中2病に拍車がかかりつつある管理人です。
あ、BUMPをけなしているわけじゃないですよ(笑)。
あいつらはマジ神だと思います。
聴く人(管理人みたいな人種)によって厨2になるだけだと思います。
続きで現パロです。
今更ですがアルエを現パロのイメージソングにしときます。
とりあえずこれで一区切り。第一部完ってところでしょうか。
Heartful Life ♯13:足踏みから前進へ
結局、あたしは夕方まで眠っていたらしい。
目が覚めると、部屋の中はすっかり暗くなっていて、空いたドアから入ってくる電気の明かりが部分的に内部を照らしているだけだった。しかも、その明かりもあたしの手前で何かに遮られていて――
「あ、ごめん、起しちゃった?」
その何かはおっさんだった。
「……大丈夫、おっさんのせいじゃないわ……多分」
申し訳なさそうに苦笑いを浮かべるおっさんに、あたしは首を振って見せる。
するとおっさんは「そう?」とまだ気遣いながらも、あたしのベッドの端に腰かけて尋ねて来た。
「調子はどう?」
「……朝よりはかなり良くなったわ。まだ少し頭痛いけど」
「そっか。
……あ、えっ……と」
あたしが答えた後、おっさんは膝に置いていていた手を上げかけて、ふと思いとどまったかのようにそのまま宙を彷徨わせる。
「? どうしたの?」
瞬きして尋ねてみると、「あー……」とばつが悪そうな声を上げてから彼はあたしに聞いて来た。
「その……おでこ、触ってもいい?」
その言葉の意味が分からなかったのはほんの一瞬だけ。そしてすぐに思い出したのは、初めて出会った公園での出来事……。
(……おっさん、ずっと気遣ってくれてたんだ……)
今思えば、どんな馴れ馴れしい態度の時も、おっさんは絶対にあたしに触れようとはしなかった。あったのは、あたしと話している時に不自然に手を動かして頭の後ろで組んだり、頬を掻いたりすることぐらい……。
あの時あたしが表に出してしまった、人に触れられることに対する恐怖……それを、このおっさんはずっと気にしていてくれたんだ。
「……うん、大丈夫」
声は小さくなってしまったけれど、あたしはしっかりと頷く。
「……それじゃ、失礼して……」
おっさんは少し安心したように軽く息を吐いて、中途半端に浮かせていた手をあたしの額にゆっくりと伸ばして来た。
……あたしはというと、正直まだ緊張していた。ここまできて人肌を恐れる自分が情けなくて、それ以上にまたそれを悟られてしまったらおっさんに申し訳なくて……まだぼんやりする頭の中で、ぐるぐると色んな不安が回る。
(嫌な訳じゃないのに……何で……)
伸ばされたおっさんの手の平でおっさんの顔が見えなくなった瞬間、あたしはぎゅっと目をつぶる。
……おっさんの指先が2本、額に触れた。
でもそれはすぐに折り曲げられて、貼りっぱなしだった冷却シートをつまんで剥がすだけ。
(へ……?)
