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今日も幸せレイリタ日和。
2025/04/21 (Mon)10:59
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2009/05/06 (Wed)03:39
ついに作ってしまった……サイト開設です。

あーと、何書けばいいかわかんねぇや。

とりあえずよろしくお願いしますm(_ _)m



開設記念ということで早速レイリタをばっ!!

捏造! 2人のファーストコンタクト!!




出会ったままの君で




「リタ・モルディオ君だな?」

 机に向かって黙々と学術書らしき本を読みふけっている少女に向かって、騎士はいつもとは比べ物にならないほど柔らかい口調で名乗った後、尋ねる。


 アスピオ――魔導器研究の最高峰とされる学術都市。
 そう称されるだけあって、街に入ったときから屋内屋外問わず研究者風の住人たちがあちこちに見受けられた。おまけにその大半がこの少女と同様に書物に目を走らせていたり、ノートに理論を書き込んでいたり、ぶつぶつと難しい理論を呟いていたり。
 つまり、よく言えば研究熱心、悪く言えば変人が住む街ということだ。噂には聞いていたが。


「この家にいるんだからそうに決まってるでしょ?」

 そんな変人たちからさえ変人と呼ばれる少女、リタ・モルディオ。
 若干15歳にしてすでに数々の術式を解析、発表し、帝国直属の魔導器研究所の研究員を務める天才魔導少女は、振り向きもせずにそう答えた。なるほど、こちらも噂どおりの変人のようだ。

 騎士の気遣いも露知らず――まあ、知っているはずはないのだが――あまりにも、それこそ普段の騎士張りに冷たい返答だ。
 小さな、本当に小さなため息をついてから、騎士はそんな少女を咎めることもせず用件を切り出す。

「騎士団長から術式解読の依頼だ」
「断るわ」
「………………」
あまりにもあっさり断られ、思わず沈黙する。

「あの――」
「今この本読むのに忙しいの、悪いけど他あたって」

 気を取り直して再び話しかけようとするも、すぐに一蹴される。「悪いけど」という言葉は入っているものの、相変わらず顔も視線こちらに向けようとしないその姿からは申し訳なさのかけらも感じられない。

 帝国直属の研究員が、帝国からの依頼をこうも軽々と断っていい訳ないだろうに。それでも断るのは、幼さゆえの我侭か、天才ゆえの偏屈か。


(俺にもそれくらいの図太さがありゃあな……)


 今時こんな無益な人生を歩んでなどいないだろう。
 呆れる気持ちと羨む気持ち、どちらが強いかと問われれば後者のような気がする。

 ……と、そんな感傷に浸っている場合ではない。
 ここで引き下がっては、あの主にどんな嫌がらせをされるか分からない。

「君にしか解けない術式だそうだ。自分の研究に勤しみたい気持ちも分かるが、協力してほしい」

 自分より優れた人間どころか対等な人間も認めていない主がそんなことを言うはずはない。単にこの複雑な術式を解く暇がないだけなのだが、少しでも少女を乗せようと騎士は出任せを文頭に添えた。

「ふーん……」

 だがせっかくのフォローも見事に流され、効果はないようだ。完全に自分と本だけの世界に入り込んでしまっている。

 今度は先ほどよりやや大きなため息をつき、とにかく聞く耳から持たせようと声のトーンを上げる。
「君は帝国直属の研究員だろう、帝国からの依頼は受けるのが義務ではないのか?」
「じゃあ何? その義務を怠るあたしをクビにする? 実際、あたしの頭脳がなくなるのは帝国としてはかなりの痛手だと思うけど?」

