ついでに酷い厨二病。
『例えるなら空をかける一筋の――』
この世で最も美しいものは、やはり人が生み出すものではない。
自分の大好きな星空も、眠ることを知らないこの街では何の遠慮もない下品なネオンに薄らぎ、ただかすれた闇になり下がっている。
世の中にはこの風景を夜景と呼んで喜ぶ者もいるが、自分にとっては心外極まりない話だ。
――女を口説くときにしばしば利用させてもらっているのは別として。
「……結局、人間の作るもんなんて自然の美を踏み台にしてる上ナンセンスなもんばっかなわけよ。
そう思わない?」
そのネオンを背景にしてそう問う男。逆光のために顔までははっきり見えないが、飄々とした口調からはこの男がこの状況に何の危機感も抱いていないことを感じさせた。
そんな男に銃を向けたまま、彼は至極冷徹に言葉を返す。
「お前がそんなものを抱えてなければ素直に同意できるんだがな」
男の腕には、とある名工が作成した女神の石像が確かに抱えられていた。
時価数千万、保険とセキュリティ費も含めれば5千万は下らないだろう。
そんな超がつくほどの貴重品が、今無造作に、だがよく観察するとしっかりと保護されて男の手の内にある。
「だから俺様が言いたいのは、こんなモンそこまで必死になって守らなくてもいいでしょってこと。
毎回毎回、お前さんも大変よねぇ」
冗談っぽく肩をすくませながら、皮肉(と彼は判断した)を口にする男。
「必死になって盗み出す者がいる以上、必死になって守る者がいるのも当然だろう?」
彼がそう答えると、やれやれと首を振りわざとらしくため息をつく。
「あー言えばこー言う」
「それはこちらの台詞だ」
そして彼は引き金に掛けた指に力を入れ直し、男に告げる。
「おとなしく縄につけ、レイヴン」
レイヴンと呼ばれた男の口元が、ニヤリとつりあがったのが分かった。
「あんたに出来るかな、シュヴァーン警部殿?」
レイヴンがそう言い終わるや否や、彼――シュヴァーンの手にある銃が火を吹いた。
銃声という名の轟音が、摩天楼に響く。
先ほどまでレイヴンが立っていた場所に、その姿はない。
ここは屋上、その端に立っていた人間が消えた。考えられるのはただ一つ。
「チィっ!」
慌ててそこに駆け寄り見下ろすと、案の定ハングライダーでネオンの上を滑空するレイヴンの姿。
「じゃあな、兄貴」
余裕の笑みで振り返るレイヴンの口が動き、その言葉が容易に読み取れた。
そして彼は片手を顔の前で上げ別れの合図を送ると、摩天楼の彼方へと消えていった。
その姿を忌々しげに見送りながら、シュヴァーンは毒づく。
「あんの愚弟がッ……!」
今日もまたこの街で、黒い影が躍る――
壮絶な兄弟喧嘩は、まだ当分終わりそうにない。
明らかに某怪盗3代目の影響受けすぎである。
ぽちっとお願いしますm(_ _)m