「あー、随分ぬるくなってるわねー」
目を開くと、おっさんがそう呟きながら自分の手の甲にぺたぺたとそれを当てていた。
「待ってて、代えのシート持ってくるわ。枕も変えなきゃね」
そして、あたしの頭の下から水枕を引きぬき、そのまま立ち上がって出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと……」
拍子抜けしたあたしは、思わずそんなおっさんを呼び止めてしまった。
すぐに、「ん?」とおっさんがあたしを振り向いてくる。
「……ね、熱ぐらい測って行きなさいよ」
一応覚悟は決めてたのに、あれだけ緊張してたのに、そう思うと今度は何だか悔しくなって、あたしはそんな言葉を口にしていた。
「え? でも今体温計持ってないし……」
「……知ってる……」
おっさんは何となくうろたえたようだった。そして、あたしがぼそりと切り返すとしばらくポカンとあたしを見つめる。あたしも、半ば睨みつけるようにおっさんを見上げ続けた。
……やがて、ふ、と……まるで吹きだすように、それでいてどこか嬉しそうに、おっさんは笑みを漏らす。
「そっか……んじゃあ古典的だけど――」
もう一度ベッドに腰をおろして、さっきよりずっとスムーズな動きであたしの額へと手を伸ばす。
ぴと……
今度こそ、おっさんの手があたしに触れた。
単純にあたしの体温の方が高い上、外から返って来たばかりなのだろう、その手の平は随分冷たかった。医者というだけあって、かすかに薬品の香りがする。
そんなおっさんの手の感覚は、不思議なくらい心地よかった……。
自然と、あたしの瞼が閉じる。さっきみたいに固くじゃなくて、眠る時みたいにゆったりと。
「うーん……やっぱりまだ熱は高そうね、とりあえず体温計も持ってくるわ」
5秒位そうしてからおっさんが手を離して、あたしも同時に目を開く。
「あ、あと今シュヴァーンがお粥作ってるみたいなんだけど、食べられそう? 朝は食べられなかったんよね?」
何事もなかったかのように、再度おっさんが腰を上げる。
「……食べる」
「そ、良かった。じゃあシュヴァーンに伝えとくわね」
にっこりと笑ったおっさんは、そう言って今度こそ部屋を後にした。
「………………」
残されたあたしは、自分の額に右手を乗せる。感触は全然違うけど、つい先ほどのおっさんの手の平を思い出す。
あんなに自然に受け入れられたことがまだちょっと信じられなくて、それと同時にどこかくすぐったいような、そんな気持ち。
そしてそのまま手を伸ばして、ずっと傍にいてくれたあのクマの頭を撫で、呟いた。
「……ねえ、あたし……この家割と嫌いじゃないみたいよ」
「はい、これで最後」
まだあたしが本調子じゃないことを気にして、おっさんはせっせとお粥を食べさせてくれていた。正直恥ずかしいけど、朝言われた言葉の通り、あたしも素直に甘えることにしたのだ。
あたしがお粥を飲み込んだのを見計らって、スプーンで皿の底からかき集めたお粥をあたしの口元へと運ぶおっさん。あたしはそれをパクリとくわえこんで、口内で軽く咀嚼してからまた飲み下す。
シュヴァーン作のお粥には、とき卵に刻んだネギやニンジンなんかも入っていた。味も少し塩味が効いていて、とても食べやすい。
「ごちそうさま……美味しかった」
「そりゃあよかった、シュヴァーンも喜ぶわ。あいつ、何だかんだ言ってリタっちのこと気にしてるから」
スプーンを空になったお皿に置いて、おっさんは嬉しそうにヘラリと笑う。
このおっさんは、出会った時からずっと変わらない。飄々として、呑気で、優しくて、掴みどころがないのに、傍にいると何故か落ち着く……昨日でさえ、それは変わらなくて――
「……ねえ、おっさんは怒ってないの?」
そんなおっさんを見上げて、あたしはずっと気になっていたことを尋ねる。
「え?」
「その……昨日の、こと……」
自分から蒸し返すのも気が引けたけど、それでも尋ねたのはもし腹を立てていたのならちゃんと謝らないとって、そう思ったから。
本当は、おっさんも最初から気付いていたはず。あたしが、わざわざ鍵を置いて家を出たってことぐらい。戻るつもりなんて、本当はなかったってことぐらい。
「……んまあ、ちょっと残念だったかな……俺達じゃあリタっちの拠り所になれなかったのかなーってね」
(……違う。拠り所になりそうだったから、ひねくれ者のあたしはこの家を出たの)
そう言い返そうと思って口を開いたあたしを制するように、おっさんは握りしめたあたしの拳に自分の手を乗せてくる。
「でも、おっさんはまだリタっちを信じてたかったから……だから、怒ってなんかなかった。
それに、怒るときはシュヴァーンが怒るだろうと思ってたし」
「まさかいきなりひっぱたくとは思わなかったけどねー」と苦笑を浮かべるおっさんの手は今度は温かくて、解れるように自然と手の力が緩む。
「つまり、そーゆー損な役回りはシュヴァーンに任せて、おっさんはリタっちをうんと甘やかす役。だから怒ってないし、怒りたいとも思ってないわ。
だからリタっちも、あんまり自分のこと嫌いになってあげないで」
おっさんは同じ手を、今度はあたしの頭にぽんと乗せる。
(ひょっとしておっさん……全部分かって……)
「……っちも……」
「ん?」
「どっちも、充分甘やかしてると思うけど……そういうことなら、まあいいわ。
とにかく、昨日は……ごめん……心配掛けて」
あたしの言葉におっさんは苦笑いのような、照れ笑いのような、そんな顔をして、何も言わずにくしゃりとあたしの頭を撫でた。
リタっちの部屋から出て皿とスプーンをキッチンに持って行くと、兄貴は俺達の分の夕食を並べたテーブルに着いていた。
「あれ? 先に食べててよかったのに」
「気が向いただけだ……最近はいつも3人で食べていたからな」
皿とスプーンを流しの水に浸けながら俺が言うと、兄貴は箸を持ちながらもとりあえずわざわざ待っていたことは肯定する。
まったく……素直じゃない奴ばっかりね、この家は。
「……何をニヤニヤしている」
おっと、心の声が顔に出ちまったらしい。
「いんや、べっつにぃ~?
