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今日も幸せレイリタ日和。
2025/04/21 (Mon)06:16
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2013/02/13 (Wed)18:51
えー何とお詫びを申し上げればいいのか……とりあえず最近ついのべで満足しておりました。
お久しぶりです、管理人です。

フリリクを1年放置した上でのバレンタイン小説です。
これが復活のきっかけになれば……いいな……ゴフッ


※注意
・おとうさんといっしょ!設定(俺得)。
・シュ(ryとキャナリが空気(比較的)。
・みなさんお楽しみの親衛隊の出番なし(平和)。
・その代わりの夢の競演(一瞬)。
・ラストが暗号かってくらいまじで読みにくい(平仮名)。

それではつづきからどぞー。

おとうさんとばれんたいん!


「おはよう、リタ」
「あ、きゃなり!」
 部屋に入って声をかけると、魔導器の模型の傍でパジャマをたたんでいたリタは顔を輝かせ、勢い良く抱きついてきた。
「おはよー!」
「ふふっ、今日も元気ね」
 彼女の〝父親″と世話役がギルドユニオンとの交渉の為トルビキア大陸へ渡って1週間。その間の相手役を依頼されたキャナリは、今朝も一緒に朝食を食べるため彼女を迎えに来たのだった。
「きゃなり、あまいにおいがするー」
 キャナリに抱きついたまま顔を上げ、リタが不思議そうにそう言った。
「あら、リタは鼻がいいのね。
 もうすぐバレンタインでしょ? お菓子作りの練習してるの」
「ばれんたいん……?」
 どうやらリタは知らないらしい。首を傾げながらオウム返しに尋ねられ、キャナリは膝を折って簡単に説明する。
「年に1度、女の子が大切な人にチョコレートやクッキーをあげる日よ。リタにもあげるわね」
 その説明で随分と心を踊らされたようで、リタは目を輝かせながらキャナリの隊服を強く握り直した。
「りたもおかしつくる! きゃなり、おしえて?」
「いいわよ。リタの大切な人は誰かしら?」
「あれくせい!!」
 大方予想のついていた答えだが、リタは元気よく即答した。
「あとね、しゅばーんと、えすてると、もちろんきゃなりも!」
「リタには大切な人が沢山いるのね」
「うん!」
 彼女が名前をあげた人物の中に血の繋がった人間は一人もいないけれど、嬉しそうに笑みをこぼすその様子は大好きな家族のことを話す様子そのものだった。
 そんな目の前の少女の幸せがただ嬉しくて、キャナリは彼女の栗色の髪を撫でる。
「あ……っ」
 その時、リタが何かを思い出したかのように一瞬だけ目を見開いた。そして見る見るうちに顔が曇っていき、キャナリの服を掴んでいた手もすとんと落ちる。
「……リタ? どうかした?」
「あ、ううん! なんでもない!!」
 尋ねてみると慌てたように首を横に振るが、絵に描いたような下手な誤魔化し方だった。
「それより、あさごはんたべにいこ!」
 だがリタは間髪をいれず、キャナリの手を握るとぐいぐいと引っ張り部屋の外へと向かい始めた。何か隠しているのは明白だが、不用意に暴いてもいいものなのか、今は判断がつきかねる。
 どの道、保護者2人はまだしばらく帰って来られないだろうし、もう少し様子を見ていた方が賢明かもしれない。

 