どちらにせよ協力しないのなら同じではないか、と言い返したくなる気持ちを抑え、騎士は頭を掻く。

 ――こいつは、なかなかタチが悪い。それこそあの主のように。

 再度漏らすため息、もはや隠そうという気持ちは毛頭なく、むしろ少女に聞かせようとしているかのようにわざとらしい。
「そうは言っていない。私はただ――」

 続けようとした騎士の言葉はしかし、突如として荒らげられた少女の声によって遮られた。

「あーもううっさいわね!」
 ばんっと乱暴に本を机に置き、しかし視線はまだその文書を追っているのだろう、こちらには後頭部を向けたまま手だけを伸ばしてくる。
「分かったわよ、やればいいんでしょやれば! さっさと持ってきた術式見せなさいよ!!」

 折れた……というよりは単に応酬が面倒臭くなったのだろう。早く渡して早く帰れという心の声が丸聞こえだ。

 まあ何にせよやる気になってくれたに越したことはない。騎士は懐から数枚の紙束を取り出し、自分が眺めても到底理解できそうにない術式が並んだ紙面を広げる。そして2・3歩ほど前進して精一杯腕を伸ばしそれを少女に手渡した。
 少女はその紙束を持った手を机の上に移動させると、おそらく視線をそちらに移したのだろう、わずかに顔を上げた。
 本来なら少女の隣に行って机にでも置いてやるところなのだが、机の周りに足の踏み場もないほど散乱した本やら魔導器やらがそれを阻んだのだ。

 それに――

 騎士がちょうど自分の右手にある、うずたかく積まれた本の山に視線を向ける。その時、

「2日ね」
 短い言葉に視線を戻すと、少女はパラパラと紙をめくり羅列した術式を眺めていた。
「2日後の朝にまた来て。それまでに解いとくわ」
「そうか……分かった」

 そう返事をして、騎士は先ほどの本の山に再び目を向け、「それにしても」と続ける。
「掃除ぐらいしたらどうだ、さすがにここまで散らかっていては日常生活にも不便だろう」

 大きなため息が漏れる。だが今回は少女のものだ。結局引き受けても話につき合わされるのかといわんばかりに。
 それでも観念したのか、不機嫌そうではあるが先ほどよりはよっぽど素直に答えが返ってくる。
「別に? だってあたし基本的にここから動かないし。ま、邪魔になったら片付けるわよ。
 ……ていうか、あんたには関係ないでしょ」

 言葉の前半に何か引っかかるものを感じながらも、本題はそこではないのであえて突っ込まないでおこう。
「まあ、確かに君の生態には関係ないが――」

 そこまで言うと、騎士は出し抜けに本の山に手を突っ込んだ。直後、「ぐぇ」という声がその中から発せられる。
 そして彼が何かを掴んだまま手を引き抜くと、ばらばらと本が雪崩のように崩れていく。

「さすがにこれは見過ごすわけにはいかないからな、騎士として」

 彼が先ほど本の中から引っ張り出したのは、少々やつれた男だった。抵抗する気力がないのか、それにしても不自然なほど何も言わずボーっとしている。
 その首根っこを掴み、少女に見せるように自分の体の前に持ってくるが、それでも彼女はこちらを振り向こうとはしない。

「ああ、そいつまだいたのね」
 忘れていたかのように……というか、本当に忘れていたのだろう。大して驚いた様子もなく、彼女は自分の家に不審な男が侵入していたという現実を受け止めていた。
「3日ぐらい前からいたんだけど……多分あたしの研究の横取りでもするつもりだったんでしょうね、別に邪魔してくる様子もなかったから放っといたのよ。
でもま、ちょうどよかったわ。せっかくだからついでに処分しといて」

 まるでネズミのように――確かにネズミなのだが――男を扱う少女。ということは自分はその収集者といったところか。

いやいや待て待て、さすがにこれは年頃の娘としていかがなものか。いくら変人とはいえ。

「無用心だな……襲われたらどうするつもりだ?」
「魔術でブッ飛ばす」
「そ、それに、せっかくの研究成果を横取りされたら君も困るだろう」
「困んないわよ。あたしは研究するのが楽しいだけだし、論文だの名声だのってのはあくまでその副産物。むしろめんどくさいのよね、論文にまとめるのって。
 ま、そいつがあたしの研究成果盗んだところでちゃんと理解してまとめられるとは思わないけど」
「…………」

