別に腐向けのつもりはないけどDV。
それでもおkな方はいってらっさい!
Fall Fall Fall...
「ご苦労だったな、シュヴァーン」
目の前に横たわる娘を満足げに見下ろしながら、騎士団長、アレクセイは言った。
「…………」
その言葉を投げかけられた当人は、何も答えない。
いつも軽口をたたき、胡散臭い笑みを浮かべている道化の男の姿のまま、しかし彼は何の表情も浮かべず、ただ主と娘を見つめている。
アレクセイも返答は望んでいないのか、その後は何も言ってこない。
――やがて、彼が口を開いた。
「エステリーゼ様を……どうするつもりですか?」
「…………?」
いつも自分からは言葉を発さなかった彼の発言に少し驚いたのか、訝しげな表情でアレクセイが振り向く。
わずかに――ほんのわずかに意志の宿った目で、彼はこちらを見つめていた。
そんな彼に嘲笑ともとれる笑みを向け、アレクセイは歩み寄る。
「何か言いたげだな? 情でも移ったか?」
道具のお前が、と主は続ける。
「……いえ」
彼はそう言って目をそむけた。
ああしまった――そう思った時にはもう遅くて。
「っ……!!」
鎧を装着したままのアレクセイの掌が、彼の頬を薙いでいた。
衝撃に大きくのけ反りながらも踏みとどまり、転倒は避ける。口内が切れ鉄の味が味覚に広がる。
「……まあいい、お前が何を思ったところで何も変わりはせん。せいぜい下らん情を見せぬことだ」
見上げると、冷たく笑うアレクセイと目があった。
「所詮お前は、道具にすぎぬのだから……」
背筋も凍るような歪んだ笑み。
何度見せつけられても、戦慄が走るのを抑えられない。
「……承知……しています」
痛む頬に手を当てながら、彼は答えた。
それを聞いて気がすんだのか、アレクセイは彼の横を通り過ぎその場を後にする。
「さっさと着替えろ、シュヴァーン隊を動かす」
すり抜けざまにそう命じ、数メートルほど歩いたところで再びアレクセイは立ち止まる。
わずかに首を動かして彼を振り向くと、彼は立ちつくしたまま娘を見つめていた。
「……少々……遊ばせすぎたな……」
そう小さく呟き、再び歩みを進め始めた――
この娘を主がどうするつもりかなど、分かり切ったことだった。
きっと自分と同じだ――道具として操られ、捨てられる。
そして自分にはそれを止めることなどできない。そんな実力も、権限も持っていないのだから。
(何を……今さら……)
ここまで来て、何を躊躇っているのか。
今まで何の口答えもせず、命令通りのこのことこの娘を運んでおきながら……。
(俺は――私は……)
髪紐を取り、手で撫でつけてやると、自ずとスイッチが切り替わり道化は騎士に戻る。
先ほどまでわずかながらも眼に宿っていた意志の光も、もうそこにはない。
「うっ……」
ちょうどそこで、娘が目を覚ました。
「ここは……」
連れ去る直前の手刀がまだ効いているのか、首筋を押えながらあたりを見渡す。
そして、嫌でも目に留まるのは唯一そこに立っている人物。
「レイ……ヴン?」
もはや騎士に戻った道化の名を、彼女は呼んだ。
しかし、服装は道化のままであるが、髪形も、表情も、雰囲気も、まるで別人のように変貌している彼にその確証は持てなかったのか、語尾が上がっている。
「エステリーゼ様……」
「!!」
ああ、何と冷たい声だろう。何と冷たい表情だろう。
娘の表情が強張り、明らかに自分に対して恐怖を抱き始めている。
「レイヴン……? 一体、あなたは……」
「エステリーゼ様……どうか――」
その先を言おうとして、彼は口をつぐむ。
――言えるわけがない。
「…………失礼します」
一礼して身を翻し、彼もアレクセイのようにその場を後にする。
「レイヴン……! レイヴン!!」
後方で彼女が道化の名を呼ぶ。
何度も、何度も――
もうその名には戻れない。
彼の居場所は、彼自身が壊してしまったのだから。
言えるわけがない。
彼女を、自分と同じ運命に貶めてしまったのだから。
許してください、などと――
ぽちっとお願いしますm(_ _)m