「――では、幸福の市場をはじめとする商業ギルドに関する協定は、先程のとおりといたしましょう」
 アレクセイはテーブルの上で手を組みながら、それを挟んで向かいに座る巨躯の老人にそう告げる。
「へっ、計画どおりってか。まあ金にがめつい連中だがその分仕事もキッチリこなしてくれるのは俺が保証する。せいぜい儲けさせてやってくれや」
 帝国騎士団長を相手に人を食ったような態度のこの老人はドン・ホワイトホース――ギルド『天を射る矢』の首領であり、更には世界中のギルドを束ねるギルドユニオンの長である。
「ええ、彼らの仕事に対する誠実さは私も評価しています。まあ、帝国の領域でどの程度利益を得られるか本人達次第ですが」
「んなこたぁ俺も奴らも了承済みだ。大方、ギルドの商売人を帝国に入れて停滞した市場を刺激しようって魂胆だろ。そっちこそ、引っ掻きまわされねぇように気ぃつけるこったな」
「それで帝国の経済が衰退すれば、ますますギルドの進出もしやすくなりましょう。心にもないことは言わない方がいいのでは?」
「相変わらず腹黒い奴だな……ま、そうでもねぇと俺の交渉相手なんざ出来ねぇか、はっはっは」
「ははは」
 腹から豪快な笑い声を上げるホワイトホースと、顔に笑顔を貼り付けながらあからさまに乾いた笑い声を上げるアレクセイ。立会人のシュヴァーンはこの一見柔和な一触即発に胃が痛くなるのを感じながら(おそらくギルド側の立会人も同じ気持ちだろう、顔色が悪い)、協定の内容を紙面にまとめていた。後はこれを一度帝国に持ち帰り、調印許可の採決を採るだけだ。ある意味ではホワイトホースを相手にするより面倒くさい評議員共がぐちゃぐちゃと文句は言ってくるだろうが、そのあたりはアレクセイが上手いこと黙らせるだろう。年末のリタ誘拐事件以来、「この男を怒らせるとヤバい」ということを、彼らもようやく理解したようであるし。
『……ん?』
 その時2人の笑い声が途切れ、同時に部屋にいる全員がその出入り口に目を向けた。何やら外が騒がしい。
 何人かの大人が走り回っている足音、そしてその中で異様に軽い足音がドアに迫り――
「じいちゃん!」
 弾丸のごとき勢いで部屋に転がり込んできたのは、まだ片手で年が数えられそうな少年。
「ハリー!?」
「じいちゃん、大丈夫!?」
(じいちゃん……?)
 思わぬ乱入者に剣の柄にかけていた手を下ろすのも忘れ呆然とするシュヴァーンを尻目に、少年は同じく立ちあがって驚いた様子のドンに駆け寄ってくる。
「ハリー、おめぇ……どうしてここに? ダングレストで留守番してろって言った筈だろうが」
「荷物の中に隠れてきた!
 じいちゃん、帝国の奴なんて信用しちゃダメだよ!! いくらじいちゃんが強くたって、こいつらは俺達が考え付かないようなズルいことして来るかもしれないじゃないか!!」
 ドンに向かってそう熱弁してからくるりと振り向くと、少年は幼い顔に敵意をむき出しにして、ビシィッと音がしそうな位の勢いで人差し指をこちらに向けてきた。
「やいお前ら! 良い人ヅラしてじいちゃんを騙し打ちしようったってそうはいかないぞ!! じいちゃんは俺が守――」
「ハリー」
「何だよじいちゃん!」
 ごっつん
 テーブルを挟んでも聞こえて来るほどの音量で、ホワイトホースの拳が少年の脳天に落ちる。心なしか、少年の首が一瞬胴体に喰い込んだように見えた。
「ってぇ!」
「この無鉄砲め……とりあえず今はこれで勘弁しておいてやる、説教は後だ。
 ……おい、とりあえず馬車にでも突っ込んどけ」
 ホワイトホースは少年の首根っこを掴み、まるで猫のように片手で掴み上げる。
「は、はい! すみませんでした、ドン」
 慌てた様子で部屋に入ってきたギルド員は突き出された少年を受け取ると、彼を抱え直してそそくさと部屋から出ていく。
 少年はしばらく痛みのせいか声も出せないようだったが、ドアが閉まってからやがて騒ぎ声が復活するのが聞こえた。どうやら、拳骨を喰らったことよりホワイトホースがまだ帝国の人間と一緒にいることが不満らしい。
「……あー、悪かったな、騒がせて」
 椅子に座り直したホワイトホースは一度額を掌で叩いてから苦笑いを浮かべた。
「お孫さん、ですか」