 諭そうとするだけ無駄な気がしてきた。そしてますます主に似ているように思えてきた。

 はっきりとした目的、他人への無関心、そして何より絶対的な自信。
 一昔前なら笑って見てやれただろう……だが、今となっては不安しか感じられない。


 この少女もひょっとしたら、あの男のように――


 そこで騎士は思考を振り払う。

何を馬鹿な、他ならぬその主の手伝いをこの少女にさせておいて。もはや彼の道具に過ぎぬ自分が、今更こんな考えを持って何になるというのか。
 自分に対する嘲笑と、苦笑の混ざった笑みが思わず漏れる。

 その時、ずっと黙っていた男がうめき声を上げた。否、呻くように何かを呟いた。
「ん?」
「メ……メシを……」

 やや明瞭になったため、少女にも聞き取れたのだろう。またも「ああ」と何かを思い出したようだ。
「そういえば、そいつ多分そこに忍び込んでから多分何も飲まず食わずだと思うわよ?」
「何故だ?」
「あたしがずっとここから動いてないし、寝てもないから」
 平然と答えた彼女は、新しい用紙を机の引き出しから取り、ペンを走らせ始める。おそらく先ほどの術式を解きだしたのだろう。

 いやいやいや待て待て待て、確かに先ほど「基本的にここから動かない」という言葉は聞いていたが――

「君の食事は?」
「読書に夢中だったから忘れてたわ。まあ流石に空腹感があったら携帯食料も用意してるし」
 見ると彼女がついている机の周辺には、確かに食品の包装紙のようなものも転がっている。

「……本来携帯食料は旅や遠征などに行く時、食事の準備が困難なときに食べるものなのだが?」
「いつでもどこでも食べられるのが携帯食料でしょ?」
「栄養バランスも偏ってしまう」
「自分で作ったところで同じ、好みのモノしか入れないだろうから」
「それに、寝ていないと言っていたが体に悪いぞ?」
「眠くなったら寝るわよ、別に無理して起きてる訳じゃない」

 ……駄目だ、勝てそうにない。

 完全に自己完結している少女には、これ以上何を言っても無駄だろう。諦めるとしよう。

 そもそも自分がここまで彼女に干渉する必要はない、というより好ましくない。そんなこと、誰よりも自分がよく分かっているし自分でもそうあるべきだと思っている。
 それでもこうまでしつこく諭そうとするあたり、自分のお人好しも困ったモノだ。

(ヒトのココロ……ってやつかな……)

 皮肉混じりにそう胸中で呟き、そっと騎士は己の胸に手を当てる。紛い物のココロが埋め込まれた胸に――

「……さて、と。では私はこれで失礼するとしよう。また2日後に取りに来させてもらうよ」
「はいはい」
 気のない返事をして、少女が後ろ手に手を振る。ようやく帰ってくれる、とでも思っているのだろう。

「くれぐれも無理はしないようにな……」

 小屋の出入り口にまで来たとき、騎士は振り返りもう1度声をかける。だが少女は既に術式の世界に引きこもってしまったのか、あるいはこれ以上こちらの相手をする気にならないのか、もう言葉を返してはくれなかった。

 やれやれと溜め息をつき、騎士もそれ以上は少女に構おうとはせず、ネズミの男を引きずったままその小さな小屋を後にした。

 

2日後――

 少女は先日同様、机につき学術書を読みふけっていた。違うところをあげるとすれば、より深くその中に入り込んでしまっているという点か。

「モ・ル・ディ・オ・く・ん・!」

 7度目の呼びかけ。テンションだけで言えばもはや普段の騎士ではなく道化のそれだ。

「誰……?」

 ようやく反応を示す少女。だが……というかやはり視線は書面に向けられたままだ。相手を確認する気は……まあ、ないに等しいのだろう。不用心なのも相変わらずだ。
 とにかく、ここは少女の全神経が再び本に向かないようにすぐに本題に切り出すのが良策だろう。

