お待たせしました、現パロの続きです。
前回ので早くも感想を頂いていたのに、時間が空いてしまってすみませんorz
それでは、続きからどうぞ。
Heartful Life ♯3:兄弟会議
整然と片付けられた寝室。その中心に正座したレイヴン、それとベッドに座りそんな弟を見下ろしているのは、その部屋の主であり彼の兄であるシュヴァーン。
「見損なったぞ、レイヴン」
腕を組み、弟に対してもはや侮蔑の眼差しを向けている。
「お前が女たらしを所望しているのは長い付き合いで薄々勘付いてはいたが、普通の女性がたらせないからと言ってまさかあんな少女を家に連れ込むとは――」
「兄貴ストップストーップ!!」
手を大きく振りながら、慌てて彼を制するレイヴン。
「ツッコみたい所は多々あるけど、とにかくあの娘の件に関しては誤解だって!!」
「ほう。ならば3単語で簡潔に説明してみろ」
「えーと……夜、空腹の家出娘、極寒の公園」
「よし、分かった」
シュヴァーンは一つ大きくうなずくと、とりあえずは弟が犯罪者になった訳ではないことに安心したのかふぅと息を吐く。
「……そういうことだったか……ならば仕方がないな」
「だしょだしょ~? 俺様だって人助けの一つぐらい――」
「とでも言うと思ったかこの阿呆が」
「あだぁっ!」
兄が振り下ろした手刀をもろに脳天に食らい、レイヴンが悲鳴を上げる。
続いてシュヴァーンはビシッと玄関のある方向を指さし、非情にも告げる。
「今すぐ元いた場所に返してこい」
「ちょっ、そんな捨て猫みたいな言い方しないでよ! ちゅーかそんなこと出来る訳ないでしょうが、このクソ寒いのに!!」
「なら警察に連れて行って保護してもらえ。とにかく、家に置くのは絶対に許さん」
「だからそんな言い方しないでってば! ってあばっ!?」
「静かにしろ、あの娘が起きる」
上がっていくレイヴンの声のトーンを、今度はシュヴァーンが制した。
「はぁ……」
大きな大きなため息をついて、額に手を当てるシュヴァーン。そのまま肘を膝につき、しばし沈黙。
「……人助けのつもり、なのか?」
確認するように、そう尋ねる。
「この家に連れ帰った方が、あの娘にとって良いことだと……そう考えているのか?」
指の間からレイヴンを見据えてくる兄。何だかんだ言って生まれた時――というか、母親の腹の中にいる時からの付き合いである弟の行動を頭ごなしに否定することもできないのだろう。それだけ2人は互いの思考を理解し、人生を共有してきた。
レイヴンはまだ濡れている頭を2、3度掻いて答える。
「……公園で話した時、何となくだけど人を怖がってるようだった。俺に着いて来てたのも何かを期待してたんじゃなくて、家に帰るぐらいならもう俺に何されても構わないとか、そんな態度でね。
少なくとも警察に連れてって無理矢理家に帰すのが、あの娘のためになるとは思えない」
そう、あれは明らかに人に対する拒絶反応……それでも、最終的にあの少女は見ず知らずの中年の家についてくることを承諾したのだ。それほどまでに彼女を追い詰める何かが、彼女の家――とは限らないが、日常生活の中にあったのだろう。
とは言え、レイヴンにもまだ迷いはある。普通ならやっぱり駄目だと否定するところ。赤の他人の少女を野郎2人で住んでいる家に置くなど、例え一晩でも世間様は許してくれないだろう。
口調ははっきりとしていても気まずそうに目を伏せるのは、自信はあるものの否定されたら言い返せないという時に彼が見せる小さな頃からの癖だ。
「………………」
そして片手を顔に当てたまま押し黙るのは、考え込む時のシュヴァーンの癖。
緊張感と気まずさを含んだ、長い沈黙が流れる。
「……あの娘が、自発的に家に帰る……或いはきちんとした保護を受ける気になるまで家に置く……それでいいのか?」
やがて兄がつぶやいた言葉に、伏し目がちだったレイヴンが目を輝かせる。それこそ、拾ってきた捨て猫の飼育許可を得た子供のようだ。
「あ、兄貴……じゃあ……!」
「……何があっても、俺は責任持たんからな」