「ああ、ハリーっつってな、普段は無邪気で心根の優しい奴なんだが帝国の奴が絡んで来るとどうも喧嘩っ早くなっちまう」
 黙って事の成り行きを見守っていたアレクセイが尋ねると、ホワイトホースは素直にそう答えた。その声音は、何となく先程までより柔らかい。何だかんだで、孫の事を心底可愛がっていることが窺える。
「そのようですね、いかにも我々を目の敵にしている感じでした」
「……しかしまぁこんなこと言うのも何だが、おめぇらの方はあまり嫌わねぇでやってくれ。
 アイツの両親は帝国との小競り合いに巻き込まれてくたばっちまってな……恨んだところでどうにもならねぇってことは何度も言ってはいるんだが」
 こうして帝国とギルドが話し合いの場を持つようになったのはアレクセイが騎士団長に就任してから、つまり2、3年ほど前からのことだ。それまでは帝国とギルドの衝突も度々起きていたし、酷い時には死傷者も出ていたと聞く。
「我々の間の溝は深い……お互い、まだ癒えない傷もあるでしょう。
 大人の我々ですらそうなのです、ましてや、子供の頃に抱えた痛みはそうそう消えてくれるものではない」
「はん、腹黒騎士団長様にしてはえらく人情味のある台詞じゃねぇか」
 ホワイトホースもまた本当の意味では帝国を信頼していないのか、それとも単に意外だったのか、アレクセイの言葉に対して茶化すような口調でそう返してきた。
「……私にも娘がおりましてね」
 テーブルの上で組んでいた手をそのままに腕を立て、アレクセイはそう口にする。
 今度ばかりは本当に意外だったのか、ホワイトホースは年季が入ってやや腫れぼったそうな瞼を僅かに見開いた。
「ほう?」
「リタ、といいます。娘といっても血は繋がっていないのですが……意外ですか?」
「いや、騎士団長が養女を迎えたっつー話は噂に聞いたことはある……だが、まさかおめぇ本人の口からその話が出るとはな」
 傍からやり取りを聞いていたシュヴァーンとしても、アレクセイの言葉は意外だった。
 騎士団内部でのやり取りを除いて、彼は基本的にプライベートなことを自ら話しだすような人間ではなかった筈だ。リタを養女にする前からホワイトホースとはこうして交渉の場を設けてはいるが、思えば交渉時以外の会話は基本腹の探り合いと牽制だけだったような気がする。
 先程のホワイトホースの孫――ハリーといったか、の微笑ましい乱入がきっかけになったのは明らかではあるが、案外深い溝とやらの埋め方もそんなものなのかもしれない。
「2人暮らしだった母親を亡くしたところを引き取ったのです。当時も今も、魔導器の研究員だった母親のように研究書を読んだり模型をいじっていたりすることが多い……もっとも、本人が本当に魔導器のことが大好きなのも確かですし、今は友人も出来て魔導器以外に楽しいことも増えたようですが……。
 術式を一つ覚える度に嬉しそうに報告してくれることは、私としても素直に嬉しいのです。ただ、母親の背中を追うことで悲しみを紛らわせようとしているようにも見えて……少々、心が痛む」
「………………」
 そう言ったアレクセイの表情は、ホワイトホースと同じく可愛い娘を慈しんでいる父親のそれだった。リタを引き取った当初は「私が直々に教育して行けば、間違いなく帝国一の魔導士になる」などと抜かしていた男がこの発言である。目頭が熱い。
 シュヴァーンが人知れず感動にうち震えていると、ドンの方からもやや湿っぽい声が返ってきた。
「おめぇも案外苦労してるみてぇだな」
「いえ、私の杞憂かもしれません」
「かもしれねぇ。が、親っつーモンはいらねぇ心配をするもんだ。自分以外の気持ちなんざ正確に分かる奴はいねぇよ、例え相手が自分の子供でもな。
 ま、俺が言えた義理じゃねぇがあまり寂しい思いはさせてやんじゃねぇぞ」
「はは、耳が痛い。
 ハリー君の件、我々は気にしていません、あまり叱らないであげて頂きたい。我々が信用ならないというのもあるでしょうが、貴方のことを心配してあのような行動をとったのでしょう、良いお孫さんですね」
「とってつけたようなフォロー入れやがって……ま、考慮には入れておくぜ」
 吐き捨てるようにそう言ったものの、ホワイトホースの顔には明らかに孫を褒められたことに対する喜びの色が浮かんでいた。