「2日前、術式解読の依頼に来た者だ。頼んでいたものは解けたのか?」
 その言葉を聞いた彼女はまず2日前のことから思い出したのか、「ああ……」と声を漏らし、それからややむっとしたように口を尖らせる(といってもここからでは見えないが)。
「あたしを誰だと思ってんの?」
 人間としての常識はないが、天才としての矜持は持ち合わせているらしい。心外そうにそう言うと、彼女は机上に積み上げられた本の上に乗せていた紙束を手に取り、こちらに差し出してくる。

 2日前と同様に必死に腕を伸ばして、今度はそれを受け取る騎士。見るとあの術式が書き連ねられた用紙に、少女が書いたと思われる解析式が加えられている。

「流石だな」
 それが正解なのかどうかは騎士には分からないが、賛辞はしておく。何にせよ、自分に与えられた仕事はこの紙切れの運搬だけだ。

「すまなかったな、君の研究の時間を取ってしまって。団長に代わって、礼を言わせてもらう」
 無視、あるいはうざったそうな返答は覚悟の上で騎士はそう続ける。まったく、何故この少女が相手だと自分はこうもおしゃべりになってしまうのだろう。

 だが、少女の返答は意外にも素直だった。
「別にいいわ。お陰でこっちも勉強できたし。
 それ、力場安定術式でしょ? そういう考え方もあるのねー」
 むしろうれしそうに感じさせるような明るい口調で、彼女は言う。

 思いもよらぬ彼女の反応に一瞬呆気にとられながらも、せっかくなので会話を続ける。
「……まあ、私には難しいことは分からないが、君の苦にならなかったのなら幸いだ」
「あたし、術式解くの苦だなんて思ったことないんだけど?」
 急に少女の口調が棘を帯びる。
 しまった、どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。

「す……すまん……」
 取りあえず謝る騎士。
 まったく難しい年頃だ。
(というか、単にこの娘が難しいだけか?)

「フン……」
 当の少女は鼻を鳴らすと、読んでいた本のページをめくる。
 おそらくこれ以上何か話そうとしても邪険に扱われるだけだろう。そもそも主からの指令を果たした今、自分にとっても不必要なことである。


(……ホント、どうしちまったんだか……)


必要なことでも、その上許されたことでもない。
それでも、少しでもこの不安を晴らしたかった――

「……差し入れだ」

短い足を駆使して本の山やら紙の束やらゴミやら何やらを踏み越え少女の机の傍まで来ると、騎士は持っていた包みをわずかに空いた机上のスペースに置いた。

「……え?」

 そこで初めて、少女が騎士を向いた。

 見開かれた大きな瞳はまだわずかにあどけなさを残しており、小さな顔と相まってこの天才魔導士がまだ少女であるという事実を晒していた。後ろ姿からでも十分見て取れた華奢な身体も、余計に華奢に見えてくる。……食事と睡眠不足によるものかも知れないが。

「大したものではないが、少しは新鮮なものも食べた方がいいと思って……な」
 そういって包みを広げると、サンドウィッチが姿を現した。

「え……これ……」
 少女はしばらく呆然とそれを見て、再び騎士に顔を向ける。

 変人と避けられ続け、自らも人との接触を断ってきていた故、この状況が理解できない――そんなところだろう。

「私が作ったものだ、不味くはないと思うが……。ま、悪くならない内に食べるといい」
 自分でも不思議なくらい自然に微笑み、騎士は少女の頭を撫でる。

「……っ! こっ、子ども扱いすんなっ!!」
 我に返った少女が顔を真っ赤にしてその手を振り払う。

 少女がようやく見せた、年相応の一面。

 すると騎士は「悪い悪い」と謝りながら、再び障害を越えて彼女の傍を離れる。
「それでは、私はこれで失礼する。また何かあったらよろしく頼む」
 そのまま外に出て行こうとする騎士。

