残念なオチ付きですが、お持ち帰りはご自由にどうぞ(その際は当サイトの明記をお願いします)。
一応前のアンケートの結果を踏まえてほのぼの甘々のつもり……てか2人がだべってるだけです。
あ、あとED後です。
それではつづきからどぞー。
いつか生まれて来る君へ
「ねぇ……子供が出来たら、男の子と女の子どっちがいい?」
夕食を終え、2人並んでリビングのソファに座ってのんびりとしている時に突然投げかけられた問いに、レイヴンの思考と動きがフリーズした。
しばらくしてからぎぎぎ、と音がしそうなぎこちない動きでそちらに首を回せば、てっきり読書に熱中していると思っていたリタはいつの間にかこちらを向いていた。
いきなりこんなことを聞かれると言うことはまさか出来てしまったのかという考えが真っ先によぎるが、子供と言えば男と女がアレしてあーなって出来るものであり、よくよく考えてみれば自分と彼女はまだその線は越えていない(ただし越えられるものなら今すぐ越えたい)。
いやいや、彼女に限ってそんなまさか……でも考えてみると自分ももう若くない訳だし、性格にも難があるし、リタとしても科学者の立場から優秀な遺伝子を云々――
「……念のため言っとくけど、もしもの話、だからね」
冷や汗をダラダラ垂らしながら黙り込んでいると、どうやら考えていることを見通されてしまったらしい。ジト目でそう念を押され、自分の杞憂であったことにホッとしつつ、少々具体的な妄想が入ってしまったことを悟られないよう、レイヴンは何とか笑いを浮かべる。
「ハ、ハハハ、分かってるってリタっち。
にしても、何でそんなこといきなり聞いてきた訳?」
「べ、別に……今日、本屋に行く途中にちっちゃい男女の双子連れてる女の人見て、ちょっと……可愛いなって……」
表情も声も明らかに引きつっていたが何とか誤魔化せたようだ、すかさず投げた問いに、リタはそれ以上こちらの態度について言及することなくしどろもどろながらも答えを返してくる。
「あたしはどっちでもいいけど、おっさんはどうなのかなって……思っただけ。
で、どっちがいいのよ」
「う~ん……どっちがいいかねぇ……」
ここからは顎に手を当てて真剣に考え込んでみる。自分はともかく、リタの子供ならば男にしろ女にしろ容姿は申し分ないだろうし、自分と彼女の間に生まれてくれたと言うだけでレイヴンは精一杯愛せるだろう。……とすると――
「男の子、かな……」
「? 何で?」
少し意外だったのか、リタが目を丸める。
「だって、女の子だったらいつかお嫁にもらわれて行っちゃうじゃない。おっさんの愛した娘がおっさん以外の男に幸せにしてもらうなんて耐えられない!」
彼女からの問いに返すまま理由を述べている内に妙に現実味が湧いてきて、言葉に熱が入る。ぐっと握りしめた拳はまだ見ぬ娘のまだ見ぬ相手に対する敵対心の表れだ。
「バカっぽい。何十年先の話よ」
案の定リタに決まり文句で一蹴され、がくっと力が抜ける。確かにかなり早まった考えではあったが、尋ねてきた本人にそう返されるとかなりへこむ。
「……でも、少し意外だったわ」
だが、どこか楽しそうな声にもう一度視線を上げてみると、リタは確かに微笑んでいた。本当にたまに、ごくたまに……それでも、自分にだけ見せてくれる優しい笑みに、思わずレイヴンの心臓が跳ねる。
「あんたが、あたしより未来(さき)の話するなんて」
ああ、そう言えば。
人魔戦争から生き残って10年間、ずっと避けてきた未来の展望をこうも具体的に語ったのは、星喰みを倒す旅が終わってからもなかったような気がする。
「……リタっちのお陰、かね」
「は?」
それはきっと、漠然と抱いていた幸せな日々への希望を、リタが一緒に形作ってくれているから。
「おっさんがこうやって将来の話できるようになったのは、リタっちが傍にいてくれるからよ。あんがとね」
「何それ、意味分かんない……」
事情を飲み込めない様子のリタにそう伝えてみるが、彼女に真意が伝わった様子はなく、ただ気恥かしい言葉をかけられたことだけは理解出来たようで、赤くなった顔を背けられてしまった。
そんなリタを、今度は自分が微笑みかけながら横から抱きしめる。ああ、自分は幸せだ。こんな可愛い恋人がいて、未来には希望があって――
そこでふとよぎった考えに、幸せ全開だった自分の脳が冷めていくのを感じた。
「リタっち」
「な、何よ」
「おっさんやっぱ女の子でもいいわ、子供」
「はぁ?」
大人しく抱きしめられていたリタが顔を上げるのに合わせて、レイヴンは自分の身体を彼女から離し――
「もしもおっさんみたいに自分が女の子に幸せにしてもらうような不甲斐ない息子だったら、おっさん居た堪れない……!!」
両手で顔を覆って、少々オーバーに身悶えてみせる。
「………………」
隣のリタからはいかにも呆れかえっているという様子の視線が突き刺さっているが、レイヴンにとってこれはこれで大問題なのだ。男とは総じて体裁だの威厳だのを気にする虚しい生き物である。
「はぁ、あんたねぇ……」
溜息をついたリタが、こちらに身を寄せて来る気配。そして、
「いだっ」
振り下ろされた手刀に、思わず悲鳴を上げる。
反射的に手を離すと、こちらを覗きこんでいるリタとすぐに目が合った。
「せっかく将来の話できるようになったってのに、心配しかできないの? いいじゃない、男だろうが女だろうが、その子が幸せなら。誰を幸せにしようが、誰に幸せにしてもらおうが……」
ぱちん。痛いくらいの勢いで顔を挟むリタの両手。
「あたしとあんたの子供なんだから、どんなことがあっても幸せになれるに決まってる」
レイヴンの額に自分の額をくっつけて、リタはそう言った。出会う前も出会ってからも、お互い色々なモノを背負った身の上だった。今まで乗り越えてきた多くのことが、レイヴンの脳裏にも蘇る。
「……ん、そうね」
苦笑して頷いてから、もう1度リタの身体を抱きしめる。
「その為にも、がきんちょ達が安心して成長できる世界にしなきゃね」
「当たり前でしょ」
今尚新たな世界の為に働いている者同士、自分達に出来ることはまだ多くある。それはよく分かっていた筈なのに、俄然やる気が出てくるあたり、やはり人間とは現金なものだ。
「でも、無理はだめだからね」
腕の中で、リタがぼそぼそと訴えかけてきている。「分かってるって」と耳元で答えてやりながら、レイヴンはまだ見ぬ自分と彼女の愛の結晶に、心の中で誓うのだった。
絶対に繋げてみせよう、この幸せな日々を。
だから、君に出会えるその日を楽しみにしておくよ。
「ところでさー、リタっち」
「何?」
「さっきの話ってつまりおっさんの子供産んでくれる気があるってことよね? ね?
そういうことでおっさん頑張っちゃうよ?」
「……っ! こんのエロオヤジがぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして数年後、エイリーンちゃん誕生という訳ですはい。
ぽちっとお願いしますm(_ _)m