 

「リタの様子が変?」
 ホワイトホースとの会談(終盤はほとんど育児相談だったが)から帰ってきたアレクセイは、机の上に溜まっていた2週間分の書類を裁く手を止め、顔を上げた。机の向こうに直立しているキャナリは彼女にしては珍しく困惑した様子で、「ええ」と一つ頷いた。
「お2人が出立されてから1週間程はいつも通り過ごしていたんですが、ある日急に私の部屋で一緒に寝るようになって……」
「確か最初は、リタが自分の部屋で寝る、と言っていたな。それで、キャナリにはリタが寝るまで傍にいてくれるよう頼んだ筈だ」
 執務室には丁度シュヴァーンも来ており、書類の山をアレクセイの机に置いてから話に入ってきた。
「単に、閣下の不在が長くて寂しくなっただけなのかもしれませんが、突然のことだったので気になって……。
 本人に聞いてみても、一緒に寝る方が私にとって楽だろうからの一点張りですし、何か隠しているような気がするんです」
「突然か……何か切欠のようなものは思い当たらないのか?」
「……関係しているかどうか確信は持てませんが、一応」
 アレクセイの問いにキャナリは一瞬だけ迷ったようなそぶりを見せたものの、すぐに話しだす。
「丁度リタが私と一緒に寝るようになった日の朝に、バレンタインの話になったんです。
 リタもお菓子を作って渡したいと言うので、あの娘が大切だと思っている人について尋ねていたんですが、何人か名前を上げている内に急に言葉が詰まってしまって……」
 リタの様子云々以前に非常に内容の気になる会話であるが、ここで話の腰を折るのは野暮であろう。「で、リタの大切な人は誰だったんだ?」と問いたいのをぐっとこらえて、シュヴァーンはキャナリの言葉を待つ。
「その場は、すぐに取り繕うように笑って私と一緒に朝食に向かいました。ただ、その日からどこか浮かない顔をしていることが多くなったように思います」
「……そうか」
 アレクセイとシュヴァーンが帝都に帰着したのは昨晩遅くのことである。普通の子供ならとっくに寝ている時間まで起きて待っていてくれたリタは、2人が騎士団の宿舎に入るなり飛びついて来るような喜びようだった。その他に特に変わった様子は見受けられなかったのだが、ひょっとしたら、大げさな程喜んでいたのは何かを隠したかったからなのかもしれない。
「申し訳ありません、ご心配事を増やしてしまって……」
「いや、君が謝るようなことではない。むしろ知らせてくれてありがたい、2週間もリタの面倒を見てくれたことといい、重ね重ね礼を言う」
「恐縮です」
 キャナリは申し訳なさそうに頭を下げるが、アレクセイはそんな彼女を労わるように微笑む。
「また何か気付いたことがあったら教えてくれ」
「あれくせい!」
 その時、執務室のドアが開き子供の甲高い声が響き渡った。
「リタ、起きたのか」
「もー、あれくせいひどい! ひとりでおきておしごといっちゃうなんて!!
 きょうはえすてるがこーぞくのがくしゅーかいのひであそべないから、あれくせいといっしょにいるっていったのに!」
 部屋に入ってくるなりアレクセイに駆け寄ってぷんぷんと怒り始めるリタの様子に、やはりおかしな所は見受けられない。むしろ可愛い。
「ああ、すまなかったな。昨日は寝るのが遅かったろう? もう少し寝ておいた方がいいと思ったのだ」
「あれくせいだっておそかったじゃない!」
「む、それはごもっともだな」
「くっくく……」
 父娘の微笑ましい会話に思わず噴き出してしまった。キャナリの方も口元に手を当て、肩を揺らしている。
「では、私はこれで失礼します」
「俺も、身体なまっちゃいけないんで隊の訓練に参加してきます。
 リタ、また後でな」
「うん、おしごとがんばってね!」
「……私も仕事なのだが……」
 とりあえずリタのことも心配であるが、騎士としての責務をほっぽり出す訳にもいくまい。後ろ髪を引かれるような思いを抱えつつも、シュヴァーンとキャナリは部屋を後にした。