あ、そだ兄貴。リタっちがさ、お粥美味しかったって」
テーブルに着きながら、ジト目でこちらを睨んで来る兄貴にからかいついでにそう伝えてやる。
「あとご飯終わった後でいいからまたホットミルク飲みたいって言ってたわよ」
「む……そうか……」
ホッと息を吐いているところを見ると、案の定あの娘の感想を気にしてたらしい。はっは、やっぱり素直じゃない奴。
そのまま食事を始めてしまったシュヴァーンにまた苦笑いを浮かべながら、俺も箸を取って夕食を食べ始める。
今日の主食は、リタっちに作った粥の残り。……ん、美味いじゃない。
「まったく、気になってたんなら兄貴が行ってやればよかったのに……『晩飯の支度する』とか言わずにさー」
「ふん、大きなお世話だ。
それに、お前の方こそ……伝えたいことがあったのだろう?」
兄貴の言葉に、粥を口に掻きこもうとしていた俺の箸が止まる。
「俺はもう伝えたし、リタの答えも聞けた。それなのに俺ばかりがあの娘と話す訳にはいかんだろう」
見ると、いつの間にか兄貴の方がニヤニヤしていた。
……あー、俺あんな顔してたんだ。何かイラっとするツラね。
「バレバレって訳かい。ったく、兄貴俺に似て来たんじゃないの?」
「さあ、どうだろうな? 少なくともあの娘に対しては、お前の甘さが伝染っているかも知れんが……」
「あー、それリタっちも言ってた。俺達2人とも、あの娘を甘やかしすぎだって」
「フッ、まあ否定は出来んな」
リタっちのことで気にかかってたことが解決したんだろう、今日の兄貴はいつもより楽しそうにあの娘のことを話す。……まあ、それは多分俺もだけど。
ようやく、一歩踏み出せたって感じかね。リタっちも……兄貴も俺も。
ふと目が覚めて身体を起こす。部屋の中はまだ薄ぼんやりと明るい程度で、まだ早朝だってことが分かった。
ドアや壁の向こう側からは、足音と料理の音。2人とも、出勤前の準備に追われてるんだろう。
今までなら、そこで二度寝を決め込むところ。だけど……
ごそり、とあたしは布団から這い出す。
昨日の頭痛と寒気は、もう完全に引いている。熱はまだあるかもしれないし、昨日1日中横になってたせいか身体もだるいけど、歩けないほどじゃなかった。
ベッドから降りて、部屋のドアを開けて、向かうのは2人がいるキッチン。
ふわりと香る、コーヒーの匂い。おっさんが朝食を準備している傍ら、シュヴァーンがテーブルで新聞を読んでいた。
でも2人ともすぐにあたしの気配に気づいて、こちらを向いてきた。何だか急に恥ずかしくなって、言おうとしていた言葉を飲み込みそうになる。
「お……おはよ……」
それでも何とか消え入りそうな声で、慣れない朝の挨拶を口にした。
2人は一瞬だけ驚いたような顔をしたけど、すぐに微笑んで、同時に口を開く。
「おはよ、リタっち」
「おはよう、リタ」
あたしの新しい一日が、こうして始まった――
次から第2部です。
リタっちの世界が広がる予定です。
そして、第2部と言えばあの人ですよね……ふふふ。
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