「……待って」

 その背中に、少女が声をかける。
 振り向くと、彼女もこちらを向いていた。

「……あ、その…………ありがと……」

 言い慣れぬであろう礼に、少女の目が泳ぐ。
 その様子に思わず笑みを漏らしながら、騎士は歩みを戻しながら後ろ手に手を振る。

「どういたしまして」

 そう言い残し、彼女の小屋を後にした。

 

 この身体になってから、こんなに和やかな気持ちになったのは初めてだった。

 彼女が、まだ実は不安定な存在だから。
 彼女が、まだ実は人の心を感じられるから。

 だからこそ、願わずにはいられなかった。


 どうか、彼女が彼と同じ道を辿らぬよう――

 

 

 

 


「あの時の騎士……おっさんだったのね」

 隣で明星壱号をいじっていたリタが、ボソリと呟いた。

「ん? 何が?」

 レイヴンが聞き返すと、彼女はやはりボソリと答える。
「あの力場安定術式持ってきて、うだうだ長話して、サンドウィッチ追いてった中年騎士、アンタだったのねって言ったの」

 するとレイヴンは驚いたように、そして茶化すように大げさな口調で答える。
「あらま、リタっち覚えてたの? やぁねぇすっかり忘れてると思ってたのに……おっさん恥ずかしぃ~」

 いつもならここで「フザけんな!!」と鉄拳なりファイヤーボールなりが飛んでくるところ……なのだが――

「……忘れてたわよ、ついこの間まで」

 なにやら深刻そうな顔で、彼女は言った。

「……じゃあ何で?」
 思わずこちらも真剣に尋ねてしまう。

 しばらく黙り込むリタ。話題が話題なだけに、レイヴンもこれ以上不用意に茶化すわけにも行かず、沈黙に付き合う。

 やがて彼女が、明星壱号を床に置き、言葉を紡ぐ。
「アレクセイが使ってたエステルの力を制御するための術式――あの術式の応用式が使われてたから……術式と一緒に、あの時の事も思い出したの」

「……ああ」


 つまり、彼女は気付いてしまったのだ。


「……すまなかった」


 続く言を彼女が発する前に、レイヴンが言った。

「結果的に、君にもエステリーゼ様を苦しめる一端を担わせることになってしまったな……」

 そう、あの時の術式を利用してアレクセイはエステリーゼの制御術式を完成させたのだ。それは何も知らなかったとはいえリタの協力を意味し、エステリーゼと親友とも呼べる仲である彼女にとっては残酷なことに違いない。
 無論、アレクセイの道具に過ぎなかったあの時のレイヴン――シュヴァーンも、あの術式が何を目的としていたのかなど知る由もなかったし、彼女たちが今のような親密な関係になるなど想像もしていなかった。とはいえ、実際にリタに術式解読を指示したのは自分だ。

「君があの術式の解読を引き受けることでアレクセイに利用されていたことを……私は知っていた。それでも私は君にそれを促した……。君に責められても仕方がない」

「…………やめなさいよ、そのしゃべり方。……怒るに怒れなくなるじゃない……」
 リタが不機嫌そうに目を伏せる。

 そりゃまあそうか、とレイヴンは苦笑しつつ頭を掻く。彼女にとってシュヴァーンとしての自分は、未だに親しみとは正反対の存在なのだろう。
 ただ何となく、あの時のことはあの時の自分が謝るべきだと思ったのだが、不要な努力だったようだ。

「それに――」
 目を伏せたまま、リタが続ける。
「あの術式、確かにエステルにも使われてたけど……精霊化にも、この明星壱号にも使ってるんだから……」

 つまり、その件については気にしなくてもいいということだろう。おそらく。

「じゃあ何で怒ってるのよ?」
 再度尋ねると、彼女は顔を赤くしながらさっきよりずっと小さな声で呟く。

「……んで……ただった……よ……」

「んー?」
 良く聞き取れず、耳を彼女の口元に寄せる。


「――――――――」


「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 突如笑い出すレイヴン。そんな彼にリタは顔を真っ赤にして怒鳴る。