 

 リタの機嫌を回復するのには少々時間を要したが、昼食と夕食のデザートにケーキをつけることで何とか手を打ってもらった。その後はリタの言っていたとおり、執務室で一緒に過ごしている。
「………………」
「………………」
 一緒に過ごす、といっても本当に一緒にいるだけだ。アレクセイは執務机で書類を処理し、リタはソファに座って研究書を読み漁る。いつもなら時折分からない箇所について聞いてくるのだが、今日は流石にアレクセイの机の上の惨状に気を使ってくれたのか、自分からはあまり聞いてこない(ただし、分からないところにぶつかると小さく唸り声を上げるので結局アレクセイの方が放っておけず手を貸してやることが多い)。
 その間も隙を見てリタの様子を窺ってはいるが、やはり変わった所は見受けられない。大きな本を開き、一生懸命文字を目で追っている。
 ……いや、だがその光景には何か違和感がある。何かが、足りないような――
「……リタ」
「ん? なぁに、アレクセイ?」
 いや、やはりおかしい。読書をしているリタが、こんなに早くこちらの呼びかけに応えるなど。いつもは傍に寄って2、3回は呼びかけてやらないと反応しない程集中している筈なのに、今アレクセイは執務机についたままだ。リタの集中力を、何かが確かに削いでいる。
「今日は、メアリーは持ってきていないのか?」
 メアリーというのは、リタが持っている魔導器の模型である。彼女の元々の家から持ってきた品の一つで、母親から貰ったものらしく、こうしてアレクセイの執務室で過ごす時にはいつも脇に置いていた筈だが。
「……わすれちゃった」
 リタは表情を曇らせ、すぐにうつむくと静かにそう答えた。
「そうか……取りに行かなくてもいいのか?」
「だいじょうぶ、きょうはつかわないから」
 これまでは使わない日でも持ってきていた筈なのだが……やはりリタの様子がおかしいというのは本当の話のようだ。よく見てみると、ソファに積んでいる本もこちらに来てからアレクセイが買い与えたものばかりだ。
(母親が関係しているのか……?)
 考えてみれば、大切な人は誰かというキャナリの問いに、母親が浮かんでも何ら不思議はない。しかし、母親のことが恋しくなって手元に置く思い出の品を増やすと言うならまだ分かる……それが実際は、遠ざけようとしているというのが理解できない。
「……あれくせい?」
 じっとリタの顔を見つめたまま考え込んでいたせいか、不思議そうに名前を呼ばれる。
「む、あぁ……そろそろ昼食の時間だな。食堂に行こう、早く行かないと好きなケーキがなくなるぞ」
「あ、そうだ! けーき!!」
 ケーキという単語に顔を輝かせるあたり、やはりまだ子供である。ソファから飛び降り、スキップで部屋の出口へ向かう姿はすっかりいつものリタだった。
「あれくせい、はやく!」
「ああ、すぐ行こう」
 急かされるままに席を立ち、伸ばされたリタの手を握る。手もまだこんなに小さな愛娘が一体何に頭を悩ませているのか気になってしょうがなかったが、今はひとまず午後に備えて糖分摂取に専念しよう。

