整理しながらそんな説明をし始めた。
「ま、つまりは単なる風邪なら医者に行かずとも身体が本来持っている自然治癒力で何とかなる。もちろん栄養の摂取は怠ってはならんがな」
「……知ってる」
ただ、それはついこの間読んだ医学書に書いてあった内容。
「まあ、そうだろうな……。という訳で粥でも作ってこようかと思うのだが、食べられそうか?」
ぼそりと呟いたあたしに苦笑しながら、シュヴァーンがそう切り出してくる。……最初からそう聞けばいいのに、なんて考えも浮かぶけれど、彼がこんなに積極的に話しかけてくるのも珍しくて文句は言わずにただ首を振った。
「お腹、すいてない……」
どちらかというと気持ち悪いくらいで、今は何も食べたくない。
「……そうか。じゃあせめて何か飲んだ方がいい、それだけ熱が出ていると水分不足も心配だ」
そう言ってシュヴァーンはまた部屋を出て行こうとして……出入り口で足を止める。
「…………?」
不思議に思ってあたしが見つめていると、彼はドアに顔を向けたままどこか気まずそうに口を開いた。
「……昨日は……すまなかったな」
「え?」
すぐにはその謝罪の意味が分からずにあたしが問い返す。だって、謝るべき行動を取ったのはあたしの方なのに、何でこいつが謝ってくる訳?
……あ、ひょっとして――
「その……殴ったりして……」
より一層気まずそうに言葉を詰まらせながら、シュヴァーンは言った。
……やっぱり、こいつもおっさんに負けず劣らずのお人好しだ。
「……痛かった」
「う……すまん」
少しだけ恨めしい声でそう言ってやると、申し訳なさそうに身をすくめてもう1度謝ってくるシュヴァーン。
普段はあんなに冷静で真面目なのに、こういう風に弱気になったりもするんだ……と思うと、何だか可笑しくなった。
「……でも――」
今度は、あたしが本音を漏らす番。
「少しだけ、嬉しかった。
……心配してくれた人に叱られるのって、あんな感じなんだなって……分かったから」
驚いたように、シュヴァーンがあたしを見る。
その様子に、自分がらしくないことを言ってるのがより一層感じられて少し照れくさくなるけど、こんな風に……ちょっとだけ素直になれたのもこいつらのおかげだから――
「悪いのはあたしの方だから……だから、あんたが気にする必要なんてないわ」
目を逸らさずに、シュヴァーンを見据えてあたしはそう言った。
「………………」
しばらく呆けたようにあたしを見ていたシュヴァーンは、やがてフッと柔らかい笑みをこぼす。
「ありがとう」
それだけ言い残して、彼は部屋を出て行った。
「……それは、こっちの台詞よ……」
その後であたしが呟いた言葉は、きっと届いていないだろう……残念だけど。
しばらくして、シュヴァーンがマグカップを持って戻ってきた。
「起きられるか?」
小さくうなずいてからのっそりと起き上がると、差し出されたその中に入っていたのはホットミルク。
受け取って息を吹きかけてみると、牛乳の香りに混ざって甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった。
誘われるように、あたしは温かいその液体に口をつける。
それはやっぱりただのホットミルクにしては甘くて、飲み込んだ後かすかに口の中に心地よい酸味が残る。
「おいしい……」
シュヴァーンを見ると、安心したように笑っていた。
「はちみつとレモンを混ぜてある。民間療法だが、胃腸が弱っていてもタンパク質とビタミンが摂れるし身体も温まるからな。
……まあ、不味くないようで良かった。どうも甘いものになると味の加減に自信がなくてな」
聞きながら、あたしは一口、もう一口とミルクを飲み下していく。
口に入れる度にそれは甘く優しく、あたしの身体を満たして行った……。
「他に何か欲しいものはあるか?」
ミルクを全部飲み終えて、再びベッドに横になったあたしに布団を掛けながらシュヴァーンが尋ねてくる。
「大丈夫」
あたしがそう答えると、シュヴァーンは「そうか」と呟いて屈めていた背を伸ばす。
「俺はリビングにいる。何かあったら遠慮なく言ってくれればいい」
「……うん、分かった」
素直にこくりと頷いたあたしに、彼はまた微笑んだ。
「じゃあ、お大事にな」
そしてそう言い残して、マグカップを持って部屋を出て行く。
ガチャ、とドアが閉まり、シュヴァーンの足音が遠ざかって行き……ふと、急に部屋の中が静かになったような気がした。
(……変なの……)
さっきまでの会話も決して大きな声でしていた訳ではないのに、一人になっただけでこんなに静寂を感じるなんて……。
酷く懐かしいような気もするけど、その感情の正体は随分昔に忘れてしまった。
そこで、ふと顔を上げれば枕元にはあの白いクマ。
(そうだ……まだあんたがいたわね)
胸中でそう呼びかけてその腕を優しく握ってみると、少しその感覚が薄れる。
そしてあたしは、壁を通して聞こえてくる洗い物の音に耳を澄ませながらゆっくりと目を閉じた。
デ レ た 。
どっちが、とは言わない^^
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