「ちょっ! 何笑ってんのよ!?」
「くくっ、ゴメ……だって……リタっち……あっはっはっはっは!!」
 ヒーヒーと苦しそうに肩を上下させながらも、レイヴンの笑いは止まりそうにない。

「笑い過ぎッ!!」
「げふぅ!!」
 遂にリタの鉄拳が炸裂し、レイヴンの笑い声が悲鳴で止まる。

「ふん!」
 そのままそっぽを向いてしまったリタに、彼は慌てて取り繕うように声をかける。

「ゴメ、ゴメンってばリタっち! おっさんちょっと緊張してた分気が緩んじゃっただけだからさ……」
「気が緩んだって何でよ」
「だって、どんな恨み言言われるのかと思ったところにあんな可愛いコト言うモンだから……」


――あんな最っ高に可愛くないあたしの所に来たのが……何でアンタだったのよ……――


 するとリタはまた恥ずかしそうにうつむき、黙り込む。
 やれやれと苦笑し、首を振ると、レイヴンは優しく語りかける。

「ねぇリタっち? おっさんはね、あん時のリタっちのこと可愛くないなんて思ってないわよ。
 自分の目的にまっすぐで、夢中になると周りが見えなくなって、確かに自分勝手なところもあったけど、それも含めてリタっちぐらいの年頃なら一番可愛いパターンじゃない」
 そういう根本的な部分は今と変わらないしね、という言葉はまた殴られそうなので飲み込んでおく。

「それでも限度ってモンがあんでしょ。いくらおっさんが物好きだからって、あんな小娘なんか――」
 彼女は別に、あの時の自分が嫌いなわけではないはずだ。
 しかし尚否定しようとするのは、研究者としてではなく、目の前のこの中年に接する女としての自分を意識してのことだろう。

(まったく、嬉しいこと言ってくれるじゃないの)
 身に余る光栄とはまさにこのことだな、と一人胸中でつぶやき、続く言を発する。

「ただ……嬢ちゃんたちと一緒にいるリタっちを見たとき、少し安心もした」

 顔を上げ、真意がわからないといった顔でこちらを見てくるリタを、レイヴンも見つめ返す。
「あの引きこもり少女にも、一緒に旅して、心配してくれる友達ができたんだなー……って」

 カプワ・ノールで久々に見かけた時には、正直人と行動を共にしていること自体に一種の感動すら覚えた。
 そしてヘリオードで傍観していた、魔導器の暴走。命の危険もおそらく承知で、そこに飛び込んだのは相変わらず魔導器バカな天才少女と……そんな少女の身を案じた一国の姫君。後に聞いた話では、その後も倒れるまで彼女を介抱していたらしい。

「おかげで今ではリタっちも、こーんなに仲間想いになっちゃって……ホント、自分と魔導器以外信じてなかった頃が嘘みたいね」
「何よ、その言い方……」
 やっぱりかわいいなんて思ってないじゃない、とむくれてしまった。

 そんなリタに苦笑しながら、
「はっは、まあおっさんが言いたいのはさ……」
 そう言って、後ろから彼女を抱き寄せる。
 流石にリタも小さく悲鳴を上げいつものように抵抗しようとするが、それより早く、レイヴンは彼女の耳元に口を寄せ、ささやく。


「今も昔もひっくるめて、おっさんはリタっちのことが大好きってこと」


「…………っ!!」
 途端にリタの抵抗が止まり、顔が耳まで真っ赤に染まる。相変わらず可愛らしい反応だ。

 そして、次に紡ぐはお決まりのあの台詞。


「愛してるぜ」


「……バカっぽい……」


 返ってくるのも、やはりいつもの憎まれ口。
 そんなやり取りに一人満足そうににへっと笑い、レイヴンはリタの頭をなでる。

 あの時は鎧越しで感じられなかった少女のぬくもりが、妙に嬉しかった。
 

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