 

 リタがヴィクトリアに近づこうとしないことに気付いたのは、その日の夕方のことだ。
 ヴィクトリアというのも魔導器の名前である。もう機能はしていないが、アスピオの家にあった時からリタが一番大事にしてきたもので、今は2人の私室の隅に置いている。アレクセイが知っている限り、この部屋にいる間は基本的にその周囲がリタの行動スペースだった。本を読む時も、アレクセイと話をする時も、リタは決まってその床か、一番近いソファに座っていた。それが今日は、一番遠い応接ソファの上で本を開いているうえ、わざわざ背もたれに左肩を預けて魔導器に背中を向けるような体勢を取っている。といってもやはり睡眠時間が足りなかったためか、今はこくりこくりと舟を漕いでいて、遂にはこてんと横になってしまったが。
 リタの手から本を抜き、寝室から持ってきた毛布をかけてやる。起こさないとまたケーキを食べそびれたと不貞腐れてしまうだろうが夕食までまだ時間はある、ゆっくり寝かせておいてやろう。
 すぅすぅと寝息を立てるリタの頭を一度撫でてから、ヴィクトリアの方を振り返る。
 リタにとってヴィクトリアは、いわば母親の化身だ。それが、何故今こんな扱いを受けているのか……。
(……ままならないものだな)
 部屋の隅に歩み寄り、筐体に触れる。リタをずっと見守ってきた魔導器にもし意志があるとすれば、彼女の気持ちも汲み取れてやれているのだろうか。
 自分以外の気持ちを正確に理解できる人間などいない、例えそれが自分の子供でも。ホワイトホースの言葉はもっともだ。それがどうしようもなくもどかしく感じてしまうのは自分の奢りなのだろうか。
「ふっ……ぅえ……っ!」
 その時、ソファの方からリタの声がしてアレクセイはもう一度振り向いた。
 先程の声音には聞き覚えがある……まだ寝食を共にし始めて間もない頃、眠っている間に何度も魘されていた……その時の声だ。
「リタ……っ!?」
「うっ……うぅ、ふぇ……ん!」
 アレクセイが駆け寄っても、リタが起きる様子はない。いつの間にか彼女の顔には汗が浮かび、瞼からは時折大粒の涙が溢れている。やはり、ここ数カ月は収まっていた筈の悪夢に魘されているようだった。
「リ――」
「ま、ま……!!」
 リタを揺り起そうと伸ばしかけた腕が一瞬止まる。
 確かに今、彼女は母親を呼んだ。
「っ、リタ! どうした、リタ!」
 だが、すぐにリタの身体を掴んで強く揺さぶる。とにかく、今は彼女を起こしてやらなければ。
「……あれく、せ……?」
 幸い、眠りが浅かったせいかリタの瞼が開くまでそう時間はかからなかった。
「魘されていた……怖い夢でも見たのか?」
 目尻に残った涙を親指で拭ってやりながら、アレクセイはリタに尋ねる。
「……っ!」
 だがリタの方は何故かそんなアレクセイの姿を見留めると、更に目に涙を溢れさせてしまった。
「リタ……?」
「なんでもない!」
 アレクセイの手を払いのけるように起き上がり、背中を向ける。何度も鼻を啜りながら、顔に手の甲を擦りつけて、涙を止めようと格闘しているようだった。しかし、拭っても拭っても溢れてくるのか、その動きは一向に泊まる様子がない。
「リタ……」
「なんでもないってば!」
「リタ」
 尚も誤魔化そうとするリタを、アレクセイは背中から抱きしめた。すっぽりと腕の中に収まってしまった身体は震え、頬をよせた顔も熱い。
「……話したくないのなら、無理に話さなくてもいい。だが、隠れて泣くようなことはしないでくれ……お前も言ってくれたように、私はお前の父親だ。私の前で、強がらなくてもいいんだぞ」
 リタが頑なに隠そうとしていることを知りたいという気持ちは正直強い。だが、それよりもまずリタには、我慢しなくてもいいことまで我慢して欲しくはなかった。溜めこまずにいることは無理でも、吐き出すことぐらいは手伝ってやりたかった。
 ずっとそうだった。この娘は不安や寂しさを我慢することばかりを覚えてしまって、限界を迎えなければ泣けもしないのだ。
「っ……ふえぇっ――!!」
「……おいで」
 一度腕を解いて広げてやると、リタはこちらを振り向いて正面から飛びこんできた。アレクセイの胸に額を押し付け、本格的に嗚咽を上げ始めたその背中を、ゆっくりと撫でる。
「っひぐ、あのね……あれくせい……」
「ん?」
 嗚咽に声を震わせながら、リタが話し始める。
「このまえ……きゃなりに、りたのたいせつなひとをきかれたの。そのとき……ままのかおがうかんじゃった……」
「……そうか」
 そこまでは予想していた事だったが、何故かリタは至極申し訳なさそうに告白した。そして、アレクセイの服を掴むリタの手に、力が籠る。