苦々しく呻いたその言葉は、最後の抵抗なのだろう。
そんな様子に苦笑しながらも、ふぅと一息つく。とりあえず、1番の山は越えた訳だが――
「……何だその顔は」
「どんな顔してる?」
「頑張ってもう一仕事」
「わーい、兄貴すごーい♪」
「……嫌な予感しかしない……」
「えへへー、それでね兄貴……明日のことなんだけど……」
そこでシュヴァーンの顔が、いかにも「しまった」とでも言うように曇る。
……明日は、土曜日――
いつだってそうだ、弟は一時の同情に流されて赤の他人にお節介を焼くような人間ではない。思春期のただの逃避行を手助けすることを人助けとは呼ばないことなど、十分理解しているはずだ。
科学的には解明されていないものの、俺たちのような一卵生の双子と言うのは遺伝的にはもちろん、精神的にもかなり同質の存在であるようだ。今まで生きてきた35年間で、それは嫌と言うほど実感させられている。だからまんまと弟の意見に流された――というか、もしこの娘を見つけたのが俺だったらと考えた時に弟と同じ行動を取らないという確固たる自信がなかった。
そういうこともあって、結局あの愚弟の人助けとやらに付き合わされることになった訳だが、早朝、アイツより若干人の悪い俺はまだ眠っている少女の唯一の所持品の財布を漁ろうとしている。
「……いや、やましいことが目的なわけではないぞ? 身元が分かっていた方が何かあった時に手を打てることもあるから、それでだ」
後ろめたい気持ちをぼそぼそと独り言で誤魔化しながら、少女が眠るソファ横のテーブルの上に置かれていたままだった彼女のものと思しき財布を手に取る。
淡いオレンジ色をしただけの、今時の娘にしては地味で質素な二つ折りの財布。持ってみるとやけに軽かった。意を決して広げて見ると、カード用のポケットの中には何も入っていない。
早くも希望の光が費える。レシートでもいいから何か手掛かりはないかと探ってみるが、千ガルド札以外の紙類は何も入っていなかった。
(……そんなに家に帰されるのが嫌か……)
レイヴンの話を聞く限り、結局呼び方以外自分のことは何も語らなかったらしい。そんな少女が、個人情報の記載されたものをこんなに無防備に放置するはずがないことはよくよく考えてみれば理解できる。携帯も持っていないらしいし、おそらく彼女の所持品から身元を割り出すのは不可能だろう。
「……それにしても……」
カード類が入っていないにしろ、随分と軽い財布だ。もう一度札入れを見てみると、千ガルド札が1枚。ついでに小銭入れも覗きこむと、100ガルド硬貨が2枚と5ガルドと1ガルドの硬貨が合わせて十数弱――
「1223ガルド」
「っ!!」
不意に後ろから声がして、思わず財布を落としそうになった。
慌てて振り向くと、顔を洗いに行っていたレイヴンがいつの間にか戻って来ていて、俺が淹れたコーヒーを啜っていた。
「それだけしか持ってないのに、カードも何も持たずに家出なんてよっぽど嫌だったんだろうねー」
「………………」
言い返す言葉が見つからず、ゆっくりと財布をたたみ、テーブルの上に戻す。
その傍らで、ああ、やっぱり俺たちは双子なんだな、としみじみと実感させられている俺がいた。
玄関のドアを開けながら、レイヴンがヘラリと笑って片手を振ってくる。
「じゃあ兄貴、あの娘のことよろしくねー」
毎週土曜はレイヴンは仕事、一方の俺は休日。つまり、今日は夜まで俺とあのリタという娘の2人っきり。弟とは違い、俺はちゃんと顔も合わせていないというのに、気まずいにもほどがある。
当の少女は、まだ眠っていた。もういっそのことレイヴンが帰ってくるまで起きないでくれればいいんだが。
「……とりあえず早く帰ってこい」
げんなりとした気持ちを隠しもせずにそう言うと、弟は「ま、努力するわ」とケラケラ笑いながら出ていった。
初の本格鳥兄弟パロがこんなんでいいのだろうかと今更思い始めました。
次回はお兄さんと家出娘の気まずい雰囲気から始まります^^
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