「……そんなの、おかしいよね……ままはもういないのに……いま、りたのたいせつなひとはあれくせいたちなのに……いないひとをたいせつにおもうなんて……。
 ……だから、ままをわすれないとっておもったの」

 リタの言葉に、アレクセイはしばらく言葉を返せなかった。
「……それで、メアリーやヴィクトリアを遠ざけていたのか」
「うん。……でも、だめだった……。
 ままのこと、わすれようとすればするほどおもいだしちゃって、すごくかなしくなるの……いままではへいきだったのに、きゅうにままにあえないのがさびしくなった。
 このままじゃ、あれくせいにもきらわれちゃうかもって……こわくて……!」
 それはきっと、自分達のことを本当に大切に思ってくれているからこその苦悩なのだろう。子供ならではのいじらしい考え方であり、ある意味では、科学者らしい合理的な考え方とも言える。
 賢すぎる子供は損だと、今まで何度もそう感じてきた。なまじ論理的思考が出来てしまう分、自分の感情と思考の間に大きなアンバランスが生まれてしまう。まだまだ感情のままに振舞うべき年頃なのに、生まれながらの科学者気質であるリタは論理的思考の中で自分の感情を見失ってしまっていた。
「……リタ、お前が大切だと言ってくれた人間は……今までお前と一緒に過ごしてきたこの私は、今ここにいる私の他に存在すると思うか?」
 少々唐突すぎる質問だっただろうか、リタは目に涙を溜めたまま、不思議そうな顔でこちらを見上げてきた。
「……ううん、りたのぱぱのあれくせいは、あれくせいしかいないよ?」
 やがてゆっくりと首を振り、未だ困惑の表情を残しながらもそう答えてくれた。
 彼女の答えに満足げに頷き、アレクセイは次の質問をする。
「なら、お前を生んで、ここまで育ててくれた母親は、モルディオ博士の他にいるだろうか?」
「……ううん、りたのままも、ままだけ……」
「そうだな」
 続く問いにも健気にそう答えたリタの頭を撫でる。
「リタ、お前の大切だと思うその人は、後にも先にもたった1人しかいない。そのたった1人を忘れてしまうことは……とても悲しいことだと、私は思う。
 ……私は、お前に大切な人を簡単に忘れられるような人間にはなって欲しくない」
 人の死を乗り越えることは遅かれ早かれ誰もが強いられることだ。だが、乗り越えることと忘れることは違う。
「リタが今まで寂しくなかったのはきっと、モルディオ博士のことを覚えていたからだ。ヴィクトリアにも、メアリーにも、リタと彼女の思い出が詰まっている……分かるか? 姿は見えなくなっても、忘れない限りお前の母親はずっと傍にいる」
 リタにするには抽象的すぎる話だったかもしれない、何度か目を瞬かせて、彼女はアレクセイの話を自分なりにかみ砕いているようだった。
「……じゃあ、わすれなくてもいいの? ままのこと……」
 やがて確認するように投げかけられた問いに、アレクセイは微笑んで大きく頷いた。
「ああ、忘れないでいてくれ。……大丈夫だ、やきもちぐらいでリタのことを嫌いになったりはしないよ」

 

 

ままへ

 きょうはばれんたいんです。おんなのこがたいせつなひとにちょこれーとをあげるひらしいです。ほんとは、ままにもりたのつくったちょこれーとをあげたかったけど、ままにとどきやすいように、おてがみをかくことにしました。
 りたはいま、てーとざーふぃあすってところにすんでいます。おおきなけっかいがあって、ぶらすてぃあもいっぱいあって、たのしいところです。
 いっしょにすんでいるあれくせいは、りたのじまんのぱぱです。ぶらすてぃあにもすごくくわしくて、りたにいつもむずかしいじゅつしきをやさしくおしえてくれます。でもきしだんちょーっておしごとがいそがしくて、りたといっしょにいられないこともよくあります。けんきゅうでよくしゅっちょーしてたままといっしょです。
 あれくせいがいないあいだは、しゅばーんやきゃなりがあそんでくれます。あ、でもしゅばーんはあれくせいがいてもあそんでくれます。2りもきしでいそがしそうです。てーとのひとをまもるたいせつなおしごとをしている2りはかっこいいとおもいます。
 はじめてともだちもできました。えすてるっていうこーぞくのおんなのこです。ほんとうはえすてりーぜってなまえですが、りがたつけたえすてるってよびかたのほうをきにいってくれています。たまにふぉーまる?なところでえすてるってよぶとあれくせいにおこられますが、えすてるはそんなあれくせいをおこります。よくわかんないけど、こーぞくのえすてるのほうが、きしだんちょーのあれくせいよりえらいみたい。
 ばれんたいんのおかしは、この4にんにあげました。といっても、きゃなりにおしえてもらいながらえすてるといっしょにつくったので、きゃなりとえすてるとはこうかんでした。
 あれくせいとしゅばーんにはさぷらいず?であげました。あれくせいはおいしそうにたべてくれながら、さいごのほうはなぜかないていました。「ほんめーはずっとわたしだけにしてくれ」っていってました。とりあえず「うん」っていったけど、ほんめーってなんだろ?
 あと、しゅばーんだけはあまいものがにがてなのでおせんべいをあげました。しゅばーんはふくろをあけただけでないていました。あしたから「かんみこくふくだいさくせん」をけっこーするそうです。よくわかんないけど、おうえんすることにしました。
 この4にんのほかにも、りたとなかよくしてくれるひとはたくさんいます。でも、しんえーたいのひとたちと、あれくせいとしゅばーんはたまになかがわるくなります。じょーしとぶかってよくわかりません。
 みんなにかこまれて、りたはまいにちたのしいです。ままがいなくなったことはまださびしいけど、そんなときはだれかがはげましてくれて、すぐにげんきになれます。それに、さいきんはままのことをおもいだすとげんきがでるようになりました。「りたがままをわすれなければ、ままはずっとりたのそばにいてくれる」って、あれくせいにおしえてもらったからかもしれません。
 だから、いつもそばにいてくれるままに、ほんとうはこのおてがみもひつようないのかもしれません。なので、さいごにひとことだけかきます。
 これからも、りたと、りたのだいすきなみんなのことをみまもっていてください。

りたより














目が! 目が~!!
そろそろリタっち成長させようかな……。

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